消費者はデジタルホームに不安を抱いていないでしょうか

執筆者
Tom Loozen

EY Global Telecommunications Leader

Fascinated by the positive impact of telecoms. Passionate musician. Enjoys educating himself on psychology, wine, sports, technology, arts and much more. Husband and father of three daughters.

Adrian Baschnonga

EY Global Telecommunications Lead Analyst

Lead Analyst with deep sector knowledge in technology, media and telecom, gained in professional services and business intelligence environments.

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EY Japan テクノロジーセクターリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

Japan TMTセクターにおいて、デジタルを活用したビジネスモデルおよびオペレーションの変革を支援。

7 分 2022年9月5日

パンデミックの影響が薄れ、生活費が上昇する中、消費者は自宅のインターネット接続やコンテンツとの付き合い方を再考しています。

要点
  • 3分の2近くの家庭が、ブロードバンドプロバイダーのサブスクリプション価格引き上げを懸念している。
  • 多くの消費者がデジタルな世界で過ごす時間の削減を検討しており、27%が利用する配信プラットフォームの数を減らすことを考えている。
  • 回答者の38%にとって、有害なオンラインコンテンツと遭遇することが大きな懸念事項になっている。
Local Perspective IconEY Japanの視点

消費者が⾃宅のインターネット接続やコンテンツとの付き合い⽅を再考する中、事業者は攻めと守りの体制を整備する必要があります

家庭ではテクノロジーへの依存が⾼まり、その傾向は継続すると思われます。一方、生活費の上昇により、消費者はサブスクリプションの値上げの可能性を懸念しており、配信プラットフォーム数の見直しを検討していることが判明しました。また、オンライン上のウェルビーイングと有害コンテンツが、特に若年層ユーザーの間で重⼤な懸念事項となっています。

このような状況下では、事業者は攻めと守りの体制を整備する必要があります。

攻めの観点では、継続的にサービスを利用してもらうため、いかに継続的かつ迅速に顧客体験を高めていくかが重要となります。そのためには、データに基づき顧客体験価値の変化を捉え、柔軟にサービスオプションおよびプライシングを改良するためのロジック、ルールを整備していくことが肝要です。

守りの観点では、有害コンテンツの排除に向けた対策、サイバーセキュリティやデータプライバシー保護を強化していく必要があります。

 

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三浦 貴史
EY Japan テクノロジーセクターリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 テクノロジー/メディア・エンターテインメント/テレコムセクター パートナー

パンデミックにより、家庭ではテクノロジーへの依存が高まりました。その一方で、新たな問題が消費者とサービスプロバイダーとの関係に、さらに大きな緊張をもたらしています。EYの調査「Decoding the digital home(デジタルホームを解き明かす)」最新版では、消費者の半数超がブロードバンドプロバイダーや有料テレビプロバイダーの値上げの可能性について懸念していることが明らかになりました。さらに、38%は、家族がオンライン上で有害コンテンツを目にする可能性があることを憂慮しています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生以降、インターネット接続とコンテンツの必要性は、明らかに増大してきました。しかし、値上げを巡るこのような懸念は、オンラインの安全性とデータプライバシーに対する危惧の高まりと相まって、インターネット接続とコンテンツに対する需要の減少につながる恐れがあります。

したがって、サービスプロバイダーにとって、説得力のある価値提案と、可能な限り円滑で直感的な顧客体験を提供できることが不可欠です。また、データプライバシーと保護認証情報に対する消費者の信頼を高めることも重要です。つまり、前例のない状況の中で消費者がプロバイダーを選択する際、このような資質を備えた企業は非常に有利になるのです。

これを踏まえ、今年の調査から得られた6つの主要な実践的インサイトを以下に挙げます。

1. デジタルな家庭は要求水準が高く、質重視

確実な接続性と優れたコンテンツに対する需要が根強いことは明らかです。10世帯中4世帯超が、パンデミックによりインターネット接続、テレビ、動画配信サービスへのニーズが高まったと回答しています。興味深いことに、43%がこのようなニーズは存続すると予想しています。しかし、生活費の危機的な上昇のため不安が生じています。半数超の世帯がブロードバンドプロバイダー(60%)と有料テレビプロバイダー(55%)が月次サブスクリプション料金を値上げするのではないかと懸念しています。10世帯中4世帯超が、すでにこれらのサービスへの支出が過大になっていること、または、最も良い条件が提供されていないことを憂慮しています。

価値に対して懸念を持っているにもかかわらず、家庭では新しい、より良いエクスペリエンスを求めています。37%がコロナ禍のために新しいデジタルエクスペリエンスへの関心が高まったと回答しています。また、26%が、メタバースなどのインターネット上の没入型エクスペリエンスの新しい可能性を受け入れると回答しています。

 

さらに、地球のサステナビリティの課題に関し、家庭での意識が高まっているため、サービスプロバイダーはグリーン認証についても考慮する必要があります。本調査では、インターネット接続プロバイダーとコンテンツプロバイダーが気候変動とサステナビリティに対処するために十分な対策を講じていないと考えている回答者が39%に上ることが明らかになりました。

2.  消費者の最大3分の1が、オンラインの世界で過ごす時間を減らそうとしている

パンデミックにより一部のデジタルなニーズが高まりましたが、最大3世帯に1世帯が、オンラインの世界で過ごす時間を減らすことを検討しています。

  • 34%が、社会がパンデミック後に正常化するのに伴い、オンライン上で過ごす時間を減らす予定だと回答しています。
  • 33%が、支出の対象を、インターネット接続やコンテンツから他のカテゴリーに移そうとしています。
  • 20%超が、利用する音楽・動画配信プラットフォームの数や、自宅でインターネットに接続されているデバイスの数を減らすことを考えています。

家計の支出への圧迫も一因ですが、多くの消費者は、ここ数年のロックダウン期間と移動の制限が終わった今、自らのニーズを比較検討しています。検討されているのは、オンライン上で過ごす時間や支出額の削減、あるいは好みのプロバイダーへの支出の集中です。興味深いことに、パンデミックの間にそれらの需要が最も増加した国々(カナダ、イタリア、英国、米国)が、需要が最大に縮小するリスクを抱えています。  

企業は、この難局に際し、顧客との関係を強化するために維持戦略を微調整する必要があります。価格設定も手段の1つですが、パーソナライゼーションの高度化の効果についても検討するべきです。

3.  オンライン上のウェルビーイングと有害コンテンツが、特に若年層ユーザーの間で重大な懸念事項になっている

コロナ禍は、データ開示に関して、すでに抱いていた不安を軽減するよりもむしろ悪化させています。パンデミック前に比べて個人データの共有に不安がないと感じている消費者は20%であるのに対し、40%が、個人データのプライバシーについて以前よりも懸念していると回答しています。 

EY Decoding the digital home(デジタルホームを解き明かす)調査

47%

の25歳未満の回答者は、インターネットが自身のウェルビーイングに及ぼす悪影響について考えることがよくある。

また、サービスプロバイダーは、若年層のユーザーはウェルビーイングに関する問題に強い関心を持っていることに注意を払うべきです。25歳未満の回答者の47%が、インターネットの使用が自身のウェルビーイングに及ぼす悪影響について考えることがよくあると述べています。具体的には、有害コンテンツに対する懸念が顕著で、これを最も危惧しているのは若年層のいる世帯です。25歳から44歳までの消費者の47%は、家族がオンライン上で目にする可能性のあるものについて大きな懸念を持っています。 

サービスプロバイダーがオンライン上の安全性とセキュリティーの強化対策を講じなければ、オンラインエクスペリエンスの信頼性向上を図るために他の組織が介入する可能性もあります。EYのレポートによると、59%が政府と規制当局は有害コンテンツの排除に向けて対策を強化すべきだと考えています。また、47%が、オンライン上で一般的にアクセスできる対象を制限するため、インターネットに対する規制を厳格化する必要があるという見解に同意しています。サービスプロバイダーは将来を見据え、この問題に対処するためにどのように協力できるかについて考えるべきです。

4.  消費者は従来のサービスパッケージ以上のものを求めている

消費者が自宅用のデジタルエクスペリエンスを購入する際には、インターネット接続とコンテンツを一括して購入する方法が主流です。しかし、この点で、消費者のニーズは変化しています。半数の世帯では、ブロードバンド接続サービスパッケージにプライバシー・セキュリティー機能を追加する傾向あります。また、最大3分の1の世帯が、スマートホーム(33%)、ユーティリティーサービス(32%)、在宅勤務のための機能(32%)などのサービスを追加する傾向があります。 

このような機能増強を求める声が示しているのは、家庭のニーズがブロードバンド接続と有料テレビやモバイル接続を組み合わせた従来のパッケージの範囲を超えつつあることです。調査対象世帯の半数超は依然として有料テレビが含まれたサービスパッケージを選択していますが、同じプロバイダーからブロードバンド接続サービスと有料テレビサービスを購入する利点が明確ではないと回答する世帯の割合(29%)が増加しています。これに加えて、固定ブロードバンド接続をモバイルブロードバンド接続に替えたいと考えている世帯もあります(33%)。消費者が思い描く理想的なサービスパッケージは、新しい、潜在的に破壊的な影響をもたらす方向に向かって進化していることは明らかです。

