また、DCが大規模な場合には、前述のステークホルダーに加えて、DCビジネスの資金提供主体(金融スポンサー)として総合商社や不動産会社、不動産PEファンドが関わることが多くあります。DC事業者が資金負担軽減のために金融スポンサーに参画を依頼する場合や、その逆に、金融スポンサーが先に適切な土地を確保した上で、DC事業者に提案や持ち掛けをすることもあります。また、昨今では金融スポンサーがDC事業者に対して出資または買収をした上で、不動産および資金提供のみならず、DC不動産管理や運営管理を行う動きも出てきています。
4. DC市場を取り巻く環境変化
このように多くのステークホルダーが存在するDCビジネスですが、今後DC市場を取り巻く環境はどのように変化するのでしょうか。
外部環境変化を踏まえることで、DC市場で自社がどのように事業展開するか、どのように新規参入するかを検討する糸口になると考えられます。
① グリーン対応
データトラフィックの増加を背景にDCは大規模化が進み、消費電力が増大しています。カーボンニュートラルなどのグリーン化に対する全世界的な要請は進むものの、日本ではいまだ再生可能エネルギーの供給率も低く、カーボンフリー化は道半ばの状況です。そのため、消費エネルギーの抑制および効率化といったグリーンDCへの取り組みは限定的です。
一方で、グリーン対応が進む海外の影響を受け、メガクラウド事業者からの要請が急速に広がる可能性があり、対応策を早期に検討しておく必要があると考えられます。
② 政府による地方DC推進
昨今、政府によるDC地方分散化⽅針の打ち出しや補助⾦制度が整備されています。具体的には、DCやIX拠点の地方分散ならびに海底ケーブルの新設に伴う電⼒・通信インフラ整備費⽤の補助金制度です。それにより、DCや海底ケーブルの陸揚局を地⽅に設置する狙いがあります。一方で、地⽅への分散が進展していくためには、投資費用の補填(ほてん)だけでは不十分です。電⼒の冗⻑性確保、低遅延実現のために通信ネットワークの距離・接続性の担保、DC内就労人材の供給、そして何よりもDCユーザーの確保などが最大の課題となります。DCを地方に建設してもユーザーが見つからなくては事業収支が成り立ちません。現状のDCが人口過密エリアの東名阪に集中して存在していることがその証左と言えます。これらの課題を複合的に解決して初めて、DCの地方分散が進むと考えられます。
③ テクノロジー進化による産業構造・ライフスタイルの変化
クラウドサービスの拡⼤に加え、今後はデジタルツインによる⾃動建設ロボット制御や遠隔⼿術、⾃動運転などに用いるデータのエッジ処理、XR(クロスリアリティ)やリアルタイム実況などのコンテンツ増加など、膨⼤なデータをリアルタイムに処理するニーズが拡⼤することが見込まれます。これにより、超高速・大容量・低遅延データ処理へのニーズがより一層高まるものと想定されます。DC事業者やメガクラウド事業者によるDC関連投資は、当面通信トラフィックの集中する関東・関西圏になるものと想定されますが、併せて周辺地域への染み出しやエッジサイドを含む地方への投資が進む可能性もあり、それらの動向に注視していく必要があります。
5. 日本企業がDCビジネスに参入する上で考慮すべき要諦
今後日本企業がDCビジネスに参入する上で、どのような観点に留意し、事業機会を探索していけばよいでしょうか。
事業機会を検討するためのアプローチの参考として、以下に5つの要諦を整理しました。
① 自社ケイパビリティを生かした提供価値・サービスの検討
自社の既存事業・サービスと親和性の高いDC事業領域を見定めて、小さくともまず参入することが重要となります。その事業が橋頭保となり、染み出しにより事業領域や対象となるユーザーを拡大していくことが可能となります。
