- 2024年上半期、世界全体のIPOは前年同期比で件数が12%減少し、調達額は16%減少
- EMEIAは16年ぶりに世界のマーケットシェア第1位を奪還
- 製造業セクターのIPOが件数でトップに立ち、テクノロジーセクターの調達額が最大に
EYは、2024年第2四半期(以下、2Q)のIPOに関する調査結果を発表したことをお知らせします。2024年上半期は世界全体で551件のIPOがあり、522億米ドルを調達したものの、IPO件数は12%減少し、調達額は前年同期比で16%減少しました。これは主に、Asia-Pacific(アジア・パシフィック)でIPO活動が鈍化したことによるもので、上半期にはAmericas(北・中・南米)とEMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)は大きく成長しています。これらの調査結果は、EYの四半期レポート「EY Global IPO Trends Q2 2024(以下、本調査)」に掲載されています。
製造業セクターは115件(21%)とIPOの件数で首位に立ちましたが、これは主にインドでの好調な活動に支えられています。また、テクノロジーセクターは資金調達額で突出しており、その額は108億米ドル(21%)という驚異的な数字を記録しましたが、半分以上(52%)が米国での調達でした。
大規模なプライベートエクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)が支援するIPOが急増し、このような株式公開による調達割合は、2023年上半期はわずか9%でしたが、2024年上半期には41%に上昇しました。この傾向は特にAmericasで顕著で、IPO調達額の74%がPEおよびVCが支援する企業によるものでした。
エリア別パフォーマンスの概要:AmericasとEMEIAでIPO活動が回復する中、Asia-Pacificでの活動が急激に鈍化
2024年上半期には、好調な株式市場、IPOの評価額水準の改善、新規株式公開に対する投資家の熱意の高まりを背景に、AmericasとEMEIA両地域で株式公開に対する強い意欲が示されました。Americasでは、86件のIPOがあり、調達額は178億米ドルで、それぞれ前年同期比で12%と67%増加しました。
EMEIAは2024年上半期に目覚ましい復活を遂げ、2008年の世界金融危機以来、最高の世界シェアを達成し、総取引件数の45%、調達額の46%を占めました。この素晴らしいパフォーマンスは、欧州での大規模な上場によってもたらされたもので、より多くの大企業が現在の市場状況をIPOに最適であると認識していることを示しています。インドでのIPOも大幅に急増し、その件数は世界全体のIPO件数の27%(152件)となり、前年同期比で13%(81件)増加しました。
かつて多くのIPOを実現したAsia-Pacificは、地政学的な緊張、選挙情勢、景気後退、金利上昇、市場流動性の低下などの逆風が重なり、投資家の警戒感が高まって市場心理が悪化しています。この地域では、2024年上半期に長期にわたる減速が見られ、IPO件数はわずか216件、資金調達額は104億米ドルにとどまりました。この精彩を欠いたパフォーマンスは、前年同期比で件数として43%、調達額として73%という驚異的な減少を示しています。しかし、中国の政策立案者は、株式公開を選択する企業に強靭さと規模の向上を求め、IPOにより高い要件を設定していることを理解することが重要です。
EY Global IPO LeaderのGeorge Chanのコメント:
「世界のIPO市場は、地政学的な状況や選挙情勢の複雑さの中で新たなバランスを模索しながら、より広範な経済的背景の影響を受けています。オポチュニティの振り子が西側先進国に向かう中、Asia-Pacific地域は、この逆風に対する粘り強さが今、試されています。IPOを検討している企業は、進化するIPO環境の中で、十分な情報に基づいた戦略的意思決定を行うために、高い適応力を示す必要があります」
2024年下半期の見通し
本調査によると、2024年下半期、世界のIPO市場は、中央銀行の利下げスケジュール、地政学的緊張の高まり、各国で相次ぐ選挙などの重要な要因の影響を受けることとなります。
また、経済状況や地域のインフレ水準が変化する中、世界のインフレは引き続き冷え込むと予測されています。各国中央銀行の金融緩和サイクルは、よりタカ派的な米連邦準備制度理事会(FRB)の姿勢を受けて、金融緩和を先導する一部の欧州諸国と新興市場国とで乖離する可能性があります。一方、FRBを含む中央銀行が方針を転換し金利引き下げに進めば、投資家はより高いリターンを求めて資金を移動することが期待されます。この変化により、株式市場、新興市場およびテクノロジーやヘルスケア・ライフサイエンスなどの成長セクターの流動性が高まると予想されます。
George Chanのコメント:
「地政学的な緊張により、企業は高リスクの地域を避け、より有利な規制環境を求めて、新たなIPO市場を模索せざるを得なくなるでしょう。この変化は、新しい金融ハブの台頭につながり、IPO市場の状況を変える可能性があります。一方、選挙関連の不確実性はIPOのタイミングに影響を与えます。一部の企業は、選挙結果が市場の安定性や投資家の信頼に及ぼす予測不可能な影響を回避したいと考え、株式公開を延期して、選挙後のより安定した状況を待つ可能性があります」
EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー/EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長の齊藤 直人(さいとう まさと)のコメント:
「2024年上期の日本のIPO件数は、昨年の44社よりも6社減の38社となりましたが、そのうちグロース市場への上場は34社となり、全体の90%を占める結果となりました。プライム市場への上場はありませんでした。全体としてIPOマーケットの低迷が継続している状況となっていますが、第2四半期には、公募時価総額が1,000億円近い宇宙ビジネススタートアップ、地方のライフサイエンス企業、AI・DX・ロボティックス分野のテクノロジー企業等の銘柄が上場しており、成長セクターには、資金が集まる結果となっています」