8 分 2020年12月3日

            夜明け前の屋外で、スマートフォンを見るトレーニングウエア姿の男性

患者や医療従事者にとって重要な事項に最もフォーカスすべき理由

8 分 2020年12月3日

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満足度の高いペイシェントエクスペリエンスは、医療従事者の満足度をも高めます。逆もまたしかりです。ビジネスにとってはその両方がプラスに働きます。

3つの質問
  • 患者と医療従事者のエクスペリエンスを向上させ、競争に伍していくために、組織をどのように差別化するか。
  • 差別化によって未来のペイシェントエクスペリエンス(以下、PX)を創出し、際立ったサービスを提供するために、パートナーをどのように見つけるか。
  • 描いた目標を実現するために、能力、システム、インフラやテクノロジー、組織風土、行動をどのように変える必要があるか。

満足度の高いPXは、医療従事者の満足度をも高めます。逆もまたしかりです。ビジネスにとってはその両方がプラスに働くため、ヘルスケア業界のすべての企業はPXの向上を最優先する必要があります。適切な場所、適切なタイミングで最善かつ最も効率的な診療を可能にするには、医療機関は少なくとも診療を提供する側と受ける側の両方を含めた大局的な視点を身に付けることが必要でしょう。

患者側から見ると、プラスのエクスペリエンスを得られれば治療アウトカムが上がり、医療機関と良好な関係が続きます。結果的に医師の指示に従う可能性が高まり、将来的にも前向きに診療を受けようとするのです。診療過程をよりスマートなものにすれば、体調が悪い時だけでなく、予防するためにも医療機関と関わりやすくなります。スマート化の動きは、アウトカムの改善を目的として、長期にわたる行動変容を後押しし、より少ない労力でデータ収集を可能とするインフラの構築にも役立ちます。臨床に社会的要因のデータを組み込むこともその一例です。

医療従事者にとってのスマートヘルスエクスペリエンスは企業のデジタル変革から始まります。これについては、スマートヘルスシリーズの他の記事で説明します。スマートヘルステクノロジーを対面診療と組み合わせれば、医師と患者の双方にとって意味のある形で、診療の在り方を変えることができます。

スマートヘルスシステムに特有の包括的かつ長期的なデータセット、データフローの改善、治療の連携が、患者や医師に知見をもたらします。例えば、慢性疾患を管理するための個人に合わせた治療方針や、人工知能(AI)が組み込まれたツールによる行動管理などがあります。

既存のプロセスをデジタル化し自動化すれば、反復的で付加価値の低い業務を減らすことができ、医療従事者の時間や労力を患者への関与や治療に向けることができます1。このようなテクノロジーが、医療従事者の負担を軽減し燃え尽き症候群や離職を減らす、革新的なソリューションの原動力になります2。臨床治療の生産性は、ベストプラクティスを迅速に普及させることによって高めることができます。エビデンスに基づいて薬物治療を行えば、深く根付いた習慣を変え、異常や無駄を低減し、患者アウトカムを高めることができます3

次世代ヘルスケアへの移行に伴い、診療モデルは予防を目的とした個別化、参加型のモデルにシフトしつつあります(図1)。未来の医療システムはデジタルでつながり、患者中心で、健康を重視したものになるでしょう。患者エンゲージメントツール、オンライン診療、スマートホーム、AIをベースとしたアナリティクスが、多様な方法で健康、ライフスタイル上の選択肢、慢性疾患を管理するツールを提供します。

しかし一連の診療をつなげ、きめ細かいエクスペリエンスを向上させるテクノロジーやデータのサイロ化をなくすテクノロジーは、ソリューションの一部にすぎません。その対極では人間的な診療の側面が重要視されています。エクスペリエンスを最適化するということは、個人が医療や健康のプロセスを歩んでいく中でその人やその人固有のニーズを理解し尊重することを意味します。

患者にとっては、高度に個別化された診療と個人に合わせた(つまり、「N-of-1(エヌオブワン)」の)先見的な関わりを通して、1人の人間として治療を受けることを意味します。医療従事者にとっては、摩擦が少なく高度かつ最新の、インスピレーションあふれる環境で有意義な仕事をすることを意味するでしょう。

図1:参加型医療の枠組み

            参加型医療の枠組み(画像)

