2. 「AI事業者ガイドライン」の特徴
「AI事業者ガイドライン」にはさまざまな特徴がありますが、以下いくつかを抜粋して解説します。
- 非拘束的な「ソフトロー」であること
- 「リスクベースアプローチ」に基づいていること
- マルチステークホルダーの関与の下、Living Documentとして適宜更新されること
<特徴1. 非拘束的な「ソフトロー」であること>
わが国は2016年4月のG7香川・高松情報通信大臣会合におけるAI開発原則に向けた提案を先駆けとし、G7・G20、OECD等の国際機関での議論をリードし、多くの貢献をしてきました。一方、AIに関する原則の具体的な実践を進めていくにあたっては、次のような課題が指摘されてきました。
- 法律の整備・施行とAIの技術発展及びその社会実装のスピード・複雑さとの間でタイムラグが発生すること
- 細かな行為義務を規定するルールベースの規制を行うと、イノベーションを阻害する可能性があること
これらを踏まえ、「AI事業者ガイドライン」は、AIがもたらす社会的リスクの低減を図るとともに、AIのイノベーション及び活用を促進していくために、関係者による自主的な取り組みを促し、非拘束的なソフトローによって目的達成に導くゴールベースの考え方で作成されています。
<特徴2.「リスクベースアプローチ」に基づいていること>
AIの利用は、その分野とその利用形態によっては、社会に対して大きなリスクを生じさせ、そのリスクに伴う社会的なあつれきにより、AIの利活用自体が阻害される可能性があります。
その一方で、過度な対策を講じることは、同様にAI活用自体又はAI活用によって得られる便益を阻害してしまう可能性もあります。
「AI事業者ガイドライン」は、「リスクベースアプローチ」(リスク対策の程度を、想定するリスクの大きさ及び蓋然性に対応させるアプローチ)に基づく企業における対策の方向が記載されています。
<特徴3. マルチステークホルダーの関与の下、Living Documentとして適宜更新されること>
AIをめぐる動向が目まぐるしく変化する状況下、「AI事業者ガイドライン」は、AIガバナンスの継続的な改善に向け、アジャイル・ガバナンスの思想を参考にしながら、マルチステークホルダーの関与の下で、Living Documentとして適宜更新を行うことが予定されています。
3. 「AI事業者ガイドライン」の対象者
「AI事業者ガイドライン」は、AI開発・提供・利用にあたって必要な取り組みについての基本的な考え方を示すものとなっています。したがって、さまざまな事業活動においてAIの開発・提供・利用を担う全ての者(政府・自治体等の公的機関を含む)を対象としています。
「AI事業者ガイドライン」の対象者である「AI開発者」、「AI提供者」、「AI利用者」の定義は、それぞれ以下のとおりです。
- AI開発者
AIシステムを開発する事業者(AIを研究開発する事業者を含む)
AIモデル・アルゴリズムの開発、データ収集(購入を含む)、前処理、AIモデル学習及び検証を通してAIモデル、AIモデルのシステム基盤、入出力機能等を含むAIシステムを構築する役割を担う。
- AI提供者
AIシステムをアプリケーション、製品、既存のシステム、ビジネスプロセス等に組み込んだサービスとしてAI利用者(AI Business User)、場合によっては業務外利用者に提供する事業者
AIシステム検証、AIシステムの他システムとの連携の実装、AIシステム・サービスの提供、正常稼働のためのAIシステムにおけるAI利用者(AI Business User)側の運用サポート又はAIサービスの運用自体を担う。AIサービスの提供に伴い、さまざまなステークホルダーとのコミュニケーションが求められることもある。
- AI利用者
事業活動において、AIシステム又はAIサービスを利用する事業者
AI提供者が意図している適正な利用を行い、環境変化等の情報をAI提供者と共有し正常稼働を継続すること又は必要に応じて提供されたAIシステムを運用する役割を担う。また、AIの活用において業務外利用者に何らかの影響が考えられる場合は、当該者に対するAIによる意図しない不利益の回避、AIによる便益最大化の実現に努める役割を担う。
一方で、以下の「業務外利用者」や「データ提供者」は、「AI事業者ガイドライン」の対象には含まれていません。
- 業務外利用者
事業活動以外でAIを利用する者又はAIを直接事業で利用せずにAIシステム・サービスの便益を享受する、場合によっては損失を被る者
- データ提供者
AI活用に伴い学習及び利用するデータを提供する特定の法人及び個人
「AI開発者」、「AI提供者」、「AI利用者」、「業務外利用者」及び「データ提供者」について、それぞれの定義と関連性は下図のとおりとなります。