第1章
ファイナンスとパンデミック後のグレートリセット
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は沈静化してきているかもしれませんが、消えることのない痕跡をファイナンス部⾨に残しています。
EY Asia-Pacific Accounting Compliance & Reporting Leaderを務めるVaida Lapinskieneの目から見ると、新型コロナウイルス感染症はファイナンス部門の在り方を決定的に変えました。「新型コロナウイルス感染症前に採用していた古いモデルは全て見直さなければなりません」と彼女は言います。「今やCFOの役割は、最高価値責任者(CVO)の役割へと移行しつつあります。ファイナンス部⾨は⾃部⾨を改⾰し、より幅広い事業運営に価値をもたらすにはどうすればよいのか?リソースの問題に対処し、事業の成長を支えるにはどうすればよいのか?ファイナンス部門からのレポートは、必要な洞察を提供し、それが将来のためのより迅速かつより良い意思決定につながっているのか?ファイナンス部門のリソースの調達方法や、テクノロジーの選定と導⼊方法、サードパーティーとの連携の仕⽅を含めて従来のやり方に頼ることはできないのです」
変革を遂げるためには、どのCFOも過去のデータの報告ではなく、会社の未来を築いていくことにファイナンス部門の力を集中させる必要があるとEY Americas Accounting Compliance and Reporting LeaderのKathy Denardoは考えています。「つまり、ファイナンス担当が優先すべきは、シナリオに基づく予測や、バリュードライバーを把握するための内部・外部のデータマイニングなど、将来にわたって有効な活動だということです。基本的なデータ要件への対処の仕方を含め、規制当局の新たな要件、環境・社会・ガバナンス(ESG)などの課題、税源浸食と利益移転(BEPS)にも備えて計画を立てておく必要があります。また同時に、コスト管理と利益率の向上推進も、これまで通り不可欠です」
EYのTFO調査
85%の企業がファイナンス部門のオペレーティングモデルを変更し、その中心にコスト削減を据えています。
実際、ファイナンス部門に関するEYの調査では、コストという言葉が何度も登場します。EYのTFO調査の対象となったCFOとSFEによると、企業の85%が、ファイナンス部門のオペレーティングモデルを変更し、その中心にコスト削減を据えています。また、企業の88%が今後24カ月間にファイナンス予算の削減を計画しており、その平均削減幅は4.8%です。
ファイナンス部門がコスト削減でリーダーシップを発揮できなければ、他の部門が続くことはないでしょう。
一方、実際にはファイナンス部門がコスト削減を担うのは当然のことであり、より費用対効果の高い仕組み・やり方を主導しなければなりません。「ファイナンス部門がコスト削減でリーダーシップを発揮できなければ、他の部門が続くことはないでしょう」とLiam Keys(Partner, Finance Operations at The European Tax Council with Ernst & Young LLC)は指摘します。「CFOは『ファイナンス部門の今日のコストが100ドルだとしたら、どうすればそれを明日95ドル、1年後に90ドルにできるか』『どうすれば、それをファイナンス以外の全部門に反映させることができるか』『どうすれば、その結果生じる金融資本や知的資本をよりうまく運用し、付加価値を増やすことができるか』といったことを自問する必要があります」
EY Global Accounting Compliance and Reporting LeaderのSergio Garrido Villalbaの頭には、次のような考えがひらめきました。「プロセスの見直しや仕事の進め方の最適化など、コストを削減する方法はたくさんあります。しかし、会社が成長してくると、ファイナンス部門には同じリソースでより多くの成果を上げることを期待することが多くなります。いずれせよ、これはとても大きな課題です」
一方、コストを管理する方策は限られており、多くのファイナンス部門が何年にもわたりその方策を実施してきました。それでは、効率を高めるためにCFOとSFEはどこに着目しているのでしょうか。
第2章
社内シェアードサービスセンターの利用拡大
