第1章
構造的、周期的な緊張
労働力市場の変動に適応していくには、働く側と企業側の力のバランスの変化を認識することが鍵となります。
働き方の新たな「ネクストノーマル」は、周期的圧力と構造的圧力の相互作用、そしてこうした圧力が従業員と企業の意思決定に与える影響によって形成されます。企業の場合、高インフレという現実や、経済の減速と市場需要の低下、地政学的な不安定さ、人材パイプラインの確保の必要性などが意思決定に影響を及ぼしています。
従業員も、意思決定において経済情勢の影響を受けています。2023年上半期を通じて多くの市場で実質賃金の下押し圧力が続きました。一方、従業員は、労働力の高齢化と縮小という現実にも対応し始めています。予想によると、2030年までに適切なスキルを持った人材の不足により、満たされない職務の数は、8,500万に達する可能性があります。これは、新しい仕事の誕生や生成AIなどのテクノロジーの登場により、関連する新しいスキルを身に付けた人材の需要が高まり、それ以外のスキルの需要が減少することによるものです。
現在の市場の状況を異なる観点から分析すると、企業と従業員がお互いの課題や想定される行動をどう捉えているのかについて理解を深めることができます。例えば、企業は、組織の財務面の課題を、従業員よりも敏感に認識しています。本調査結果によると、ビジネスリーダーの61%が、会社は成長または収益面の圧力に直面していると回答したのに対し、これに同意する従業員は47%にとどまっています。こうした認識のギャップは、地域、業界、世代によってかなりばらつきがあります。これには、各属性集団における経済の不安定感や健全性が影響している可能性があります。
企業(57%)はまた、従業員(47%)よりも、「経済情勢の悪化で従業員が転職する可能性は低下するだろう」と考えている傾向があります。これは、労働市場の流動性や、従業員を新たな機会へと駆り立てる要因となっている、(より良い金銭報酬だけでなく福利厚生費なども含めた)トータルリワードを向上させたいという従業員の志向の強さを、企業が過小評価してしまっていることによるものと思われます。今後12カ月以内の退職を検討している従業員の割合(34%)は、2022年の調査時(43%)と比べ減少したものの、依然、高い水準にあります。賃金は、引き続き従業員にとって最大の関心事となっていますが、企業側は3番目に位置付けています。
トータルリワード・プログラムについては、ほとんどの従業員(80%)と企業(79%)が、中程度から大幅な変更の必要性を感じています。ただしいかなる変更も、最終的に社内外のニーズに合ったものでなければなりません。トータルリワードの考慮事項は、例えば休暇、感謝・賞賛、ウェルビーイング、健康、退職などの制度に及びます。そこで重要となるのが、市場のベンチマーキングと社内調査です。企業は、この双方の調査結果を基に、従業員への提供価値(EVP)を強化し、人材の引き付けや維持・確保に資するオファリングを構築することができます。EVPという大きな目標に合わせてトータルリワード・プログラムを再構築することにより、変化や変革、新しい働き方、リーダーシップ戦略などに対する従業員の意識にポジティブな影響をもたらすことが期待されます。
労働市場における力のバランスは、従業員に有利という見方が過去3年間を通じて8%増加したものの、従業員も企業も、企業側に有利な方向へ若干戻ったと感じています。また従業員自身も、労働市場における働く側の影響力について若干自信の低下を感じています。昨年度の調査では37%の従業員が働く側に有利であると回答しましたが、今回の調査ではその割合は31%に減少しました。
企業は、市場における力が高まったことを認識していますが、依然として人材や需要の高いスキルの獲得について懸念を抱いており、働く場所の分散化が進む中で生産性をどのように維持していけばよいか思案しています。新しい人材の引き付けと既存の人材の維持・確保は、企業が特定している「ワークフォース(労働力)に関するリスク」の首位と2位を占めており、従業員の報酬は3番目に位置付けられています。一方、従業員にとっての最大の関心事は、報酬の水準と昇給であり、自身の能力の維持・確保、心身の健康、ウェルビーイングがそれに続きます。企業がこれらのリスクに対処するには、ハイブリッド勤務やリモート勤務、不動産(オフィス)の活用方法、先端技術、新たに求められるスキルなど個々の課題の対応策を包括的な戦略に織り込むことができるかどうかが鍵となります。
