第1章
CGM機器メーカーの強力なGTM戦略策定における重要な教訓
1型糖尿病と2型糖尿病の患者のニーズと、その他の患者グループの違いを認識することで、CGM機器メーカーのGTM戦略はどのように形成されたのでしょうか。
Medtronic社は、2017年にセンサーシステム「GuardianTM」で早い段階からCGM市場に参入しました。しかし、システムの複雑さ、指に針を刺すキャリブレーションが必須であること、またアラームの頻繁な作動を要因として、患者はより使いやすい製品に乗り換えるようになっています。3。2023年にAbbott Laboratories社が計上した(糖尿病ケア事業内)CGMの売り上げは53億⽶ドル4、同年にDexcom Inc社が計上した収益は36億⽶ドルです5。
糖尿病医療機器市場の主要なプレーヤーは、ターゲットとする患者のプロファイルに応じ、独自のGTM戦略をとってきました。Dexcom社は使いやすさ、安全性、控えめなアラームで、1型糖尿病患者に特に人気があり6,7、同社のCGM製品G6とG7では、低血糖を検知するセーフティ・アラーム・システムをカスタマイズすることが可能です。一方、Abbott社の手頃な価格のFreestyle LibreTMシステムは、診断後の生活の適応と管理に関心が高い患者に適しており8、2型糖尿病患者に対して優れた実績を残しています。
大手医療機器メーカーの間で価格競争は起きていないものの、各メーカーはCGM機器の価格を戦略的に引き下げ、市場での存在感の拡大を図ってきました。Abbott社は、2019年に生産拡大により価格を下げたと報じられていますが9、Medtronic社など他の大手メーカーも、2021年にGCMのコストを66%も削減し、同じ道をたどっています10。注目すべきは、従来はCGM機器の主たる消費者層ではなかった2型糖尿病患者市場を、企業が開拓していることです11。
糖尿病医療機器メーカーは、大手CGM機器メーカーの事例から学び、さまざまな顧客の特定ニーズに対応する、独自のGTM戦略の策定に注力する必要があります。例えば、1型糖尿病患者の場合、病気の重症度と合併症のリスクから、継続的モニタリングとハイブリッドクローズドループ技術に投資する価値があります。一方、多くの2型糖尿病患者は、高価な先端テクノロジーへの投資を望まず、より手頃な価格を選択肢として好みます。
同様に、地理的な違いもGTM戦略で重要な役割を果たします。ほとんどのメーカーは、米国と欧州で市場を拡大していますが、低・中所得国には、コストの制約、誤った情報、不十分な医療教育など独自の課題を抱えた未開拓市場があります。これらの市場をターゲットとする場合、CGM機器メーカーは、さまざまなアウトリーチチャネルや戦略を活用し、誤った情報や偏見を除外する必要があります。例えば、教育機関、NGO、政府機関と連携することで、若年層と中高年層、両方の患者集団を教育することができます。これらの他にも、メーカーがGTM戦略策定のために、分析・検討することが必要な重要な領域があります(図1を参照)。
第2章
糖尿病医療機器メーカーの今後の課題
CGM機器メーカーにとって、次の重要な課題は何でしょうか。また、それにどう対処すればよいでしょうか。
CGM機器はペイシェントエクスペリエンスと生活の質を向上しましたが、このテクノロジーはまだ発展途上にあり、技術面と市場において、両方の課題に直面しています。中でも、CGM機器市場への影響が不明なことから、最近の糖尿病治療におけるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide 1、以下GLP-1)の成功は、重要な課題となっています。
CGM機器メーカーは、GLP-1受容体作動薬を服用している患者において、血糖モニターの利用が増加したと主張していますが12, 13、2023年10月の報道によると、新薬に対する消費者の不安感から、医療機器関連の株価指数は3カ月間で20%下落しました14。一方、アナリストの予想は、医療機器メーカーと一致しており、2型糖尿病患者へのGLP-1受容体作動薬の投与開始後に、CGMの導入が加速し、アウトカムが向上すると予想しています。ただし、GLP-1の影響により、インスリンを使⽤する患者の割合が今後5年間で、20%〜25%減る可能性もあります1。医療機器メーカーは、GLP-1が患者の属性、治療パラダイム、臨床医とのコミュニケーションに及ぼす影響についての理解を⼗分に深めることにより、将来的に適切な戦略上の意思決定を下すことができます。
CGM機器メーカーのもう1つの課題は、機器の流通チャネルにあります。従来米国では、CGM機器はメーカーまたはサードパーティーベンダーからしか購入することができませんでした。2010年代半ばになると、CGM機器メーカーは保険会社と連携し、薬局の処方箋を通じて患者に直接CGM機器を提供するようになりました。これは企業に大きな利益をもたらし、ここ数年の売り上げ増加に大きく貢献しています。患者へのアウトリーチをさらに強化するために、CGM機器メーカーは、eコマース機能に投資し、消耗品と病気の管理をサポートするアプリに加え、健康管理に関するアドバイスをオンラインで提供すべきです。そのためには、医療従事者、保険者、糖尿病ケアで使用する他の機器のメーカー(インスリンポンプ、インスリンペン、医療用ソフトウェアの開発企業)との関係を育み、強化しなければなりません。
最後に、病気の種類、人口統計(年齢、性別、医療費)、確立されたチャネル(医療従事者、薬局、地域医療)による、それぞれの患者グループのニーズを深く理解し、より的確に活用するために、重要なデータと分析機能に投資し、開発することが必要です。テクノロジー企業と連携することで、各患者グループに対するインサイトを獲得し、より多くの情報を基に、市場と治療に関する意思決定を行うことができます。
第3章
糖尿病医療機器メーカーの今後の展望
CGM機器メーカーが、CGM を糖尿病の新たな標準治療としての普及を図るために、糖尿病治療全体をカバーするよう拡大し、データを活用するには、どうすればよいのでしょうか。
一歩先を行きたいCGM機器メーカーは、最先端のテクノロジーやパートナーシップに投資し、スクリーニング検査や診断、モニタリングや管理まで、一連のペイシェントジャーニーをサポートする幅広いソリューションを提供する必要があります。この戦略的な機会に加えて、メーカーが見据えるべき戦略として、糖尿病性神経障害、慢性腎疾患、糖尿病足病変・眼病変など糖尿病の併存疾患を対象に加え、事業領域全体を拡大することも重要です(図2参照)。
メーカーは、CGMなど既存のテクノロジーを活用して、ウエアラブル端末や専用のフィットネス・ダイエットアプリを通じて、より多くの血液由来のパラメーターや、医師から指示された生活習慣(食事や運動)に対する患者の現状もモニタリングすることができます。また、予測分析やAIテクノロジーを組み合わせることで、糖尿病とその関連疾患のワンストップソリューションを開発し、患者の負担をさらに軽減し、ペイシェントエクスペリエンスを全体的に向上させることが可能になります。収集したデータは、医師、医療従事者、医療機器メーカー、医薬品メーカーが個々の患者のより良い治療法や、糖尿病の治療と管理全体の効果的な方針に関するインサイトを得るために活用できます(図3を参照)。
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サマリー
CGM機器市場は近年、目覚ましい成長を遂げています。本記事では、大手CGM機器メーカーを成功に導いた主要な戦略を取り上げ、CGM機器メーカーが直面する課題について議論の上、CGM市場の将来について考察しています。
謝辞
本記事の作成に当たり、Liga SkardaとAman Bhatnagar、Hebri Nandita Mallyaの多大な貢献に感謝の意を表します。