「場所を選ばない働き方」という新時代において、社内シェアードサービスセンターの一元化は非常に道理にかなっています。
EYのTFO調査によると、CFOとSFEの58%が、社内シェアードサービスセンターの利用による一元化の拡大をファイナンス部門のオペレーティングモデルの優先課題に挙げました。多くの企業が何年も前から、業務量が多く、価値の低い作業をはじめ、特定の部門を外部のシェアードサービスセンターにアウトソーシングしてきたため、一見この結果に驚く人もいるでしょう。
しかし、ベルギーのErnst & Young LLCでEY EMEIA Accounting, Compliance & Reporting Leader and Partnerを務めるPhilippe Verhoevenは、今回のパンデミックにより、シェアードサービスセンターを最大限に活用する最善の方法を再考したCFOが多いとみています。「国や地域を問わず従業員がリモートワークをするようになり、企業は全員が同じ物理的空間で働く必要がなく、従業員がそれぞれ違う国や地域にいながら同じ役割を果たす、実質的にバーチャルシェアードサービスセンターと言うべきものに移行できることに気づいたのです」
これにより、サービスセンターを低コスト国に設置したときに生じる言語や人材面の課題の一部を回避することもできます。「例えばインドでは、ノルウェー語、ポーランド語、トルコ語などの言語で教育できる人材を探すことは非常に困難であるため、ネイティブスピーカーをサービスセンターに異動させなければなりません」とGarridoは言います。「人材という観点から考えると、これは必ずしも魅力的な選択肢ではありませんでした。リモートワークは、この課題を克服する一助となるのです」
とはいえ、業務量が多く、価値の低い作業の自動化が進むと、こうした現在の変化が今後、まったく別の問題になるかもしれません。「企業は今、グローバルビジネスサービス組織のあるべき姿を検討しています」とLapinskieneは指摘します。「昔ながらのセンター・オブ・スケールとして、業務量の多い取引処理を非常に効率的にこなす組織であるべきか、それともセンター・オブ・エクセレンスとして、一連のプロセスを管理し、そのプロセスの運用方法、事業への統合の仕方、事業に対する洞察の提供方法の継続的改善を専門的に担う組織になるべきか」
第3章
外部プロバイダーとの連携の仕方を再検討する
ワークフローの量とスキルの有無は、アウトソーシングの決定を左右する最大の要素です。
こうしたシェアードサービスセンターの利用の見直しは、CFOとファイナンス部門のリーダーが外部サービスプロバイダーの最善の活用方法を検討する際の1つの方法にしか過ぎません。実際、アウトソーシングとコソーシングは単なるコスト削減の枠を超えて、よりスマートで包括的なアプローチを取る形で急速に発展しています。
EYのTFO調査によると、CFOとSFEの62%が、今後24カ月以内に一部のファイナンス・税務業務のコソーシングを増やすことを計画しており、77%が一部の活動をコソーシングする可能性が高いと回答しています。上に挙げた2つの例で特に重要な言葉は「一部の」です。ファイナンス部門のリーダーは、最も効果的な方法で業務の最適化をしようとしています。
EYのTFO調査
62%のCFOとSFEが、一部のファイナンス・税務業務のコソーシングの拡大を計画しています。
もちろん、それがどのような内容になるかはファイナンス部門によって異なり、組織の規模、所属するセクター、グローバルな拠点、そして最終的にはより幅広い事業目標によって決まってくるでしょう。一般的に、ファイナンス部門が常に社内で行いたいと考えるプロセスもあるでしょうが、それ以外は実質的にソーシングの議論の対象となります。
どのファイナンスプロセスをアウトソーシングやコソーシングするかを巡る決定は結局のところ規模とスキル、どちらを選択するかの判断になることが多いとGarridoは考えています。「例えば、旅費や買掛金などの処理業務を考えてみてください。適切な管理体制が整備されていれば、こうした大規模アウトソーシングは容易にできます。一方、新たな地域への進出を進めていて、非常に優れたスキルを持つ人材が現場に必要な場合、その人材を確保し、さらにその監督者を置く余裕があるでしょうか、それともパートナーと連携した方がよいでしょうか」
