税務当局のアナリティクス機能は皆さまを上回るのか

執筆者 EY Global

Ernst & Young Global Ltd.

7 分 2018年11月27日
関連トピック 税務

デジタル化によって強化された税務当局とのリアルタイムのやり取りに対応するため、CFOがどのような対策をとっているか見てみましょう。

CFOが直面する現状破壊の脅威(ディスラプティブフォース)の数は日ごとに増えているようです。直近では、納税者データの収集と分析についてデジタル方式への依存が進んでいる税務当局もその一つです。こうした税務当局は、データを使うことによって、リアルタイムもしくはほぼリアルタイムの徴税と税務監査や、その他多くの業務を行っています。集めた情報を吟味したり、疑問点を発見したり、情報同士を比較したりしながら、現在のそして将来のニーズを満たしているのです。

世界中の税務当局がテクノロジーやアナリティクス機能の強化を早急に進めているため、一言で言って、自社データに関する企業側の分析力や理解力は政府に及びません。CFOは、税務当局が要求している情報は何なのか、そしてそのデータをどのように扱い、分析し、活用しているのかを知る必要があります。データアナリティクスから得られる豊富な洞察は、特に企業の成長と価値向上の源泉であり、これを最大限に活用するための戦略の策定がCFOの極めて重要な職務となっています。

税務管理のデジタル化の要件を満たすことは、税務対策の始まりに過ぎず、終着点ではありません。将来を見据えたCFOであれば、こういった新しいデジタル環境の中で自分たちが先手を取って動けるような組織の枠組みを作っていくことができるでしょう。今こそプランを練り、洞察し、行動する時です。

税務管理のデジタル化:現在までの軌跡とその重要性

グローバリゼーションと経済の複雑化が進むにつれてビジネスのあり方は変化してきました。そんな中、世界各国の税務当局はその変化に対応し、その多くはデータアナリティクスで先行しています。既存の税務管理方法による税収不足や非効率性によって、多くの政府が赤字となり、このことが税務管理のデジタル化に拍車をかけたのです。

予算や人員の面で困難に直面した税務当局がテクノロジーに投資し、事業取引、財務、コンプライアンスなどについて分かりやすく正確な情報をリアルタイムまたはほぼリアルタイムで得られるようになったのです。これによって以下のことが実現しました。

  • 効率的な徴税による税収予算の確保
  • 納税者データの確認、比較、分析プロセスの合理化
  • 監査対象の選択方法の改善

デジタル化することで、政府は財源確保の新しい道筋ができたばかりでなく、一部の国々では考えられないような効率性と正確性を確保することができました。

税務当局はデジタル機能の増強を早急に行っていますから、企業側としては税務当局が把握している情報の内容やそれをどのように使うのかを知っておかなければなりません。CFOは、新たにデジタル化した税務当局に引けを取らないアナリティクス機能を開発し、同じレベルでデジタルに精通しなければならないという急務を突き付けられているのです。

しかし税務におけるデジタルディスラプションという現実は、企業側にとってチャンスでもあります。

EYはある多国籍農業関連企業と連携し、政府から要求される税務関連データを収集、管理、送信するアクセス機能とアナリティクス機能を構築し、データがどのように使われているかを可視化しました。

このプロセスを通じて、同企業のCFOは会社のアナリティクス機能を増強することでデータを活用する新たな機会を発見し、その結果としてサプライチェーンの可視性が向上しました。この会社では税務においても、それ以外の分野においても戦略的プランニングが強化され、効率性が改善されたと同時に、税務管理においてこれまでより積極的なアプローチを取れるようになりました。

この一例でも、変化のスピードの速さ、そしてCFOがそれに対して積極的に対応することで好結果が得られることがよく分かります。 デジタル化によっていかにCFOの役割に混乱が生じているかを説明した最近のEYの調査、 「CFOの役割を決めるのはあなたか、それともCFOの役割があなたの行動を決めているのか-CFOのDNAのディスラプション(Do you define your CFO role? Or does it define you? The disruption of the CFO’s DNA)」 では、CFOが意識を集中しなければならない四つの重要な領域が明らかにされています。

