第1章
企業は脱炭素化を進めているが、その速度や規模は十分ではない
気候変動のグローバル⽬標を達成し、最悪な状況を回避するためには、気候変動対策のより迅速かつ、より一層の進展が必要です。
良いニュースとしては、企業が気候変動対策に取り組んでいることです。Climate Impact Partnersによる最近の調査では、 Fortune Global 500の企業の63%が気候変動に関する⼤きなマイルストーンを設定したと報告しています1。EYの調査では、包括的なサステナビリティ戦略または重要な気候変動への取り組みのリーダーを指名し、ビジネスにおけるサステナビリティ対策の最前線に⽴っている⼤企業に焦点を当てました。これら調査対象企業のサンプルでは⼤多数の企業(93%)がコミットメントを表明していました。
こうしたコミットメントには通常、特定の二酸化炭素排出量削減⽬標などがありますが、ネットゼロエミッションの達成など、より野⼼的な⽬標を掲げている企業は少数でした(回答企業の11%)。また、回答企業の温室効果ガス排出量削減⽬標の平均値は41%でした(カーボンオフセットを除く)。調査対象企業の多くは⽬標を半分以上達成しており、回答企業が報告している排出量削減の平均値は28%でした(カーボンオフセットを除く)。企業は排出量削減に着⼿し、追加の投資を予定しています。そして、回答企業の61%は気候変動に対する来期の⽀出を増やすことを計画しています。
しかし、これらの削減の規模と速度には改善の余地があります。すなわち、回答企業のコミットメントは気候変動の最悪な状況を回避するために世界経済が必要とする⽬標に達していません。
国連気候変動政府間パネル(The United Nations Intergovernmental Panel on Climate Change)は、地球温暖化による気温上昇を産業⾰命前と⽐べて摂氏1.5度未満に保つため、2030年までに排出量を45%削減し、2050年までにネットゼロエミッションを達成することを世界に求めています。これを達成するためにScience Based Targetsイニシアティブ(SBTi)は、短期的および⻑期的な⽬標の両⽅で、企業のバリューチェーン全体で迅速かつ⼤幅な排出量削減を促しています。
しかし気候変動対策の先進企業の調査グループにおいても、認定SBT(Science Based Targets)を⽤いている企業はわずか29%で、排出量を45%以上削減することを計画している企業は10社のうち約4社に過ぎません(カーボンオフセットを除く)。削減が最も困難あるいは費⽤がかかる排出量にはオフセットが必要になりますが、企業は可能な限り排出量の削減を優先する必要があります。
計画されている削減についても、早期にグローバル⽬標を⼗分に達成する可能性は低いと考えられます。2030年以前にコミットメント・マイルストーンを設定している企業はわずか35%で、⻑期⽬標に向けた中間⽬標を設定している企業はわずか38%に過ぎません。国連が表明した2030年の⽬標とのギャップがあるにもかかわらず、回答企業の70%は⾃組織が気候変動に有効な影響を与えるに⼗分な野⼼的対策をしていると確信しています。EYの調査対象企業は明らかに排出量削減に取り組んでいますが、グローバル⽬標を達成するにはより迅速かつ、より一層の進展が必要です。こうしたギャップが気候変動対策を主導している組織の間に⽣じていることを考えると、対応は急務です。
第2章
Value-Led Sustainability(価値創造型のサステナビリティ)アプローチが財務的影響を促進する
3分の2以上の回答企業が、気候変動への取り組みから期待以上の価値を得ています。
企業が気候変動対策から財務的価値を創出するには、社会、地球、顧客、従業員など、さまざまな側面での価値を見直すマインドセットの転換が必要であり、そのためには、次のようなことを認識することが求められます。
- 価値の源泉は深部では融合したものであり、それぞれが相反関係にはなく補完的である可能性がある。