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スマートヘルスエクスペリエンスをデザインする際の3原則

近代的なエクスペリエンスや労働条件など、患者や医療従事者が望む良質かつ効率的な組織基盤を整えるにあたっては、以下を考慮する必要があります。

1. 高度に個別化された診療を踏まえたビジョン

優れた診療の中核を担うのが個別化です。治療過程のあらゆるポイントが個別化され、患者独自のニーズや嗜好(しこう)に応えます。これがN-of-1(エヌオブワン)の治療です。患者それぞれの病歴に合わせて治療が行われます。例えば、既往歴に加えて長期的な健康データを把握すれば、高度にカスタマイズされた治療が可能になります。既往歴によっては、高血圧が許容される場合もあれば、警戒レベルに該当する場合もあります。

医療システムとの関わり方は患者によって大きく異なります。医療システムが高度にデジタル化しつながりを高めていくのに伴い、医療テクノロジーに対する基本的な態度や考え方が相互の関係に根本的な影響を与え、最終的にはアウトカムに影響します。EYの最近の研究では、米国の患者は所属するグループにかかわらず、医療テクノロジーに対する態度や行動によって4つのグループに明確に分類されることが分かりました。

そのうち「悲観的(Pessimists)」グループと「懐疑的(Skeptics)」グループは冷めた見方をしており、程度の違いこそあれ、両グループ共にテクノロジーの活用には無関心または不快感を抱いています。一方で医療とつながりのある「柔軟(Open-minded)」グループと「楽観的(Optimist)」グループでは、デジタル医療テクノロジーを自分の日常生活に組み入れることに寛容であり、かつより高いレベルでそれを受け入れています(図2)。

図2:米国の患者は4グループに大別される:テクノロジーへの積極性

 


            米国の患者は4グループに大別される(画像)

患者にこのようなグループが存在することが分かれば、どの患者層をターゲットとして製品、サービス、情報を個別化すべきかが分かります。対象を絞ることで、患者の嗜好、行動、参加傾向のデータを精緻に分析することによって製品やサービスを開発できます。これらは健康状態、診療の活用パターン、社会的要因に関する情報でさらに階層化できます。

2. 優れたデザインは人に始まり、人に終わる

人を中心としたデザインは、人と共に、かつ人のために、極めてシンプルにデザインされます。これは問題解決のための創造的アプローチです。人を中心に据え、まずは予備的で実体験に近いリサーチを行います。思い込みによらないスマートかつ踏み込んだ質問をし、リアルの環境の中で共に時間を過ごすことが発見の旅の出発点です。これは何をすべきか、何度も模索する旅になります。明確になった課題への新たな対応を想像し、潜在的なユーザーと共に試作品の作成やデザイン変更を繰り返し、前に進んでいきます(図3)。

医療機関は大規模で複雑でも構いませんが、ソリューションは人のためでなければなりません。その逆は当てはまりません。最善のアウトカムは、患者と医療従事者が万人にとってより良いエクスペリエンスに思いを巡らせる参加型の共同設計プロセスから生まれます4

例えば、効率性や利便性向上のために治療過程や退院手続きを合理化するといった、かなりポイントを絞ったものでも構いません。または、長年の仮説や習慣的な考え方を疑うことによって、プロセスやサービス設計を根本的に変える場合もあります。これによって価値を再定義し、新しい市場やビジネスモデルにシフトし、組織文化に複雑な変化をもたらし、健康を左右する社会的要因に関連した初期の課題に対応していきます。

診療の場を病院から家や地域社会へと移し、診療へのアクセスを改善することによって医療の不平等を低減することが一例として挙げられます。

人を中心とするデザインのポテンシャルを分かりやすく説明するため、「けもの道」を例に挙げます。ここで言う「けもの道」とは、人が自然発生的に作り出す近道で、通常は最短であるか、最も簡単に進める道を指します。米国の複数の教育機関では、生徒が歩いて自然にでき上がった道を観察してから舗装を敷くという方法によって、敷地が設計されています5

医療分野で望ましい道のり、好ましい道筋を見つけることにより、患者、医療提供者、従業員のニーズに合った、より対応力があり効率的なサービスの設計に役立ちます。例えば、胸部診療科と救急診療という関連性の高い診療を同じ場所に配置すれば、業務の効率性が高まり、医療従事者や患者の移動距離が短くなり、機器にタイミングよくアクセスできるようになります6