第2章
ハイブリッドな職場環境の再構築
ハイブリッド型の柔軟な働き方は依然として魅力的な労働条件として認識されていますが、不動産(オフィス環境)の現実は複雑さが増しています。
「ネクストノーマル」関連の調査データによると、従業員は、依然ハイブリッドワーク志向が強く、物理的なオフィスでオンサイト勤務に完全に戻ることには消極的です。しかし、そうした意識を変えるための方針や具体的な取り組みはまったく見られません。
難点は、「ハイブリッド」な働き方の定義付けです。
ナレッジワーカーの場合、分析ツールが完備されたプロフェッショナルなオフィス環境で自身の専門知識を駆使しながら仕事をするというのが従来の働き方として主流でしたが、現在は企業側(47%)もナレッジワーカー側(37%)も、週2~3日のオフィス勤務を最も好む傾向が見られます。選択できるのなら、半数のナレッジワーカーが出社を週1日までにとどめたいと考えており、34%は完全なリモート勤務を希望しています。しかし、ナレッジワーカーのフルリモートについては、わずか5分の1の企業しか前向きな姿勢を示していません。
従業員の意識は、業界、国・地域、年齢、性別によって大きく異なります。例えば、女性はフルリモート志向(49%)の割合が高い傾向があり、ハイブリッド志向(41%)がそれに続きます。一方男性の場合、ハイブリッド勤務(42%)とフルリモート勤務(43%)の志向の差はほとんど見られません。セクター別では、金融サービスと医療・ライフサイエンスの従業員(52%)は、エネルギー分野の従業員(37%)よりも、フルリモート勤務を好む傾向が見られます。
ハイブリッド勤務とリモート勤務の現実は、チーム間のコミュニケーションや文化醸成の在り方を塗り替え、さらには個人の自己表現方法にも変化をもたらしています。例えば、72%のビジネスリーダーがオンライン会議でいつも顔出ししていると回答していますが、同様にカメラをオンにしている従業員はわずか49%程度です。リモートワークにおけるスケジューリング、顔出し、ツールの柔軟性は、従業員の物理的オフィスとの関わり方にも影響を与えています。オフィスは、もはや唯一かつ通常の働く場所ではなく、ソーシャルなつながりやチームビルディング、企業文化的エクスペリエンスなどのための目的地あるいは拠点として捉えられる傾向が高まっています。従業員は、「共同で作業するためのスペース」あるいは「さまざまな仕事やプロジェクトを展開する場所」といった、オフィス自体のどんな物理的特徴よりも、「同僚とのソーシャルなつながりを維持することができる場所」としてオフィスを重要視しており、それがオフィス出社の最大の動機付けになっています。
職場環境がどんなに近代的で整備されているとしても、オフィスを社交の拠点として捉える考え方は変わりません。つまり、高品質な不動産に投資するだけでは従業員を引き付けるのに十分ではなく、他に考慮すべきメリットがあると考えられます。
「Aクラスのオフィス環境(ビジネスの中心地区に位置し、近代的な設備が完備された最高品質の高級不動産)を提供されている」という回答者のうち、完全なリモート勤務を希望する従業員の割合は、そうした高級なオフィススペースで完全なオンサイト勤務を希望する従業員の2倍以上でした。一方、整備が行き届いていないCクラスのオフィス環境(たいていは比較的安価で築年数が古く、さまざまな改修が必要となる不動産)を提供されている回答者の場合、働く場所に対する志向の違いはそれほどありませんが、オンサイト勤務志向がやや多く見られました。
こうした調査結果は、上位クラスの不動産を持つ企業だからといって従業員のオフィス利用を促すことができるわけではないということを物語っているように見えるかもしれません。しかし、Aクラスの不動産を持つ企業は、Cクラスのオフィスを持つ企業に比べ、組織文化、生産性、離職率などにおいて実質的なメリットを実感しています。いずれにしても組織は、従業員の意識調査や従業員向け企業文化診断などの実施を検討するとよいかもしれません。そうすることで、従業員の働き方や組織文化の健全性について現状を見極め、そうして得たインサイトを基に、自社が目指す成果につながる不動産戦略を打ち出すことができるでしょう。
ハイブリッド勤務やリモート勤務を取り入れた勤務体制への移行を進めていても、その企業が、物理的なインフラに対応した規定基盤を十分に構築しているかどうかは不明です。