- サステナビリティは、顧客と従業員に価値をもたらし、その結果、ビジネスと地球に利益をもたらすことができる。
- 気候変動対策のどの段階にある企業であっても、未開拓の機会を活⽤してより多くの価値を発⾒できる。
私たちは、顧客、事業を展開するコミュニティ、そして地球に大規模な影響をもたらすため、できるだけ多くの課題に対処する包括的なソリューションを探しています。
実際に、気候変動への取り組みを⾏っている企業は期待よりもはるかに多くの財務的価値が還元されている傾向にあります。理由のひとつに、取り組みが顧客価値や従業員価値などの価値に還元され、さらにそれが財務⽬標につながっていることが挙げられます。Cargillの気候変動担当サステナビリティ・ディレクターであるGreg Downing⽒は、「私たちは、お客様、事業を展開するコミュニティ、そして地球に⼤規模な影響をもたらすため、できるだけ多くの課題に対処する包括的なソリューションを探しています」と述べています。
今回の調査では、ペースセッター企業の45%が、気候投資を評価する際に5つの価値のうち少なくとも4つを考慮しています。実際には、企業は複数の価値を達成できる投資を探しています。例えば酒造会社であるAB InBevは、気候変動に適応⼒のある農業を実践している農業従事者から⼤⻨とホップを購⼊しています。同時に、気候変動⽬標と社会的⽬標を組み合わせて、⽣産性を向上させる技術的および財務的ツールを農業従事者に提供しています。
4社のうち3社(75%)は、気候変動への投資を評価する際に顧客価値を考慮しています。Unileverの場合、ラベルに製品の炭素排出量を印刷することで、昨今の⽣活費⾼騰への懸念にもかかわらず持続可能な製品を進んで購⼊する消費者との信頼を築くのに役⽴てています。
⼀⽅Ciscoは、エネルギー効率の⾼い製品を開発し、顧客価値と地球的価値の両⽅を提供することで、気候やその他の環境的⽬標および社会的⽬標を達成しようとする顧客に応えてきました。CiscoのCSOであるMary de Wysocki⽒は、「持続可能な選択を⾏うことは、優れた投資利益率を実現する可能性があることを『顧客』に理解してもらう機会です」と述べています。
こうしたさまざまな価値(社会的、地球的、顧客、従業員)は一緒に検討する必要があり、そうすることで財務的価値を創出する⼿段にもなり得ます。CargillのCSOであるPilar Cruz⽒は、以下のように述べています。「社会問題と環境問題は、相互に関連しています。気候変動にとどまらず、さまざまなメリットをもたらすサステナビリティのソリューションに⽬を向けることで、私たちはより⼤きな集合的影響をもたらすことができ、これには⽣物多様性の拡⼤、⽔資源の保護、農業従事者の⽣計改善、地域コミュニティの向上、農業従事者の⽣産性と効率性の向上、⼥性の活躍⽀援などが含まれます」
経済的動機、地球的成果
今⽇、企業は気候変動への投資を評価する際に考慮する最重要事項として、財務的価値を地球的価値より優先する可能性が2倍近く⾼くなっています(28%対15%)。
しかし、⼀部の企業は気候変動対策への投資とビジネスへの⻑期的価値の提供を関連付け始めています。
セメントメーカーであるCEMEXは、バイオマス含有量の⾼い代替燃料を使⽤して排出量を削減することで、迅速にコストを削減できるだけでなく、⻑期的には投資家が気候変動対策のリーダーを⽀持することに気づきました。CEMEXのCSOであるVicente Saiso⽒は、以下のように述べています。「投資家はすでに投資先企業を差別化しており、それは将来さらに劇的なものになるでしょう。各業界のサステナビリティリーダーは、投資家にとってより魅⼒的な存在となる可能性が⾼まります。それは同時に、さもなければ投資家は他企業に投資することになり、脅威にもなり得るということです」
実際、投資家はこれまで以上にサステナビリティの指標に基づいて⾏動する意欲が⾼まっています。例えば今回の調査によると、機関投資家の74%が、コロナ禍以前よりも環境・社会・ガバナンス(ESG)パフォーマンスの低さを根拠にダイベストメント(投資撤退)を⾏うだろうと回答しました。