ブロードバンドプロバイダーが他の組織と連携することで、新しいサービスの組み合わせの提供や、新しい方法でサービスをパッケージ化することが可能になるかもしれません。29%の世帯に、バックアップオプション付きのブロードバンド接続サービスに対する支出を増やす意向があります。これは、モバイル接続が家庭で新しい役割を果たす可能性を示しています。

5.  サービスプロバイダーに対する好感度は、年齢や国によって異なる

消費者支出への圧迫がかつてないほど大きくなっている今、さまざまな製品・サービスプロバイダーが、家計内のシェア獲得に向けて競っています。私たちの調査では、さまざまなサービスプロバイダーに対する評価が年齢や国によって異なることが、重要な点として示されています。全体的に、ブロードバンド接続とユーティリティーのプロバイダーは、広く認知されているデータ管理者と同様に高いスコアを得ていますが、若年層の間ではスコアは高くありません。25歳未満のユーザーの間で最も信頼されているのは、モバイル事業者とTV配信プラットフォームプロバイダーです。

金額に見合う価値についての家庭の考え方も、国によって大きく異なります。配信プラットフォームは一般的に有料テレビプロバイダーよりも優位に立っていますが、この2者間の差は、フランスとスペインで最も小さくなっています。一方、ブロードバンド接続とモバイル接続のプロバイダーは、金額に見合う価値という点でコンテンツプロバイダーを上回る傾向がありますが、カナダと米国では異なります。ドイツ以外では、スマートホームの価値は、全サービスの中で最も低く認識されています。ドイツでは、ブロードバンド接続プロバイダーとコンテンツプロバイダーをわずかに上回っています。

このような違いが明らかに示しているのは、現在および今後の、個別の市場における認識の重要性です。各企業は、サービスを提供する市場に特有の状況を理解し、それに応じてターゲット顧客をセグメント化する必要があります。  

6. 複雑さ、混乱、自信の欠如が、カスタマージャーニーを耐え難いものにしている

サービスプロバイダーが、変化するニーズに最も適切に対応する方法を検討する際には、積極的に顧客と対話することが不可欠です。しかし、顧客との関係は、あるべき姿とはかけ離れています。消費者は効果的な選択ができず困っていますが、世帯の3分の1が、困っている点として、複雑で、他と比較しにくい価値提案を挙げています。 

特別提供価格に対する反応でさえ、一様ではありません。回答者の過半数(53%)は、これが事業者の選択に影響すると述べていますが、ほぼ同数(48%)が、どのプロバイダーの条件が最も良いのか判断するのが難しいと述べています。ブロードバンド接続か、テレビアプリか、スマートホームかを問わず、インストールと設定のサービスも頭痛の種です。多くの場合、これが最も大きく影響するのは若年層です。

また、消費者の多くは、サービス購入時やサポートを求める際に、デジタルな方法を敬遠します。調査結果によると、モバイルプラン購入時には42%が実店舗を訪れます。また、半数超が、ブロードバンド接続のためにサポートを求める際に、コールセンターの利用を選択します。理解度と自信が十分でないため、コールセンターや店舗のスタッフに説明を求める必要があるのです。

企業がセルフサービス化を進めるには、オンラインサポートの利点を説明し、ウェブサイトやアプリが直感的に簡単に使用できるようにしなければなりません。価値提案をより明確にすることで、購入者が理解しやすくなり、ひいては購入までのプロセスにおける人的サポートの必要性が減少するでしょう。  

消費者とデジタルホームについて詳しく知る

レポートの全文をご覧ください。ビジネス戦略構築に有用な、詳細なインサイトをお伝えしています。

レポートをダウンロードする(英語版のみ)

サマリー

新型コロナウイルス感染症を契機として、家庭でのインターネット接続やコンテンツへの需要が高まりました。しかし、パンデミックの影響が薄れ、生活費が危機的なまでに上昇する中、消費者は自宅のインターネット接続やコンテンツとの付き合い方を再評価しています。サービスプロバイダーが、顧客を引き付け、維持するためには、簡易性、利便性、信頼を基礎とするサービス求める消費者の期待に応える一方で、質重視の高まりに留意する必要があります。

この記事について

執筆者
Tom Loozen

EY Global Telecommunications Leader

Fascinated by the positive impact of telecoms. Passionate musician. Enjoys educating himself on psychology, wine, sports, technology, arts and much more. Husband and father of three daughters.

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