ケーススタディ
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セルフディスラプションを可能とするエコシステムをいかに活⽤するか― 保険業界向けEY Nexus活用事例

Nationwide Insuranceは、これまで獲得できていなかった顧客層(セグメント)を取り込んでいくために新ブランドと新しいテクノロジープラットフォームを必要としていました。

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The better the question

⼤企業はディスラプターを恐れるべきか、⼿を組むべきか︖

Nationwideのイノベーションチームは、新商品の発売を迅速に⾏おうとしましたがレガシーシステムの壁が立ちはだかり、EYにサポートを求めました。

急速に変化する今⽇のビジネス環境で⽣き残るには、テクノロジーを活⽤して機敏性を⾼める必要があることは常識となっています。しかも、今起きている状況に適応するだけでは⾜りません。次に起きる状況、そしてさらにその先に備えることが重要です。

新たなテクノロジーの導⼊が必要だと認めるのは簡単ですが、難しいのは、そのためにとる⾏動です。

保険会社にとって、⼤きな変⾰を⾃ら⾏うことは容易ではありません。保険会社の多くは数⼗年に及ぶ歴史があり、新たな商品とサービスを開発する上で価値のある洞察を導くことができる膨⼤なデータの蓄積があります。

その⼀⽅で、保険会社は更新や入替に⼿間と費⽤がかかりがちな複雑なレガシーシステムを使⽤していることが多く、規制当局からの強い圧⼒にも直⾯しているため、もし新たなソリューションが⽬的に適していなかったり、不適切に実装された場合、財務、レピュテーション(評判)⾯で壊滅的な影響を受けかねません。

「私たちは迅速に動けるのだと証明したいと思っていました」とNationwideのLead Executive兼Innovation Leaderであり、同社の⼦会社であるSpireの社⻑も務めるScott Liles⽒は述べています。「その最初の⼀歩として、『今年中に新商品を発表する』と表明しました」

この思い切った⽬標は、市場の変化という差し迫った問題を反映したものでしたが、柔軟性に⽋ける数多くのレガシーシステムとプロセス、そして変化への抵抗が強い⽂化を持つ⼤⼿保険会社にとって、大きな課題となりました。

「2019年初めに着⼿したとき、NationwideのIT担当者は、中核システムの⼤規模なトランスフォーメーションを既に⾏っているため、新たな保険商品の実装作業を優先させることはできないと⾔っていました」とEY Global Insurance Technology LeaderのDavid Connollyは振り返ります。「Nationwideのイノベーションチームも別のアプローチを検討する必要があると⾔っていましたが、EYは保険業界向けのEY Nexusが、わずか7カ⽉間で新商品の発売を可能とするプラットフォームであることを実証しました」

デジタルファーストな顧客向けの設計

Nationwideは1926年に、農業従事者に⾃動⾞保険を提供することを⽬的に設⽴されました。何年にもわたり商品やサービスを進化させてきましたが、2019年の初めに、今までとは全く異なるデジタルファーストのマインドセットを持った新世代のドライバーを獲得する新商品の発売を考えるようになりました。

⽶国では現在、⼈⼝のほぼ50%をミレニアル世代とZ世代(両⽅合わせて1981年から2012年の間に⽣まれた世代)が占めています。デジタル思考を持つこの世代の影響⼒が急増しているため、彼らの期待に乗り遅れないようにすることが急務でした。

まずターゲットとする顧客層にとって優れた保険商品とはどういうものなのかを明確にする必要があると認識していた商品開発チームは、デザイン思考アプローチをとり、Tonikaと名付けた架空の顧客を設定し、プロジェクト展開の中⼼に据えることにしました。

「Tonikaは私たちがアンケート調査を⾏った⼥性の一人でした。彼⼥の回答は、調査参加者から聞き取った内容を全て兼ね備えていたため、彼⼥を他の参加者から聞いた内容も盛り込んだペルソナ像とすることにしました」とLiles⽒は語っています。

25~37歳の年齢層にいるTonikaは、両親の携帯電話契約プランから独立しており、モバイル体験を通じたエンゲージメントを好んでいます。ただ、物事の進み⽅が遅く、不平等で不透明であると感じ、価値を⾒いだすことができていません。