多くの場合、ダイベストメントは財務的価値を念頭に置いて選択されるため、気候変動への取り組みは、マイナスよりもプラスの利益となる可能性が⾼くなります。ただ、想定外だったのはそのリターンの⼤きさでした。10社のうち7社近くが気候変動への取り組みにより、期待よりもわずかに多くあるいは⾮常に多くの財務的価値が得られたと報告しています。
さらに幅広い調査でもこの結果は裏付けられています。2019年のCDPのグローバル気候変動分析によると、持続可能なビジネス機会の潜在的価値(2兆1,000億⽶ドル)はそれを実現するためのコスト(3,110億⽶ドル)の約7倍となっています2。
経済的価値と地球的価値は相互排他的ではない
取締役会や経営幹部の間では、気候変動対策を進める上での財務・⾮財務のトレードオフのバランスについて重要な議論が交わされており、3社に2社(64%)が課題であると回答しています。確かにトレードオフは必ずしも回避できるわけではありませんが、財務的影響と地球環境への影響は相互排他的なものではありません。世界規模の混乱が発⽣した場合、⻑期的なサステナビリティ計画を⽴てることで企業は気候変動対策を継続させ、サステナビリティから価値を創造する新たな機会を⾒いだすことが容易になります。これらは気候変動への取り組みが、問題の兆候が現れるとすぐに切り捨てられてしまうようなサイドプロジェクトや限定的な慈善活動になってしまうことをくい止める一助となります。
また企業は、リスクを軽減する⼿段として気候変動への取り組みに⽬を向ける必要があります。気候変動リスクは測定が不⼗分であることが多いため、特に注意が必要です。最新のEYグローバル気候変動リスクバロメーターによると、まだシナリオ分析を⾏っていない、または結果を開⽰していない企業が⾮常に多いことが分かりました。今回の調査では、財務諸表において定性的にも定量的にも気候変動に関連する事項に⾔及している企業は、全体の3分の1以下でした。
しかし、気候関連財務情報開⽰タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures︓TCFD)が推奨するようなシナリオ分析は、気候関連のリスクと機会を予測するための強⼒なツールです。今回の調査では「ペースセッター」企業の約95%がシナリオ分析を毎年実施しているかまたはその途上であるのに対し、「オブザーバー」企業ではわずか35%にとどまっています。
多くのインタビュー対象企業はリスクを軽減するだけでなく、新しい製品やサービスを⽣み出す機会を発⾒し、さらに新しい市場を獲得しています。例えば、Unileverは2027年までに10億ユーロ相当の植物ベースの⾁と乳製品の代替品を販売することを⽬指しています。またCargillは、農家を炭素市場のような新興市場につなぐ再⽣農業プログラムであるCargill RegenConnectを設⽴しました。
結局のところ、財務的価値とそれ以外の価値との関連性を意識することで、企業は全般的かつ野⼼的な気候変動戦略に着⼿しやすくなるのです。
Cargillの例のようなWin-Winのシナリオは、より容易に経営陣の賛同を得ることができますが、現実としては、企業にとってすべての取り組みがポジティブな財務的影響を及ぼすとは期待できません。同時に、政府や社会は、企業が財務的リターンに関係なく、利他的に気候変動への取り組みに投資することを現実的に期待すべきでもありません。
重要なのはバランスのとれたポートフォリオを構築することです ―― 地球にプラスの影響を与え、財務的価値を⽣み出す取り組みは助成されますが、財務的リターンが最⼩限またはマイナスの取り組みはそういきません。平均すると、取り組みの37%が取り組み期間にわたってプラスの利益となり、マイナスとなるのはわずか19%であることが分かりました。このことは、気候変動対策の初期段階にある企業が、バランスの取れた気候変動への取り組みのポートフォリオへの投資を増やす動機となるはずです。