従業員の地理的な分散化 が進めば、企業は、リモート勤務の期間と場所によっては意図しない税務やコンプライアンス関連のリスクにさらされる可能性が高まります。しかし、リモート勤務に起因する税務リスクへの対応を最も重要な懸念事項として捉えている企業はわずか14%足らずです。一方、各国の政府は、リモート勤務関連の法規制やコンプライアンス要件の整備を積極的に進めています。さらに興味深いことに、こうした税務リスクに懸念を抱いている従業員もわずか7%でした。
デジタルツールとテレワーク環境の大幅な進化はまた、従業員と企業の短期出張に対する考え方にも影響を及ぼしています。企業側は、56%が、リモートワーク推進の一環として、出張やモビリティ関連の支出を将来的に中程度から大幅に削減することを考えています。一方従業員側は、半数以上(52%)が2023年に中~高頻度の出張を予定しており、そうした出張に意欲的な従業員は60%に上ります。
先端技術の広範な採用とともに、柔軟な働き方やリモート勤務、国境を越えた働き方などを取り入れる傾向は、今後ますます高まることが予想されます。そこで重要となるのが、仕事におけるヒューマン・エクスペリエンスにフォーカスした人材戦略です。こうした人材戦略を展開することで、企業は、潜在的リスクを考慮しながら、従業員の可能性を最大限に引き出すことができます。
第3章
生成AIの登場とスキルギャップ
デジタルを活用した仕事を広範に再構築するには、新たなテクノロジーを理解し、そのテクノロジーの可能性を駆使することができるスキルを持った人材を育てることが鍵となります。
生成AIは、最近になってテクノロジー議論の主流に登場するようになったばかりですが、デジタルツールを活用した仕事の広範な再構築に破壊的な変化をもたらすと期待されているディスラプティブテクノロジーです。生成AIは、異なるデータストリームを解釈・統合し、特定のスタイルで独自の出力を生成することができます。このテクノロジーの強みの1つは、仕事の「一次ドラフト案」を作成することができることであり、人はその内容を確認し最終化するだけで済みます。
生成AIの利用可能性は、まだ模索状態にありますが、同テクノロジーが労働市場、キャリアパスや研修体系、仕事の現実などに与えるインパクトは非常に大きいと予想されています。AI(人工知能)と機械学習分野のスペシャリスト職の求人は、今後5年で急増する見込みであり、従業員も企業も、同テクノロジーにさまざまな期待を寄せ、投資を始めています。
本調査結果によると、生成AIにより、生産性が向上し新しい働き方は一層広まっていくと感じている企業と従業員は、実質でプラス33%でした。さらに、同テクノロジーを活用することでより柔軟な働き方が可能になると予想している回答者は、実質でプラス44%です。しかし、企業の84%が、生成AIを「すでに活用している」また「今後12カ月以内に活用する予定である」と回答したのに対し、同様の回答をした従業員は49%足らずです。こうした調査結果を踏まえると、生成AIに対する絶大な期待感は、実際の使用経験からではなく、同テクノロジーの潜在的魅力に起因するものであるかもしれません。
驚くことではないかもしれませんが、テクノロジー、メディア、テレコム(TMT)セクターの従業員(73%)と企業(91%)は、1年以内に生成AIを活用し始める可能性が高い傾向にあります。
生成AIが生産性や柔軟な働き方にもたらす潜在的影響に期待が寄せられていますが、同テクノロジーが、需要の高いスキルと労働市場変動の不均衡を根本的に変えることはないでしょう。
生成AIのような強力なツールが利用可能になっても、従業員が退職する可能性は常にあり、企業は、今後も従業員のアップスキリング/リスキリングに取り組んでいく必要があります。従業員もまた、技術的な進歩に備えるだけでなく、競争の激しい求人市場で自身の強みを維持するために、スキルを構築する重要性を再認識し始めています。
学習とスキル開発が企業にとっても従業員にとっても最重要課題であることを踏まえると、組織は、現在と将来における従業員の働き方や仕事の進め方を考慮しながら、取り組むべき領域の優先順位を決定する必要があります。驚かれるかもしれませんが、生成AIに対して肯定的な見方が高まりを見せ、同テクノロジーの使用増加も見込まれているにもかかわらず、生成AIスキルの強化については、すべての回答者にとって優先度が低いままであり、生成AIスキルのトレーニングを最優先課題の1つに挙げた従業員と企業は、それぞれわずか17%と22%です。一方、リモート勤務で求められるスキルの向上やツールに関する研修については、従業員(41%)も企業(52%)も最重要課題に位置付けています。生成AIの有望性をもってしても、大部分の従業員と企業は、生成AIだけにフォーカスしているのではなく、仕事全体のエクスペリエンス向上につながるスキルを獲得したいと考えています。