また、自社の事業領域が大きく異なり、完全なる新規事業参入となる場合は、まずは土地提供を前提とした金融スポンサーとなることも一案です。DCビジネスでは適地確保が最も重要な成功要件です。一方で、多くの大企業が旧工場・倉庫用地などの遊休地をどのように活用するかが悩む点の1つかと思います。マンション・商業ビル開発などにしていた土地をDCとして活用することは新しいCorporate Real Estate戦略として注目されています。このような土地提供を伴う金融スポンサーとしてDC事業に参画し、運営ノウハウを学ぶことで、他事業領域へと展開することが可能となります。その他には、総合商社やDCファンドが組成するプロジェクトに出資して運営ノウハウを学ぶ方法や、既にDC運営に経験のある会社を買収して参入する方法なども考えられます。
② 英語×専門人材の確保
HSDCの主なユーザーであるメガクラウド事業者は、外資系企業です。彼らが国内で事業拡大するに当たって、土地の取得や日本の商習慣に精通し、かつ英語スキルを持った人材の需要が高くなっています。また、DCを運営する上でも、電気・通信などの専門スキルに加え、海外の親会社からの問い合わせ対応などを想定し、英語スキルを併せ持った人材の需要が高まっています。一方で、こうした人材は非常に限られ不足しています。そのため、リスキリングなどを含めた自社人材への投資も事業機会獲得につながる可能性があります。
③ DCビジネスのステークホルダーのインナーサークルへの入り込み
DCユーザーおよびDC事業者の動向を一早くキャッチし、自社としてどのようにアプローチするかを具体化することが重要になります。特に、DCビジネスは限られたプレイヤーで閉じて展開されている傾向が強く、参入障壁が相応に高い業界と言われています。そのため、何らかの領域・サービス提供によって、ステークホルダーのインナーサークルに入り込み、それを起点に事業を広げることが肝要となります。
また、メガクラウド事業者の国内への投資権限が日本現地法人にない場合が多く見受けられます。そのため、メガクラウド事業者の最新動向やニーズを把握するためには、国内だけではなくグローバルでのコネクションの構築が必要になります。グローバルでの大規模な展示会などは、メガクラウド事業者や関連事業者の意思決定者による情報交換の機会となっているため、DC事業への参入を検討する企業は積極的に参加するべきと考えます。
④ 多様な顧客ニーズに応える柔軟な組織体制づくり
急速なクラウドサービスやコンテンツサービスの普及を捕捉するためには、DC開発における投資意思決定の迅速さが重要になります。特にメガクラウド事業者やHSDC事業者からは、柔軟かつ迅速なオペレーションによるサービス提供や、素早い投資意思決定が好まれる傾向にあります。自社が、そのような動きに対応可能な組織体制になっているかを今一度見直してみることが大切です。
⑤ 外部環境変化への対応
テクノロジー進化によりデジタルツインや自動運転、XRなどのさまざまなユースケースが今後生まれると考えられます。その結果、DCの超低遅延や超高速処理のニーズがさらに高まっていくものと考えられます。また、グリーン対応や地方分散へのニーズは現時点で限定的ではありますが、社会的な機運の高まりや政府の方針など、今後の外部環境動向を注視し、自社としての事業展開や投資優先度を見極める必要があります。
このように、DC市場が拡大していくに当たり、日本企業の事業機会は多く存在します。主に一般企業が利用するエンタープライズDC、外資系プラットフォーマーを中心としたメガクラウド事業者がけん引するHSDC、いずれにおいても事業機会として捉え、積極的な参入検討や投資を進めていくことが勝機につながるのではないでしょうか。
6. 終わりに
本稿では、国内外先進事例分析や、コンサルティング支援によって蓄積されたナレッジを基に、今後日本企業がDCビジネスに参入するために考慮すべき要諦を考察しました。一般企業ユーザーを対象とした、エンタープライズDCの底堅い推移、クラウドサービスのさらなる発展を背景としたメガクラウド事業者ユーザーが利用するHSDCの成長拡大、いずれにおいても非常に魅力的な事業環境と考えられます。DC事業参入のために必要な取り組みを、本稿で挙げた5つの要諦を参考にして準備することで、国内DCビジネスを自社の事業機会として捉えることができます。