しかし、企業が価値主導のアプローチをとっている場合でも、どのように対策の優先順位を付けるかは必ずしも明確ではありません。気候変動目標に向けて最も進んでいる企業から学ぶことは、その一助となるでしょう。
第3章
より多くの企業が気候変動に取り組めば、そのリターンは大きくなる
気候変動対策は、旅のようなものです。対策には漸進的なものから変⾰的なものまでさまざまなものがあり、早く開始すればするほど、多くのことを学ぶことができます。
今回の調査で明らかになった結果のひとつとして、幅広い価値主導のアプローチが功を奏するということです。ペースセッター企業は期待を⼤幅に上回る財務的価値を報告する可能性が2.4倍⾼く(オブザーバー企業21%に対して52%)、現在までに⼤幅な排出量削減を達成しています(オブザーバー企業27%に対して32%)。
もうひとつは、すべての企業にとって気候変動対策は旅のようなものであり、最適な気候変動対策はその企業の置かれている状況によって異なるということです。
幅広い価値主導のアプローチが有効です。調査によると、ペースセッター企業はオブザーバー企業と比べて、期待を大幅に上回る財務的価値を報告する可能性が2.4倍高いことが分かりました。
ペースセッター企業は成果を上げる
ペースセッター企業(気候変動対策の旅において⽐較的成熟している企業)はガバナンスと測定から運⽤、サプライヤーと顧客にいたる5つのカテゴリーすべてにおいて、⾏動を起こしています。
最も成熟した企業にとって、このプロセスには短期、中期および⻑期の戦略的⽬標に照らして、複数のアクションカテゴリーへの漸進的投資と変⾰的投資の両⽅が含まれていることがよくあります。例えば、サンプルとなったペースセッター企業は、気候変動に関連する市場機会を獲得するために新しいビジネスラインを確⽴している可能性が3倍⾼く、ペースセッター企業の94%がこのアクションを完了または進⾏中であるのに対し、オブザーバー企業は32%にとどまりました。
特に、セクターを問わず多くのインタビュー対象企業は、国によって特定の規制環境や圧⼒が異なる場合でも、気候変動対策をビジネス全体に広く適⽤することを選択しています。多くの企業はグローバルまたは地域レベルで⽬標を設定したり、製品を発売したりしています。これは驚くべき結果をもたらす可能性があります。例えばCEMEXは、新興市場での低炭素コンクリートの需要が予想以上に⾼いことに気づきました。
気候変動対策の旅の第一歩
企業の気候変動対策の道筋は⼀直線ではありません。アクションや戦略を再検討し、⾒直しを⾏う必要があります。ビジネスリーダーが通常考えるよりも⻑い時間軸で影響を与えるためには、暫定的なコミットメントが必要です。企業は、進歩するために1つの領域で完璧に⾏動する必要はありません。しかし価値の実現のためには、すべての企業が達成可能な野⼼的⽬標を設定し、その達成に向けて⾏動を起こす必要があります。
今回の調査では主要な二酸化炭素排出源の特定といった漸進的なものから、気候変動に関する野⼼に沿ったM&A戦略の推進や気候変動関連の市場機会を獲得するための新しいビジネスラインの確⽴など戦略的かつ変⾰的なものまで、32の気候変動対策をマッピングしました。平均すると、企業は32のアクションのうち10を完了させており、ほとんどの企業がコミットメントを⾏動に移す段階にあることが分かります。
これらのアクションは、測定、ガバナンス、運⽤、顧客とサプライヤー、サードパーティという5つの⼤きなカテゴリーに分類されます。測定とガバナンスに重点を置いたアクションは⼀般的な出発点であり、これらの領域のアクションは全体では、完了したアクションの上位5つを占めています。初期段階では、主要な二酸化炭素排出源の特定や気候変動に対する取締役会の責任の割り当てなど、あまり財政的⽀出を必要としないアクションに重点を置くのが⼀般的です。