仕事に関するこうした新たな現実は、ワークフォース関連の意思決定においてアジリティと明確な目的意識が不可欠であるということを強調するものです。このため、組織は、生成AIのような分野で求められる技術的スキルだけでなく、クリティカル思考やレジリエンスなどのソフトスキルも含め、自社のスキル評価を行う必要があります。また、組織全体の人材戦略が、ビジネス目標やDE&I (ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス)、信頼に基づく組織文化などにどの程度有効であるのかを測定することも必要です。
第4章
People-firstを原点にした働き方再構築
ビジネスリーダーは、より強力なチームの構築とより良い成果の創出に不可欠な「信頼」と「共感」の重要性を過小評価してはいけません。
働き方の「ネクストノーマル」には、企業と従業員が社内外の複雑な圧力に直面しているという特徴があります。こうした圧力はどれも、人のニーズとエクスペリエンスに深く焦点を当てたソリューションが必要です。
ディスラプションと変革の時代である今こそ、ビジネスリーダーは、「私」ではなく「私たち」というアプローチへとかじを切る必要があり、そうしたアプローチの下で、協働やコンセンサスの促進に取り組み、最終的に信頼に基づく文化を構築することが何よりも重要となります。
ワークフォース関連の意思決定において人を優先に考える組織では、より良い成果が顕著に表れています。こうした組織(約20%)は、リーダーシップ、DE&I、スキル構築、働き方などの主要分野で成果指標を満たしています。
その成果指標は、以下の通りです。
- 従業員は、リーダーを信頼し、リーダーから信頼され、エンパワーされていると感じている
- リーダーシップ陣は、従業員を個人として尊重している
- 従業員は、仕事で同僚とのつながりを感じ、良い刺激を受けている
- 従業員は、適切に情報共有されていると感じている
- 多様性に富む人材で構成されている
- 将来を見据えたスキル構築に取り組んでいる
- リーダーシップ陣は新しい働き方に適応している
上記の成果指標を満たす組織は、指標を満たしていない組織よりもはるかに優れた成果を挙げていることが、調査結果で明らかになっています。例えば、従業員が所属チームとのつながりを感じる可能性は2.5倍高く、業務量のバランスが取れていると回答する可能性も4倍高くなっています。また、こうした組織では、強固なレジリエンスを象徴するものとして、会社は将来的に必要となるスキルに適応し構築することができると回答する従業員の割合が5倍高く、必要な人材を引き寄せることができると楽観的である割合も2倍高い傾向があります。生産性と組織文化に関する指標についても、非常に高い成果を挙げています。
「先駆的」組織に見られたより良い成果
人材
+140%必要な人材を引き付けることができるという楽観的な見方が多い
生産性
+204%過去2~3年間で会社の生産性が変化・向上したと回答する割合が高い
リーダーシップ
+131%過去2~3年間で外部圧力に適切に対応することができたと回答する割合が高い
新しい働き方
+187%柔軟な働き方ができる体制が確立していると回答する割合が高い
仕事関連のツールやテクノロジーが人材を取り巻く環境に変革をもたらしているとしても、組織は、人を中心に据えたインクルーシブな行動こそがより良い成果をもたらすことができるということを認識する必要があります。周期的、構造的な課題に前向きな勢いをもって対処するには、アジャイルでレジリエントなワークフォースが不可欠であり、人を中心に考えられていない断片的なソリューションでは、そうしたワークフォースを創出することはできないでしょう。
「ネクストノーマル」は、働き方の再構築の在り方について新たな見通しを示しています。組織は、この見通しに基づいて、以下の5つの領域で、戦略を進化させることを検討する必要があります。