スピードとシンプルさの追求

「このような若い消費者は、保険会社がなぜ多くの情報を必要としているのかが理解できません」とEY Digital InnovationチームのKunal Kochharは説明します。「なぜ結婚しているかどうかが問題になるのか。 ⾞種、⾛⾏距離や過去の保険事故、使⽤⽬的だけを基準にすべきだ。この世代はこのように考えています」

顧客のアンケート調査を⾏ったことで、Nationwideはデジタルファースト型のプラットフォームだけでなく、Tonikaのような顧客をターゲットとした保険の加⼊体験を徹底的にシンプルにするプラットフォームの構築が必要であることに気づきました。

「Tonikaは透明性を求めています。信⽤できるようにしてほしいと思っているのです」とKochharは続けます。「Tonikaたちの世代は、何のためになぜ支払っているのかが知りたいと願い、また、それに見合うだけの補償が欲しいと思っています」

最終的にNationwideは、Tonikaが望んでいるのは、これまでとは根本的に異なる保険商品だと判断しました。「彼⼥は保険のあらゆるやりとりにおいて、快適な顧客体験を望んでいました」とConnollyは述べています。「迅速な⾒積と保険証券の発行、保険請求時には支払状況が積極的に顧客に共有される体験です」

⼀般的な保険商品では、最⼤で60もの記載項目があります。例えば、性別、配偶者の有無、信⽤スコアなどです。しかしSpireの場合、最低限の情報しか必要ではありません
Kunal Kochhar
EY Senior Manager

免許証をスキャンし4つの質問に答えるだけで、60秒以内に保険証券が自動的に発行されます。

難しい目標の達成を目指す

Nationwideは、⾰新的で常識を打ち破る商品を求めていただけではなく、早く世に出したいと考えていました。しかも2019年12⽉の発売に間に合わせるため、7カ⽉以内にという短い期間でした。

しかし、保険会社全般に⾔えることですが、既存の保険会社は特に、変化への適応に時間がかかる傾向があります。レガシーシステムと企業⽂化の制約によって遅れが発⽣することを避けるため、Nationwideは完全な別会社として新たにSpireを⽴ち上げ、外部委託を活用したテクノロジープラットフォームで運営することを決めました。

そのため、Spireにはデジタルインフラと経営モデルの構築が全くない状況で、過度のリスクや法外な出費を避けなければならないという問題が生じました。

ここでSpireのチームが必要としていたのは、プラグ・アンド・プレイのアプローチをイノベーションに採用する方法でした。EYのチームは保険業界向けEY NexusのプラットフォームでSpireが抱えていた問題を解決し、この新しい保険会社の創設支援に携わることができました。

保険会社の⼤半は、新商品の発売には⼀般的に18〜24カ⽉かかると言いますが、この時点で、Nationwideが許容できる期間を超えていました。しかも同社は中核業務の変⾰を進めている最中であったため、新商品の発売には5年もかかる可能性があったのです。

EYがSpireのプロジェクトに加わったとき、発売予定日まであと7カ月しかありませんでした。しかし、保険業界向けEY Nexusを利用すれば、通常3~9カ月で発売することが可能になります。

Nationwideは、Spireと既存市場の奪い合いになりかねないことを⼗分認識していましたが、他社に仕掛けられるのを待つよりは良いと考えました
David Connolly
EY Global Insurance Technology Leader

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The better the answer

迅速なイノベーションを可能とするEY Nexusの活⽤

Nationwideは、EY Nexusを活⽤して、精選されたエコシステムパートナーを通じて⾰新的な新会社であるSpireを迅速に設⽴し、規模を拡⼤させることができました。

NationwideがEYとEY Nexusプラットフォームを選ぶ決め⼿となったのは、EYが⼈材とテクノロジー、信頼性を兼ね備えている点でした。

「技術的な面でかなり苦労することになると分かっていましたし、EYが5年以上にわたり、Nexusで他社を支援し、業界を大幅に活性化させてきた実績も知っていました」とLiles氏は言います。「EYはNationwideの長年のパートナーでもあったので、私たちとの仕事の進め方を把握していました。市場をリードしている点、これまでの関係、オペレーションを担当する人材がEYにはそろっており、良いスタートを切ることができました」

壁を打ち壊す

本当の意味で常識を打ち破る商品づくりに向けて、最初の⼀歩として、ディスラプター企業がとる⾏動を学び、ターゲットとする顧客のニーズにフォーカスし続けることを始めました。Spireの場合、Nationwideの本社とは別の場所に職場をつくることも必要でした。スタートアップ企業のような雰囲気が⽣まれるよう、Tシャツとスニーカー姿でピザを⾷べながら⾏うハッカソンも開催しました。