しかしインタビューでは、多くの企業が測定とガバナンスのプロセスを継続的に策定した後、⽬標を再検討し、暫定的な⽬標やマイルストーン、シナリオを⽤いて、アクションを加速させていることが明らかになりました。Ciscoのde Wysocki⽒が説明するように、サステナビリティへの投資がビジネスに与える影響を明らかにすることで、追加の投資や対策を実⾏する上での社内での説得⼒を⾼めることが可能になります。
第4章
企業はどのように気候変動対策を進めればよいか
ペースセッター企業は、特にサプライヤーとパートナーシップを結び、気候変動対策に変革的なアプローチで取り組んでいます。
ペースセッター企業は、気候変動対策をビジネス変⾰として捉え、ビジネスモデルをサステナビリティに適合させることで効果的な気候変動対策を⾏っています。本章では、まずペースセッター企業から何を学ぶことができるかを考え、次に、彼らや他の企業が気候変動の旅をさらに前進させるにはどうすればよいかを考えていきます。
より大胆なコラボレーション
地球上の誰もが、サステナビリティを実現させる原動力です。企業が効果的な気候変動対策を講じるには、業界や地域を超えて、競合他社、新興企業、政府、クライアント、コミュニティなど、より幅広いステークホルダーと協⼒することの価値を認識する必要があります。パートナーシップは、重要なステークホルダーの意⾒を取り⼊れ、企業がその取り組みの価値を最⼤限に活⽤し、単独では実施できないような⼤規模プロジェクトでの協働を可能にします。
インタビュー対象企業は、直接的な競合他社も含め、幅広いステークホルダーと提携する傾向があります。例えばCEMEXのVicente Saiso⽒は、同社が業界団体であるGlobal Cement & Concrete Associationに加盟していることについて語っています。業界は、協会を通じてセメントセクターの脱炭素化技術に関する学術研究に資⾦を提供し、すべての企業に影響する問題について、競合他社とパートナーとして協働しています。
調査対象のペースセッター企業は、多様なパートナーシップによって集合知およびリーチで恩恵を受けていると回答しており、51%が戦略的パートナーシップの締結または合弁事業を設⽴し、57%がすでに競合他社と提携しています(オブザーバー企業は22%)。ペースセッター企業は、こうしたコラボレーションから利益が得られる可能性が⾼く、パートナーシップによってコストを削減し、気候変動への取り組みを成功させる可能性を⾼められると報告しています。
連鎖反応:サプライチェーン変革への期待
多くの企業にとって、サプライチェーン変⾰は⼤きな影響を与える⼿段です。ペースセッター企業の72%が主要な二酸化炭素排出源を特定するための措置を講じており、68%がサプライヤーに対してその排出量削減を求めています。
より幅広い調査によると、企業の二酸化炭素排出量の平均75%はサプライチェーンが占めており、⼀部のセクターでは100%近くにまで上ります3。また、企業はサプライチェーンのレジリエンス強化の必要性を認識し始めており、ペースセッター企業の52%が、サプライヤーと提携して排出量削減を⽀援しています。インタビュー対象企業は、この判断は、排出量の⼤部分が上流と下流の排出量を含むスコープ3にあることを理解した上での判断であることを強調しました。例えばMars Inc.は、⾃社の事業が占める排出量の割合はわずか5%に過ぎず、バリューチェーン全体の⼆酸化炭素排出量の⽅がはるかに⼤きく、ほぼ⼩規模の国ほどの排出量であることに気づきました。2019年以降、同社はサプライヤーと協⼒してScience Based Targetsを設定し、バリューチェーン内の排出量を削減するために100%再⽣可能エネルギーを採⽤するなど、さまざまな⽅法で排出量削減に取り組んでいます。
気候変動対策の旅における課題
すべての企業が直⾯する⼀般的な障壁や機会に加えて、気候変動対策の旅のステージが進むにつれ、さまざまな課題が発⽣します。
