満足度の高いPXは、医療従事者の満足度をも高めます。逆もまたしかりです。ビジネスにとってはその両方がプラスに働くため、ヘルスケア業界のすべての企業はPXの向上を最優先する必要があります。適切な場所、適切なタイミングで最善かつ最も効率的な診療を可能にするには、医療機関は少なくとも診療を提供する側と受ける側の両方を含めた大局的な視点を身に付けることが必要でしょう。
患者側から見ると、プラスのエクスペリエンスを得られれば治療アウトカムが上がり、医療機関と良好な関係が続きます。結果的に医師の指示に従う可能性が高まり、将来的にも前向きに診療を受けようとするのです。診療過程をよりスマートなものにすれば、体調が悪い時だけでなく、予防するためにも医療機関と関わりやすくなります。スマート化の動きは、アウトカムの改善を目的として、長期にわたる行動変容を後押しし、より少ない労力でデータ収集を可能とするインフラの構築にも役立ちます。臨床に社会的要因のデータを組み込むこともその一例です。
医療従事者にとってのスマートヘルスエクスペリエンスは企業のデジタル変革から始まります。これについては、スマートヘルスシリーズの他の記事で説明します。スマートヘルステクノロジーを対面診療と組み合わせれば、医師と患者の双方にとって意味のある形で、診療の在り方を変えることができます。
スマートヘルスシステムに特有の包括的かつ長期的なデータセット、データフローの改善、治療の連携が、患者や医師に知見をもたらします。例えば、慢性疾患を管理するための個人に合わせた治療方針や、人工知能(AI)が組み込まれたツールによる行動管理などがあります。
既存のプロセスをデジタル化し自動化すれば、反復的で付加価値の低い業務を減らすことができ、医療従事者の時間や労力を患者への関与や治療に向けることができます1。このようなテクノロジーが、医療従事者の負担を軽減し燃え尽き症候群や離職を減らす、革新的なソリューションの原動力になります2。臨床治療の生産性は、ベストプラクティスを迅速に普及させることによって高めることができます。エビデンスに基づいて薬物治療を行えば、深く根付いた習慣を変え、異常や無駄を低減し、患者アウトカムを高めることができます3。
次世代ヘルスケアへの移行に伴い、診療モデルは予防を目的とした個別化、参加型のモデルにシフトしつつあります(図1)。未来の医療システムはデジタルでつながり、患者中心で、健康を重視したものになるでしょう。患者エンゲージメントツール、オンライン診療、スマートホーム、AIをベースとしたアナリティクスが、多様な方法で健康、ライフスタイル上の選択肢、慢性疾患を管理するツールを提供します。
しかし一連の診療をつなげ、きめ細かいエクスペリエンスを向上させるテクノロジーやデータのサイロ化をなくすテクノロジーは、ソリューションの一部にすぎません。その対極では人間的な診療の側面が重要視されています。エクスペリエンスを最適化するということは、個人が医療や健康のプロセスを歩んでいく中でその人やその人固有のニーズを理解し尊重することを意味します。
患者にとっては、高度に個別化された診療と個人に合わせた(つまり、「N-of-1(エヌオブワン)」の)先見的な関わりを通して、1人の人間として治療を受けることを意味します。医療従事者にとっては、摩擦が少なく高度かつ最新の、インスピレーションあふれる環境で有意義な仕事をすることを意味するでしょう。
図1:参加型医療の枠組み