今こそ、志を行動に移す時、そして説明責任を果たす時です。
社会で企業が果たすべき役割についての論争は、今に始まったことではありません。しかし、ここにきてこれを重視する動きが強まっています。昨年8月、ビジネス・ラウンドテーブルに所属する180名を超えるCEOが、株主第一主義を見直し、企業はより幅広いステークホルダーに対する責任を負っているという考えを支持すると宣言しました。この宣言は、名だたるビジネスリーダーが転換期を迎えているということを示す明確なシグナルと言えます。
重視する対象を広げる必要性を認識し、従業員と地域社会、顧客をより重んじるようになった企業が増えていることは喜ばしい限りです。もちろん、これを単なる志のままで終わらせるわけにはいきません。長期的価値の創造に取り組む中で、志を行動に移すためにビジネスリーダーが今できることが4つあります。
1. 従業員を巻き込む
従業員は企業にとって最も重要なステークホルダーの一員であることをビジネスリーダーは知っています。最大の資産の1つであり、最も重要な投資先の1つでもある従業員全員の積極的な関与なしに、長期的価値を創造することはできません。何を行うにしても、戦略が成功するかどうかは、それを実行する人材にかかっています。だからこそ、今すぐ、そして長期にわたって従業員の能力を高め、成功を収める上で必要なスキルを身に付けさせるための行動を起こすことが求められています。
従業員、一人一人のキャリアパスに対する考え方を改める必要があると認識しなくてはなりません。テクノロジーの進化のスピードは速く、新たなスキルが常に求められています。キャリアに備えるということは、もはや一度きりの準備で済むことでも、決まりきった手順を踏むことでもありません。自分の役割を常に評価し直し、見つめ直さなければ、変化のスピードについていくことすらできないのです。
再教育プログラムの体験などを通して、テクノロジーによるディスラプションを余儀なくされるこの社会では、従業員が成功を収めるための支援を行う上で、組織は重要な役割を果たしています。投資家や規制当局、ビジネスコミュニティは、人材やスキル、能力の展開を戦略的な資産と捉えており、人件費や多様性、企業の魅力、離職率、研修、エンゲージメントといった指標は、長期的で持続可能な経済的成長を促す中核的な要素となっています。
2. 長期的価値を測定し、報告する
これらのイニシアチブ全てに共通する認識があります。ステークホルダー重視の姿勢を長く根付かせるには、短期的な業績だけに着目して価値を評価する古い慣習から脱却する必要があるということです。
もはや、四半期ごとの収益は企業の長期的価値を正確に反映する指標ではありません。最終的には人材とイノベーション、社会に対する影響力が財務業績を左右するのです。今必要なのは、人的資本、イノベーション、社会に対する影響力などの無形資産を評価し、これらの資産と、事業目的から導かれた目標とを結び付けることです。
そのために必要な基準や指標、評価ツールは無数に存在するものの、経営陣や投資家は、その複雑さ、一貫性のなさ、比較できる対象がないことに頭を悩ませ続けています。だからこそ、コラボレーションとエンゲージメントが非常に重要になってきます。この2つによってコンセンサスが得られ、物事がシンプルになり、ひいては私たち全員が、すべてのステークホルダーに向けて長期的価値を創造するために貢献できるようになります。
3. ビジネスコミュニティを巻き込む
長期的価値を見据え、幅広いステークホルダーを取り込むことによってビジネス社会の新たな基準に影響を与えようとするのであれば、1つの組織が単独でこれを行うことは不可能です。一致団結して取り組まなくてはなりません。
幸いなことに、この課題に向けて協働する機運はすでに高まっています。
30社を超えるグローバル企業(運用資産総額約30兆米ドル)が、Embankment Project for Inclusive Capitalism(EPIC)に結集しました。その目的は、企業が創造する長期的価値を測定し、その報告を行えるようにする枠組みづくりとテスト運用です。Coalition for Inclusive CapitalismとEYを中心に、資産を形成する立場、管理する立場、所有する立場にある全員が1年半にわたって一丸となり、何が長期的価値を創造するのか、そして、それをどのように測定するのかについてコンセンサスを模索しました。
その過程で学んだことの多くが、世界経済フォーラムの国際ビジネス評議会(IBC)が開催する重要な協調的取り組みに活かされています。世界経済フォーラム(WEF)のクラウス・シュワブ会長と、IBC会長でバンク・オブ・アメリカCEOのブライアン・モイニハン氏のリーダーシップの下、WEFとBIG4が一致団結して、持続可能な開発目標の達成に向けた進捗を含め、長期的なサステナビリティとこれらが国際社会に与える影響を測るアプローチの統合と簡素化に取り組んでいるところです。現在、グローバル・レポーティング・イニシアチブやサステナビリティ会計基準審議会など、基準を策定する機関や、FCLTグローバル、ジャスト・キャピタル、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)をはじめとした、長期的価値とステークホルダーの影響力を測る取り組みを主導する団体と統合し、足並みをそろえるよう努めています。
私たちが今必要としているのは、意見を一致させ、アクションを起こし、最終的な説明責任を果たすことに焦点を当てたコラボレーションとエンゲージメントです。よりインクルーシブな未来の創出を願うのであれば、力を合わせ、共通のビジョンを構築し、共に取り組んでいかなければなりません。
4. コミュニティーを支え、環境を保護する
地域社会と環境もまた、主要なステークホルダーの1つに位置づけることがビジネスリーダーには求められます。若者の失業率は全世界で、成人の3倍に上ります1。自動化が進み、2030年までに全世界で8億人が仕事を失うという試算もあります2。気候変動問題に目を向けると、パリ協定で定めた目標にほど遠いのが現状です。
このような状況が、とてつもなく大きな社会的課題であることは言うまでもありません。その一方で、企業が世界をより良くする力になる、またとないチャンスを生み出してもいます。
企業はこれまで、社会で常に独自の役割を果たしてきました。他では容易にまねできない方法で市場を形成し、地域社会に影響を与える力を持っています。今こそ、この力を利用して地域社会が抱える最大の課題に対処し、信頼を取り戻し、世界全体の経済を後押しする手助けができます。
それはまた、社会が私たちに期待することであり、その期待はますます高まっています。事実、エデルマンが実施した第19回信頼度調査「2019 エデルマン・トラストバロメーター」では、76%が「CEOは政府から変革を迫られるのを待つのではなく、自ら変革を主導すべきだ」と回答しています3。
私たちは今、素晴らしい時代を生きています。これまで想像もつかなかったようなツールと知識、スキルを手にしており、これらの資産をうまく活用すれば、世界が抱える最も困難な社会問題と環境問題の多くに対処することができます。EY Ripplesは、EYが事業を展開する地域社会でリーダーシップを担うための取り組みです。150カ国において、EYの豊富な人材とノウハウ、強力なネットワークを活かし、最終的には、長期的価値の創造と「より良い社会の構築を目指すために」というEYの理念の実現に取り組んでいます。同時に、まず足元に目を向け、EYのカーボンフットプリントを評価し、排出量を減らすために必要な取り組みを行っているところです。
今はビジネスにとって大きな転換期です。ビジネスの成功は収益だけで決まるのではないことが、明らかになっています。自分たちを取り巻くコミュニティーの長期的な繁栄を支えることもまた、成功の重要な要素なのです。もはやCEOは、ビジネスにとって有益なことと、ステークホルダーにとって有益なことのどちらか一方を選ぶ必要はありません。両方を選ぶことができます。またその必要があるのです。