今回の調査によると、ペースセッター企業は依然として取り組みの調整やチームコラボレーションを改善する必要があり、67%が「多くのグループが関与しているため進展が難しい」と回答し、半数近く(44%)が「チーム間のコラボレーションを⼤幅に改善する必要がある」と回答しています。Ciscoのde Wysocki⽒は、次のように述べています。「変⾰的なサステナビリティの取り組みを実⾏するには、CSOはさまざまなリーダー、取締役会、ビジネスユニット、財務やコンプライアンスなどの部⾨と連携する必要があります。多くの企業は、環境サステナビリティを統合することが、ビジネスにとってどれほど重要かつ変⾰的であるかを理解していないと思います」。気候変動対策が多様化し進展するにつれ、それらが⾸尾⼀貫した戦略を形成するように、管理および調整を⾏う必要があります。
⼀⽅オブザーバー企業は、サステナビリティへの投資に伴うトレードオフをよりよく理解しようとしています。企業が気候変動対策から得られる期待以上の財務的価値は、サステナビリティ投資を追求する動機として機能するはずです。
またオブザーバー企業は、気候変動への取り組みの実⾏をより重要視しようとしており、改善すべき領域の第2位にランク入りしています。なお、価値の測定や進捗の説明責任を果たすことが容易であると回答するオブザーバー企業は少数です。
多くの企業は、環境のサステナビリティを統合することが、ビジネスにとってどれほど重要かつ変革的であるかを理解していないと思います。
人材への投資:見逃しがちな機会
気候変動対策の旅のどの段階にある企業にとっても、サステナビリティの取り組みを⽀援するには従業員価値をどのように活⽤するかを検討する必要があります。⼈材はそのための重要な領域です。調査対象企業の35%が、⼈材の定着やスキルアップの難しさが気候変動対策を強化するための最⼤の内部障壁であると回答し、28%が気候変動に関するスキルを持つ⼈材の採⽤の難しさが重要な外部障壁であると回答しています。
しかし⼈材は、優先的に投資すべき領域ではないようです。回答企業のうち、気候変動に関する投資のトップ3に「⼈的資源と⼈材」を挙げている企業は、わずか23%でした。また、気候変動に関する専⾨知識を習得するために、⼈材の採⽤やスキルアップの計画を完了していた企業は、わずか27%でした。
⼈材への投資は、企業が内部から変⾰を加速させる重要な機会となる可能性があります。企業が部⾨を超えてサステナビリティを根付かせようとするには、教育、能⼒開発、知識共有、そして、必要なスキルセットを開発するためのカスタマイズされた戦略が必要になります。例えばAB InBevは、気候変動対策を⽀援するため、気候変動分析とデータサイエンス機能の構築を始めており、社会・⾏動科学の能⼒を次のフロンティアとして捉え、将来的にはサプライヤー、消費者およびコミュニティと気候変動についてより深い関わりを持つことを⽬指しています。これと並⾏して、同社は気候変動とサステナビリティの基礎に関するトレーニングを受けた「チーム・オブ・チーム」の構築も続けています。
早く始めれば始めるほど、より多くのことを学ぶことができる
ペースセッター企業は、これまでのプロジェクトあるいは類似性のあるプロジェクト、そしてさまざまな市場から得られた教訓を適⽤することを学びました。グローバルに事業を展開している企業は、ある場所で得た教訓を他の場所に適⽤することができます。気候変動対策から得られるシンプルな利点の1つは、その後の基礎となる最初の経験を収集することができる点です。
気候変動対策の先進企業は今なお学習を続けており、長期戦略を見直し、目標を再検討しています。成功する戦略は、長期的価値、柔軟性および継続的な改善意欲を優先する考え方に根ざしています。
EYネットゼロセンターの2022年レポート「Essential, expensive and evolving: The outlook for carbon credits and offsets (via ey.com Australia)」では、あらゆる企業が気候変動対策を進める中、今すぐ⾏動する企業が、気候変動やサステナビリティに関する野⼼的な⽬標を達成する可能性が最も⾼いことを⽰しています。テクノロジーの進化、規制の強化、利害関係者からの圧⼒の⾼まり、および競争の激化を伴う環境において、すでに包括的かつ変⾰的なアクションを開始している企業は気候変動への取り組みからより多くの価値を享受できる、よりレジリエンスで有利な⽴場を得ることになるでしょう。
