インダストリアルメタバースを実装する際の課題
インダストリアルメタバースは、製造業における生産性向上や効率化につながる可能性を秘めていますが、それを実行するためには以下のような複数の課題をクリアする必要があります。
- テクノロジー投資と人材教育:メタバースの導入は高度な技術力が必要とされます。AR、VR、AI、5Gなどの新たなテクノロジーに企業としての投資が必要であり、また、それらを活用できる人材の確保と教育が求められます。
- データセキュリティ:メタバースでは大量のデータが生成されますが、それらは企業の重要な知的資産となります。そのため、情報の流出を防ぐためのセキュリティ対策が重要となります。
- ユーザーエクスペリエンスの向上:メタバース導入による効果を最大限に引き出すためには、従業員が使いやすい、理解しやすいインターフェースの開発が求められます。これにはデザインやユーザビリティの専門知識が必要となります。
- 社会的影響への対応:社会全体に対する変化や影響に対する対応も必要です。具体的には、テレワークやリモートワークの普及による働き方の変化、教育のデジタル化などの動きに対応できるようなビジネスモデルの構築が求められます。
d-strategy,inc 小宮氏は、インダストリアルメタバースのメリットと課題について、以下の様に述べられています。「現実空間で実施する前時点からのシミュレーションや可視化により、組織や企業を超えて連携を行えるようになることや、品質安定化、変化に対応する柔軟なオペレーションを実現できることが大きなメリット。また、それらにより製品設計やライン・工程設計、オペレーションなどの暗黙知になっていたノウハウをデジタル化して熟練者から他の社員に継承することや、マザー工場から新興国へのオペレーション移転などがしやすくなる。さらに、ノウハウをデジタルツインで可視化することで、他企業に効果的に伝えてノウハウをソリューション外販することも可能となってきている。デジタルツインは組織横断での効果や、中長期でのオペレーション変化が大きな効果。日本企業としては短期的な売上増やコスト減などのROIにもとづいて意思決定しがちで、かつ投資予算も個別の組織単位であることが多い。『現在のオペレーションで現場はなりたっている』と判断しがちだが、今の体制やオペレーションが高齢化・人材不足の中で維持できるのかといった中長期視点や、特定の部署の個別最適化を超えて設計-生産技術-製造-メンテナンスなど部門を超えた効果を全体最適で検討する必要がある。
今後のメタバースの展開には、これらの要素を全て考慮に入れた戦略が必要となるでしょう。これらの課題を上手に乗り越えることで、企業は新たなビジネスチャンスをつかむことができると考えます。
インダストリアルメタバースの実装に必要なデジタルトランスフォーメーションとは?
インダストリアルメタバースの実装に必要なデジタルトランスフォーメーションとは何であり、またそのために企業が取り組むべき事項についてまとめます。
長期的な目的やビジョンの明確化
インダストリアルメタバースの実装を進める企業が最初に確認すべきは、その長期的なビジョンであり、それがどのような形で企業の未来像に影響を及ぼすかを定義する必要があります。従来のビジネスモデルを根底から変えるかもしれないパラダイムシフトであり、新たな技術とビジネスの未来とが融合する方向性を長期的に見極めます。インダストリアルメタバースを実装するためには、ITインフラの強化、スタッフのスキルアップ、経営理念の更新、クラウド導入などさまざまな施策が必要となります。そのため、これらを適切に計画し、経営者自身がリーダーシップを発揮して進める必要があります。また、実装のプロセスにおいても、各部門やステークホルダーとの連携を密にすることが要求されます。これら全ての要素が、企業のビジョンと直結し、具体的なアクションとなって初めてインダストリアルメタバースの実現につながります。したがって、インダストリアルメタバースの実装においては、具体的な技術導入だけではなく、ビジョンの提言や経営計画の長期化、各部門との連携など、組織全体の変革と、未来をリードするための戦略的な視点が必要となります。
ここでリコーグループが進める「Digital Manufacturing」について、ご紹介します。
働き方改革の流れ
リコーグループでは、コロナ禍以前からリモートワーク制度が導入され、生産現場でも働き方に関する議論が起こります。その中で「リコー生産 2030 あるべき姿」をバックキャストでビジョンを描きDigital Manufacturing戦略を構築されました。それが下記図表2になります。
図表2: