ⅡおよびⅢにおいて報告書の要点を紹介しました。具体的に石油・ガス業界に位置づけられる企業(上流開発企業だけでなく、商社、エンジニアリング企業および電力ガス企業も含む)は今後どのような対応が求められるかを考察する上で参考となる情報を提供するために、実際日本企業が取り組んでいる事業内容を簡単に紹介します。
1. アジアLNG市場の創設・拡大
今後アジアのLNGの需要拡大が予測されており、日本企業は日本国内だけでなくアジア諸国(特に東南アジア)による海外からのLNG調達取引(外・外取引)に積極的に関与することが重要になります。なぜなら、外・外取引が活発になりアジアLNG市場が拡大することは、日本国内のLNGの需要が逼迫(ひっぱく)した場合にスポットでLNGを調達することができ、LNGの低廉かつ安定供給確保に資するからです。日本政府もこれを資金面から支援しており、(株)国際協力銀行(JBIC)は18年に優遇条件での融資提供を日本以外の第三国を仕向地とするLNG関連インフラプロジェクトにも拡大しています。また、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は20年6月におけるJOGMEC法の改正に伴い、海外におけるLNGの積替・受入事業への出資・債務保証業務を新たに開始しています。
こうした中、実際に進行しているプロジェクトがあります。インドネシアにおいて、総合商社A社、B社および海運会社C社は現地国有石油・天然ガス関連企業との協働出資により、ガス焚き火力発電所およびFSRU(浮体式LNG貯蔵再ガス化設備)の建設プロジェクトを進めており、21年の操業を予定しています。また、フィリピンにおいて、電力ガス企業D社は現地大手発電事業会社と協働してFSRUを活用できる浮体式LNG基地の建設プロジェクトを進めており、22年の操業を予定しています。
2. アンモニア、水素の原料としての期待
カーボンニュートラルの実現に向けて、燃焼してもCO2を排出しない水素・アンモニアの利用が不可欠です。将来的には水素・アンモニアの製造時においてもCO2が発生しない再生可能エネルギー由来の水素・アンモニア(グリーン水素・グリーンアンモニア)の利用が期待されますが、当面の間はコスト競争力があると見込まれる天然ガス由来の水素・アンモニア(ブルー水素・ブルーアンモニア)を利用されることが予想されます。
実際にカナダにおいて、総合商社E社は現地インフラ企業および現地国有石油・天然ガス関連企業と協働で燃料用アンモニアの商用生産プロジェクトを進めています。総合商社E社は現地インフラ企業と新会社を設立して燃料用アンモニア工場を建設し、現地国有石油・天然ガス関連企業から調達した天然ガスを原料にアンモニアを製造し、日本の電力会社等に販売することを計画しており、23年に燃料用アンモニア工場建設の着工、26年に燃料用アンモニアの商業生産を予定しています。また、ニュージーランドにおいて、総合商社F社は現地水素エネルギー開発企業が設立した新会社に出資し、燃料電池大型車両向けのグリーン水素の製造から販売に至るまでの商業化プロジェクトを進めており、22年までに現地4都市に水素ステーションを設置することを計画しています。