「Great Rebalance」を意識した戦略の再構築:
組織は、周期的な市場関連の課題に対処する能力を構築する必要があります。また、トータルリワード、ハイブリッドな働き方、組織文化など従業員の優先事項における構造的な変化には、適応力とレジリエンスが不可欠であるということを理解することも必要です。従来の人材戦略モデルや組織構造では、現在のダイナミックな環境を乗り切ることはできません。
EVPと研修体系を通じた社内外労働市場の均等化:
需要の高いスキルを確保できるかどうかは、組織が既存の従業員または将来の潜在的従業員の中から人材を見つけ、育てる能力を有しているかどうかによります。そのため、企業は社内外の労働市場環境において、トータルリワードとキャリアに均等性を確保する必要があります。これは例えば、トータルリワード・パッケージをインフレに対応させるための社内調整や、多様性に富む全従業員のウェルビーイングを促進するトータルリワード・プログラムの再考などが含まれます。また、人材の調達やアップスキリング/リスキリングの対応策を改善することで、人材の定着とケイパビリティの成長を促進することができます。
信頼に基づくPeople-first(人を中心に据えた)の文化の定義付けおよび醸成:
ビジネスリーダーは、より良い成果を促進する「信頼」と「共感」の重要性を過小評価してはいけません。「私」という考え方から脱却し、共創を軸とする「私たち」という考え方へと意識を変え、チーミングを実践することができれば、生産性とつながりを解き放つことができます。信頼を築く上でまず重要となるのは、透明性の確保と、さまざまなデータソースから得られる行動、考え方、および成果の測定です。その指標を理解することで、「私たち」および「組織」のミッション、パーパス、文化を持続可能なものにし、最大限に展開することが可能になります。
従業員を引き付けるオフィスとエクスペリエンスの規模・質の最適化:
働き方の柔軟性は、とりわけナレッジワーカーにとって基本的な期待事項となっており、本調査回答者の3分の1以上が完全なリモート勤務を望んでいます。組織は、効率性の観点からリモート勤務に適している職種を見極め、接点となる場や機会)、テクノロジー、プロセスを整備して、こうしたニューノーマルに求められるハイブリッドな働き方、学習機会、組織文化を構築する必要があります。ワークフォースモビリティに関しても、税制や法規制を無視するといった現実逃避的なアプローチでは成果を挙げることはできません。国・地域をまたぐ人材調達は、なるべくリスクにさらされないようにするためのガードレールが必要ですが、柔軟な働き方のメリットを最大限に引き出すことができるため、企業にとってもモバイルな従業員のエクスペリエンスにとっても有益です。不動産は従業員の意識を左右する主要な要因ではありませんが、企業文化や生産性、従業員の定着意向にそれなりの影響を及ぼします。そのため、ソーシャルなつながりや協働を促進する、規模・質ともに適切に設計された不動産を持つことが、高い投資対効果(ROI)につながります。
生成技術が浸透する中でも人を優先:
生成AIの可能性に対する楽観的な見方や、テクノロジーのシームレスなユーザーエクスペリエンスの重要性は、企業と従業員に、メリットや能力、安全性などに関して新たな期待を共同で創り出す機会をもたらします。先端技術は、サイバーセキュリティやコンプライアンス、ワークフォースエクイティ関連の課題が伴うものであり、また、テクノロジーを活用したからといって、企業が直面している構造的な人材課題を完全に解決できるとは限りません。新しいツールのメリットを最大限に享受できるようにするには、研修の機会を提供し、従業員のエンパワーメントを高める必要があります。そうすることで企業は、新たなケイパビリティを受け入れながら、常に人を中心に据えた働き方を再考することができます。
サマリー
数年に及ぶディスラプション(破壊的変化)は、働き方の現状を塗り替え、企業側と働く側の、優先事項や圧力、将来の見通しに対する考え方に顕著なギャップをもたらしています。これは、周期的、構造的な懸念事項が大きく関係しています。両者の意識のギャップを埋めるためには、ビジネスリーダーは、こうした状況を労使関係のバランスを大きく変化させる「Great Rebalance」の機会と捉え、最新のツールやテクノロジーのメリットを取り込みながら、人を中心に据えた、アジャイルでレジリエントな組織文化を促進する必要があります。