急成長を遂げている企業の場合、バックオフィス部門が事業の成長に追いつかず、長期的な成功を支えることに苦慮しているかもしれません。「あなたがこうした急成長を遂げている組織のCFOなら、真に求められているのは、CEOの右腕となり、資金を調達・管理し戦略を支える投資を優先することです」とKeysは言います。「一方、あなたがあくまでも社内の独り善がりなCFOで、勘定の照合や新たな買掛金担当者を雇用したりしているのなら、このようなことは実現できないでしょう。パートナーとの連携が不可欠となるはずです」
第4章
ファイナンス部門の将来を見据えたテクノロジーへ投資する
ファイナンスチームのメンバーは今後、プロセス、データ、テクノロジーのスキルを有することがますます期待されるようになるでしょう。
ファイナンス部門のサポートで外部プロバイダーが果たす役割の中核を成すのは、急速に進化するテクノロジーの活用です。それにより、付加価値を生みながらコストとリスクを削減できます。しかし、多くのファイナンス部門が最大限のテクノロジーの活用という面で立ち遅れていることは否めません。
EYの「DNA of the CFO」調査によると、CFOの47%が今のファイナンス部門は、将来の戦略的優先事項に適切に対応できる能力を備えていないと回答しています。今テクノロジーに投資することは、将来も通用するファイナンス部門となるための方策だと考えられているのです。
CFOとSFEがファイナンス部門のパーパスとビジョンの実現を妨げる最大の障壁として挙げたのは、データとテクノロジーに関する持続性のある計画の欠如です。これは、今後デジタル化がファイナンス業務の大部分を支えることになるという事実と明らに隔たりがあります。
「市場に出回っているテクノロジープラットフォームやツールの多様性と、新しいツールや機能の導入スピードは驚異的です」とLapinskieneは言います。「しかし、多くの企業にとって、その全てを把握し、自分たちに最も関係するのは何かを見極めることは不可能です。クライアントが取捨選択をし、物事の優先順位を決める必要があるのは、まさにそこだと感じています。デジタル化の過程で、自社で注力したいツールやプロセスは何か、プロセスやテクノロジーのどの部分をパートナーに任せるのがより効果的なのか、を判断しなければなりません」
多くの企業にとっての課題は、限られたテクノロジー関連予算の中、クライアントに直接対応するテクノロジー、ダッシュボード、アプリに組織全体で力を入れ、ファイナンス部門の優先順位をかなり低くする可能性がある点です。一方、CFOとSFEはテクノロジーへの投資を優先事項として掲げていますが、TFO調査によると、今後3年間の投資予定額は平均でわずか310万米ドルです。
新しいテクノロジーの導入を強く求めたとしても、構造化されたデータを持っていなければ、その実現はほぼ不可能でしょう。
どのテクノロジーに注力するかに関して、ファイナンス部門のリーダーが今後3年間の最優先事項として挙げたのは、高度な分析と予測分析です(EY CFO Imperative調査による)。人工知能、機械学習、ロボティクスに対する関心が非常に高まっているかもしれませんが、ファイナンス部門はERPやデータなどの基本要素を正しく理解しておく必要があります。
「最終的にブロックチェーンやAIを導入する前に、データの構造化が必要です」とVerhoevenは指摘します。「では、データが現在どのように保存されているかというと、依然として構造化されていません。そんなことでは、何をするのも難しい。新しいテクノロジーを強く求めたとしても、データが構造化されていなければ、その実現はほぼ不可能でしょう」
テクノロジーを巡る決定は結局のところ「構築する」か「購入する」かの判断になります。ソリューションを構築・導入し、常に更新するコストを考えると、それを実現できる規模を持つ企業は限られています。
それ以外の企業は、自社で構築するよりはるかに速くテクノロジー、人材、インフラにアクセスできるため、アウトソーシングに頼っています。そうすることで、ニーズに応じて成長できる拡張性のあるモデルを構築することもできます。
第5章
ファイナンス部門のスキルギャップを解消するには
ファイナンスチームのメンバーは今後、プロセス、データ、テクノロジーのスキルを持つことがますます期待されるようになるでしょう。
