中国は以前から、同イニシアチブを通じて、現地への物流インフラへの投資等を増大させ、東南アジアとの関係性を深めつつありました。米中対立によりその傾向は加速され、中国と東南アジアとの関係性は一層深化しつつあります。
その関係性の深化にはCOVID-19流行後のワクチン外交も影響していると見られ、シンガポールのシンクタンクが実施したASEAN10カ国を対象とした調査(ISEAS「The State of Southeast Asia 2022 Survey」)では「いずれのASEANのパートナー国が最もCOVID-19のワクチンを提供してくれたか」という問いに対して、中国と回答した人の割合が最多の57.8%となり、次点となる米国の23.2%を大きく引き離しています。
複数のASEAN諸国の外相等からは中国のワクチン提供を評価する発言がなされており、このようなワクチン外交も功を奏してか、中国とASEANは21年11月にその関係性を従来の「戦略的パートナーシップ」から「包括的戦略パートナーシップ」に格上げしています。
このように中国は東南アジアでのプレゼンスを一層高めつつありますが、そこにはこれまで述べてきたように米中対立や一帯一路イニシアチブ、COVID-19などの地政学的な問題が深く関わっており、中国と東南アジアの関係性を見る上で地政学的視点からの分析は欠くことができない要素となっています。
このような中国の東南アジアにおけるプレゼンスの拡大は日本にとって無縁のことではなく、<図3>で示したとおり、日本のASEANに対する対外直接投資残高は他のアジア圏の国・地域向けの投資と比較しても特に伸びています。ASEANの成長を取り込もうとする多くの日本企業にとって、現地での中国企業のプレゼンス拡大は今後、競争上の脅威につながる可能性が十分にあります。
そのため、今後、ASEANを主要な市場の1つとして捉えている日本企業にとって、現地で競合になり得る中国企業の動向をより丁寧に分析し、自社の戦略を検討していくことが一層重要になっていくのではないかと思われます。例えば、中国のASEANでのプレゼンスの増大は必ずしも一様ではなく、域内の国ごとにプレゼンス拡大の規模や領域などが異なっているため、日本企業はそれらの差異に注目しながら、可能な限り中国企業との競争を避けつつ、東南アジアでの戦略を検討していくことも選択肢としては考えられ得ると思われます。