取り組みは道半ば
気候変動への対応は急務です。地球の気温上昇を摂⽒1.5度以下に抑えるにはわずかな猶予しかありませんが、それでも可能性は残っています。
企業は重要な役割を担っていますが、この課題に対してこれまでとは異なる考え⽅をする必要があります。もはや財務的価値と気候変動への取り組みの間にトレードオフの関係があるとは考えるべきではありません。むしろ、気候変動への取り組みを、ビジネス、社会および地球を同時に保護し、より多くの価値を創造するための⼿段として捉えるべきです。
サステナビリティへの取り組みは、さまざまな形で財務的価値をもたらします。今回の調査によると、回答企業の⼤多数(69%)は、すでに投資に対するリターンが期待を上回っていることを認識しており、顧客、従業員、そして社会に対しても、同様に⾼い価値を実現しています。
また今回の調査では、気候変動対策は旅であることも⽰しています。企業が気候変動への対応に取り組むことで自社の能⼒も向上し、それがさらなる進展を後押しします。
これらの結果から言える唯一の重要なメッセージは「始めましょう」ということです。⽬標を設定し、取り組みを実行し、能⼒を向上させ、⻑期間にわたってレジリエンスを構築してきた企業は、これから始める企業に⽐べて、より多くの価値を⽣み出し、実施に伴う苦労がより少なく済むでしょう。
実施すべき5つのアクション
気候変動対策の先進企業から得た教訓と、彼らや他の企業にまだ改善余地のある領域を認識し、ステークホルダーと地球のために気候変動問題からより⼤きな価値を⽣み出すために、企業が実施すべきアクションをいくつか⾒ていきましょう。
- 野⼼の⽔準を⾒直す ―― 今回の調査対象企業のうち、変化へのコミットメントを⽰した企業であっても、パリ協定で定められた⽬標を達成するのに⼗分な野⼼的⽬標は⾒られません。
- 複雑さを認識する ―― 二酸化炭素排出量削減に真の影響をもたらすプロセスは複雑で、当初から進捗状況を追跡し、ROI(投資利益率)を評価するための測定を⾏う必要があります。
- コラボレーション ―― セクター内だけでなく、セクターを超えたコラボレーションが必要です。これは集合的課題であり、業界やセクターを超えたグループと協⼒することで、変化を加速させることができるでしょう。
- サプライチェーンに影響を与える ―― 多くの企業はサプライヤーを関与させ、⽀援することで、サプライチェーンを通じた排出量削減に影響を与える最⼤の機会を得ることができるでしょう。
- ⼈材に投資する ―― ⾮常に多くの企業が、この課題に対応できるサステナビリティ⼈材が不⾜していることを認識していますが、これを優先事項にはしていません。組織内の関連するすべての部⾨をスキルアップさせ、専⾨家を招へいすることで、優位な⽴場をつくることができます。
Cisco CSOのMary de Wysocki⽒は、「持続可能な選択をすることは、優れた投資利益率も実現する可能性があることを顧客に理解してもらう機会です」と述べています。同じことが、企業全体にも当てはまります。従業員、顧客および社会的価値を創造する機会があることは、素晴らしいことです。気候変動対策を戦略的選択に⽣かし、イノベーションを推進して財務価値を最⼤化する企業は、今後数年間でリーダーになるでしょう。
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サマリー
サステナビリティへの取り組みは財務的にもメリットがある:調査対象企業の69%が、断固とした気候変動対策によって、売上高と利益が増加したと報告しています。企業は、測定、ガバナンス、製品と顧客の提供、運用とサプライチェーン、およびサプライヤーにまたがる気候変動対策を講じ、早期に開始して経験を蓄積すべきです。