  • 使用可能なデータの爆発的増加
  • 流動的なリスク環境
  • 当局による精査の厳格化
  • 社内外のステークホルダーからの要求の拡大

CFOが実際に直面しているこうした課題から、リスク管理、コンプライアンス、成長に向けてデータアナリティクスの活用をCFOとして主導していくための包括的戦略が真に必要であることが分かります。導入状況はまちまちですが、世界中の税務当局がテクノロジーの進化を受け入れています。CFOはこの現実を把握し、適切で均整の取れた積極的な対応をしていかなければなりません。

新たな義務とそこから生まれるチャンス

企業側は、当初は製品や顧客向けのイノベーションを意識したデジタル戦略に注力していましたが、税務管理のデジタル化の進行に伴い、外部ステークホルダーから税務管理のデジタル化を求める声が聞こえるようになりました。こうした状況の変化に伴い、デジタル戦略は成長計画から政府が定める義務へと変わってきています。このようにデジタル化に対する新たな要求が発生する中で、CFOには、データを収集し活用するための新たなプロセスを意識しながらビジネスを主導し組織を変革していくという、手付かずのチャンスが与えられることになります。

CFOは、データアナリティクスを利用することで会社のリソース、税金、その他の財務状況を、これまでよりも総合的に、リアルタイムまたはほぼリアルタイムに把握することができるようになるでしょう。こうしたデータ中心の見方をすることで、計画の立案、課題の解決、問題発生の防止、事態への対応においてCFOがより多くの情報を踏まえて行動することができるようになり、以下のような効果がもたらされると考えられます。 

  • 税の過払いや追徴金の回避
  • 不意のデータ要求の回避
  • 売上、サプライチェーン、HRのデータ報告における正確性の向上

税務コンプライアンスを超えて

ディスラプションから目をそらし、従来型の税務コンプライアンス対応モデルを続けている企業は、受け身のリスク緩和を行わざるをえなくなります。制裁金を科されたり、リスクにさらされる頻度が増えたり、コンプライアンスのための事業費用が増えたりする可能性があります。このような現在の複雑な状況に加えて、より多くの国々がデジタル化された税務管理に移行していけば、今後企業は爆発的に増加するデータ需要に対応しなければならなくなります。

気付きを行動に移す

CFOの多くが、データアナリティクスに関して自社の現状とあるべき姿のギャップを認識しています。財務部門リーダーの大多数がデジタルテクノロジーに関する知見を築き上げていかないといけないと認識しているものの、その方法は分かっていません。税務管理のデジタル化を主導するリーダーは、今すぐ以下に従って始めましょう。

  1. 評価:自社の現状を正確に把握します。どのような種類のデータをどの政府機関に提出しているでしょうか。
  2. 管理:データをどのような方法で提出していますか。提出者は誰ですか。こうしたデータは通常、売上、サプライチェーン、HRなど企業全体に関するデータです。
  3. 分析:税務当局から指摘を受けそうなリスク領域を特定し対処していますか。税務当局と同じような視点でデータを分析してみましょう。
  4. 実装:評価から分析までのステップを合理化できるシステム、そして可能であれば自動化できるシステムを導入します。
  5. 展開:データアナリティクスから得られる洞察を活用し、システムを最適化してより戦略的な判断を下しましょう。

サマリー

各国政府がリソースの縮小と歳入拡大への要求に苦慮する中、税務管理のデジタル化への移行はいずれ世界標準となるでしょう。税務当局がデジタルツールを受け入れデータアナリティクスを強化する中で、企業側は何もせずに傍観することはできず、ディスラプションのプラス面をチャンスに変えていかなければなりません。

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執筆者 EY Global

Ernst & Young Global Ltd.

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