これはプログラム設計にも当てはまり、地方でのメンタルヘルス・オンラインサービスなどが挙げられます。これは決められた方法をトップダウンで導入するのではなく、使い方に合わせて提供されます7

図3:人を中心としたデザイン

            人を中心とした設計(画像)

3. デジタル資産とアナリティクス

包括的な治療を主に後押しするのがデジタル資産です。デジタルインターフェースでより人間らしいエクスペリエンスを設計するには、個人がデバイスやテクノロジーとどのように関わるかをしっかりと理解する必要があります。触覚マルチセンサーテクノロジーなど極めて革新的な新テクノロジーの設計において、人がどのように関わるのか理解することがその一例です。ユーザーに触覚に関するフィードバックを提供すると、デジタル体験の臨場感がさらに高まります。患者用のウエアラブル端末や、手術訓練などの臨床教育などがこれに該当します。

デジタルツールやテクノロジーはサービス提供プロセスの標準化を促し、臨床過程を統合して無駄や不必要な診療を低減します。患者にとって苦痛を伴う治療を円滑に進め、システムが患者の負担を軽減します。

以下に例を挙げます。

  • 反復的な業務のインテリジェントオートメーションや、ロボティクスを利用したプロセスの標準化・システム化を通じた業務の効率の最適化と労働生産性の向上
  • ヘルスアウトカム、薬の処方データ、保険、患者データ、遺伝子データなどの大量の健康および医療関連データを取得し分析することにより得られる患者の行動に関する洞察。これが予測医療、予防医療、個別化医療の基盤になる
  • 病気の進行過程に対する理解を深め、統合システム生物医学、生物医学情報学、トランスレーショナルリサーチ、公衆衛生など、新分野開発の広範な可能性を後押しするデータアナリティクス
  • バックオフィスとフロントオフィスのシステム統合による、スケジュール管理、コミュニケーション、請求および決済の利便性の向上
  • リアルタイムでのモニタリング、問題解決、シミュレーションテストに向けた実物資産や組織的なプロセスのデジタル複製

未来のスマートヘルスシステムでは、患者や医療従事者のエクスペリエンス改善に焦点を当てることが重要になるでしょう。

共同執筆者:Rachel Hall, EY Global Smart Health Experience Leader; Kenny O’Neill, EY Smart Health Experience Strategist; Aakanksha Kaul, EY Global Health Sciences and Wellness Analyst

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    1. Justin Keasberry, Ian A. Scott, Clair Sullivan, Andrew Staib, Richard Ashby.Going digital: a narrative overview of the clinical and organisational impacts of eHealth technologies in hospital practice.Australian Health Review, 2017, 41, 646–664.
    2. Peter Pronovost, Adam Sapirstein, Alan Ravitz.Improving hospital productivity as a means to reducing costs.Health Affairs blog March 26, 2019.
    3. Peter Pronovost, Jill A. Marsteller, Christine A. Goeschel.Preventing bloodstream infections: A measurable national success story in quality improvement.Health Affairs 30:4, April 2011.
    4. Jeanne Liedtka.Why design thinking works.Harvard Business Review, September-October 2018.
    5. Joel Reyes-Klann. The road more travelled: When to take or change the paths of least resistance.Jun 20, 2017.Cited October 08, 2020. 
    6. EGM Architecture. Erasmus MC Hospital.Cited October 08 2020.
    7. Kate L. Clarke.Can co-location address fragmented rural mental health care delivery?Regional evidence from Victoria, Australia.Australasian Journal of Regional Studies, (2017) 23, 2.

サマリー

患者を重視することは、臨床的にもビジネス的にも理にかなっています。総体的な医療におけるエクスペリエンス全体を向上させることで、患者と医療従事者の双⽅が得ることのできるメリットを、⼗分に理解しておく必要があります。未来のスマートヘルスシステムでは、患者や医療従事者のエクスペリエンス改善に焦点を当てることが重要になるでしょう。一連の診療をつなげ、きめ細かいエクスペリエンスを向上させるテクノロジーやデータのサイロ化をなくすテクノロジーは、ソリューションの一部にすぎません。その対極では、エクスペリエンスを最適化するために、人間的な診療の側面が重要視されています。

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