税務管理のデジタル化:現在までの軌跡とその重要性
グローバリゼーションと経済の複雑化が進むにつれてビジネスのあり方は変化してきました。そんな中、世界各国の税務当局はその変化に対応し、その多くはデータアナリティクスで先行しています。既存の税務管理方法による税収不足や非効率性によって、多くの政府が赤字となり、このことが税務管理のデジタル化に拍車をかけたのです。
予算や人員の面で困難に直面した税務当局がテクノロジーに投資し、事業取引、財務、コンプライアンスなどについて分かりやすく正確な情報をリアルタイムまたはほぼリアルタイムで得られるようになったのです。これによって以下のことが実現しました。
- 効率的な徴税による税収予算の確保
- 納税者データの確認、比較、分析プロセスの合理化
- 監査対象の選択方法の改善
デジタル化することで、政府は財源確保の新しい道筋ができたばかりでなく、一部の国々では考えられないような効率性と正確性を確保することができました。
税務当局はデジタル機能の増強を早急に行っていますから、企業側としては税務当局が把握している情報の内容やそれをどのように使うのかを知っておかなければなりません。CFOは、新たにデジタル化した税務当局に引けを取らないアナリティクス機能を開発し、同じレベルでデジタルに精通しなければならないという急務を突き付けられているのです。
しかし税務におけるデジタルディスラプションという現実は、企業側にとってチャンスでもあります。
EYはある多国籍農業関連企業と連携し、政府から要求される税務関連データを収集、管理、送信するアクセス機能とアナリティクス機能を構築し、データがどのように使われているかを可視化しました。
このプロセスを通じて、同企業のCFOは会社のアナリティクス機能を増強することでデータを活用する新たな機会を発見し、その結果としてサプライチェーンの可視性が向上しました。この会社では税務においても、それ以外の分野においても戦略的プランニングが強化され、効率性が改善されたと同時に、税務管理においてこれまでより積極的なアプローチを取れるようになりました。
この一例でも、変化のスピードの速さ、そしてCFOがそれに対して積極的に対応することで好結果が得られることがよく分かります。 デジタル化によっていかにCFOの役割に混乱が生じているかを説明した最近のEYの調査、 「CFOの役割を決めるのはあなたか、それともCFOの役割があなたの行動を決めているのか-CFOのDNAのディスラプション(Do you define your CFO role? Or does it define you? The disruption of the CFO’s DNA)」 では、CFOが意識を集中しなければならない四つの重要な領域が明らかにされています。
- 使用可能なデータの爆発的増加
- 流動的なリスク環境
- 当局による精査の厳格化
- 社内外のステークホルダーからの要求の拡大
CFOが実際に直面しているこうした課題から、リスク管理、コンプライアンス、成長に向けてデータアナリティクスの活用をCFOとして主導していくための包括的戦略が真に必要であることが分かります。導入状況はまちまちですが、世界中の税務当局がテクノロジーの進化を受け入れています。CFOはこの現実を把握し、適切で均整の取れた積極的な対応をしていかなければなりません。
新たな義務とそこから生まれるチャンス
企業側は、当初は製品や顧客向けのイノベーションを意識したデジタル戦略に注力していましたが、税務管理のデジタル化の進行に伴い、外部ステークホルダーから税務管理のデジタル化を求める声が聞こえるようになりました。こうした状況の変化に伴い、デジタル戦略は成長計画から政府が定める義務へと変わってきています。このようにデジタル化に対する新たな要求が発生する中で、CFOには、データを収集し活用するための新たなプロセスを意識しながらビジネスを主導し組織を変革していくという、手付かずのチャンスが与えられることになります。
CFOは、データアナリティクスを利用することで会社のリソース、税金、その他の財務状況を、これまでよりも総合的に、リアルタイムまたはほぼリアルタイムに把握することができるようになるでしょう。こうしたデータ中心の見方をすることで、計画の立案、課題の解決、問題発生の防止、事態への対応においてCFOがより多くの情報を踏まえて行動することができるようになり、以下のような効果がもたらされると考えられます。
- 税の過払いや追徴金の回避
- 不意のデータ要求の回避
- 売上、サプライチェーン、HRのデータ報告における正確性の向上
税務コンプライアンスを超えて
ディスラプションから目をそらし、従来型の税務コンプライアンス対応モデルを続けている企業は、受け身のリスク緩和を行わざるをえなくなります。制裁金を科されたり、リスクにさらされる頻度が増えたり、コンプライアンスのための事業費用が増えたりする可能性があります。このような現在の複雑な状況に加えて、より多くの国々がデジタル化された税務管理に移行していけば、今後企業は爆発的に増加するデータ需要に対応しなければならなくなります。
気付きを行動に移す
CFOの多くが、データアナリティクスに関して自社の現状とあるべき姿のギャップを認識しています。財務部門リーダーの大多数がデジタルテクノロジーに関する知見を築き上げていかないといけないと認識しているものの、その方法は分かっていません。税務管理のデジタル化を主導するリーダーは、今すぐ以下に従って始めましょう。
- 評価:自社の現状を正確に把握します。どのような種類のデータをどの政府機関に提出しているでしょうか。
- 管理:データをどのような方法で提出していますか。提出者は誰ですか。こうしたデータは通常、売上、サプライチェーン、HRなど企業全体に関するデータです。
- 分析:税務当局から指摘を受けそうなリスク領域を特定し対処していますか。税務当局と同じような視点でデータを分析してみましょう。
- 実装:評価から分析までのステップを合理化できるシステム、そして可能であれば自動化できるシステムを導入します。
- 展開:データアナリティクスから得られる洞察を活用し、システムを最適化してより戦略的な判断を下しましょう。
サマリー
各国政府がリソースの縮小と歳入拡大への要求に苦慮する中、税務管理のデジタル化への移行はいずれ世界標準となるでしょう。税務当局がデジタルツールを受け入れデータアナリティクスを強化する中で、企業側は何もせずに傍観することはできず、ディスラプションのプラス面をチャンスに変えていかなければなりません。