近年、⼈材を取り巻く環境の変化については、さまざまなことが⾔われてきました。ファイナンス部⾨の性質が変化していますが、必要なスキルも同様に変化しています。EYのTFO調査によると、CFOとSFEの96%が、プロセス、データ、テクノロジーのスキルを持つことで、ファイナンスチームの機能を高められると予想しています。
新型コロナウイルス感染症はまた、かつてないほど働き方を大きく変え、リモートワークをする人の数が過去最多となりました。こうした状況が今後も続くと多くの人が予想しており、CFO調査の対象となったCFOとSFEの半数以上が、リモートワーク/フレキシブルワーク制度が増えると思うと述べています。
先に触れたように、企業が直⾯する課題の1つは、新たな領域に進出する際に迫られる、人を雇うのか、パートナーと連携するか、の判断です。その⼀⽅で、ファイナンス部⾨に求められるものが変わってきたことにより、同部門に⼈材不⾜のリスクをもたらしました。その理由をLapinskieneは複数挙げています。
「例えばアジア太平洋地域を見ると、日本などの国で高齢化が進んでいます」と彼女は指摘します。「一方、オーストラリアはパンデミック中、移民労働者が不足していました。また、さらに視点を広げると、いわゆる『大退職時代』が到来しています」
ファイナンス部⾨のリーダーは、適切な報酬やキャリアアップの可能性など、⼈材にとって魅⼒的でかつビジネスに付加価値をもたらすような仕事を作り出すことに⽬を向けなければならなくなりました。これは、給与⾯で競争できない中⼩組織にとって⼀層困難であることは間違いなく、つまり外部からの⼈材調達をする決断をしなければならない、ということになります。
第6章
変革への道
ファイナンス部⾨が複雑さを増す状況を乗り越えるには、パートナーシップやアライアンスのエコシステムが必要です。
これまで述べてきたことは全て、CFOとファイナンス部⾨の困難な現状を⽰していますが、当⾯の⽅向性として今後もさらに複雑化を増していくことは明らかです。BEPSプロジェクトの実施が目前に迫っていますが、これは、ESG報告増加が予想されるのと同様、重要な進展となるでしょう。
ファイナンス部門の変革で最も重要なのは、どうすれば社内で付加価値を生むことができるか、だとDenardoは考えています。「このことが、何を維持し、何を新しいモデルに求めるかを決めると思います」と彼女は言います。「仮に私がCFOであれば、ロードマップを⾒て、⾃分が何に投資をしたいか、アライアンスパートナーに何に投資してもらいたいか、を⽐較検討するでしょう」
ここで鍵を握るのは、このロードマップという考え⽅です。実にさまざまな事態が待ち構え、世界的なパンデミックなど予期せぬ出来事が発⽣する可能性がある今は、特に重要となります。CFOはファイナンス部⾨をどのように変革していきたいのか?また、それを実現するために今何をする必要があるのか?
特に注意すべきなのは、この議論だけを切り離して考えることはできないという点であり、ビジネス全体の⽂脈で捉えなければなりません。「私たちはCEOやCFOと話をしますが、その会話の中で着⽬するのはファイナンス部⾨に加え、組織の戦略的計画です」とGarridoは⾔います。「5年間で事業を50%成⻑させ、新たな国に進出する場合、これを実現させるには、ファイナンス部⾨はそれに伴う作業、必要な⼈材の数、全ての関連コストの⾯で相応の態勢を検討する必要があります」
それを確認せずしてCFOは自動化、コソーシング、シェアードサービスセンターの利用など、最善のリソース調達方法の計画に着手できません。重要なのは、テクノロジーや自動化は特効薬などではなく、人材戦略やプロセス改善とセットにする必要があるということです。
Lapinskieneは次のように結論づけています。「未来のファイナンス部⾨は、パートナーシップとアライアンスのエコシステムを構築することが不可⽋になるのではないかと思います。今後は雇用・労働面の課題に直面し、また多くのファイナンス部門がテクノロジーの変化スピードへの対応に非常に苦労することになるでしょう。急速に変化する社会で、⾃らを中⼼としたエコシステムを構築し、信頼できる戦略的パートナーを持つことが⾮常に重要となってきているのです」
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サマリー
ファイナンス部⾨の変⾰をしようとしているCFOが直⾯する課題とは、テクノロジーの進化や⼈材争奪戦のほか、社内シェアードサービスセンターの利⽤、アウトソーシング/コソーシングモデルの⾒直しなどです。