「テクノロジーを活⽤した少⼈数のチーム体制をとり、EYのような外部からの考えを多く取り⼊れていたため、これまでとは異なったマインドセットが⽣まれました」とDavid Connollyは⾔います。「Spireのインキュベーターをサポートするチームを世界5カ所に置いたところ、品質が向上し、シームレスな稼働環境によって1⽇当たり16時間の⽣産的な時間を確保することができました」

この成果は、少人数からなるSpireの専任チームに加え、EYのユーザーエクスペリエンス(UX)、デジタルマーケティング、機能・保険数理・技術開発、テスト、プロダクションサポート分野のプロフェッショナルがこのプロジェクトに携わったことによりもたらされました。

4つの質問と免許証だけで保険料を決めるという⽅針は、Spireのプロジェクトの中核をなす最も重要な前提でした。どのように保険料を算出するかという難題にあたって、EYのチームは迅速にEYが持つ専⾨知識と経験を提供したことで、「わずか6週間でその⽅法を考え出すことができました」とConnollyは述べています。

この期間、EYかSpireの人間かなど、ほとんど意識することはありませんでした。「真の『ONE TEAM』になったのです」とConnollyは⾔います。「全員がお互いを⽀え合い、リーダーから質問があれば、EYとSpireが同じ答えを返すことができました。⽐喩的にも⽂字通りでも、壁はありませんでした」

Nexusによるモジュール式のエコシステムアプローチ

Spireのスピードと成功は、EY Nexusに搭載されている基盤テクノロジーが⽀えています。EY Nexusは最新の保険商品を⾼速かつモジュール式に構築できる強⼒なプラットフォームであり、既存の中核業務の刷新や新商品の開発を可能とします。

保険業界向けEY Nexusでは確⽴されたテクノロジーと先端テクノロジーを数多く利⽤していますが、いずれもMicrosoft Azureを基盤としています。ここで重要となるのが、EYのチームにもクライアントにも利⽤できるテクノロジープロバイダーが限定されない点です。EY Nexusは、別のクラウドプロバイダーや、既製あるいはオーダーメードのソリューション向けに構築された商業⽤テクノロジーと完全な互換性を持つよう開発されています。「Azureはクラウドインフラであり、基本的なイメージとしては、料理を並べるテーブルです」とKochharは⾔います。「テーブルの上の⽫はそれぞれ取り込むことができるモジュール要素であり、EYはクライアントが必要とする要素の構築や購⼊を取り違えることなく⾏っています」

Nexusの成功の要は、EYのチームが個々のクライアントのニーズの把握に努め、求められる結果を出すために最適なモジュール要素を特定している点にあります。こうした取り組みから、サードパーティーのソフトウエアプロバイダーとの提携であれ、オーダーメードのアプリケーションの⾃社開発であれ、EYはソフトウエアのエコシステムを迅速に構築しています。

「Nexusの素晴らしい点は、単一のソリューションではなく、プラットフォームだというところにあります。ビジネスの特定の機能に特化したソフトウエアではないのです」とEY Global Alliance and Ecosystem LeaderのGreg Sarafinは言っています。「Nexusは、EYが精選したエコシステムからケイパビリティを特定し、そこからクライアント向けの新たな商品やサービスを開拓する⼿助けとなります。また重要な点として、クライアントやその顧客のためのフロントエンドのエンゲージメントシステムに⽀障を来すことなく、バックエンドのシステムの変更を処理するように設計が考慮されています。さらにニーズが変化し、新たなケイパビリティが利⽤できるようになれば、常に適応し、進化を続けていくことができます」

より迅速な保険商品の開発

Spireの完成が近づき、EYのチームとNationwideのチームが連続テストの段階に⼊るにつれ、上記で述べたNexusの柔軟性がますます重要になりました。Nexusを利⽤することで、常に商品の⾒直しを⾏うことができたからです。

EYを選んだ理由の1つは、実績のあるプラットフォームと、最新テクノロジーに交換できる能⼒です。私たちはわずか数週間で極めて迅速に変化を成し遂げることができました。驚くべき速さです
Scott Liles氏
Spire Lead Executive

EY Americas Digital Insurance and User Experience LeaderのNashは、「やり直す時間がなかったため、2つの異なるポッドを同時に実⾏しました。作業をひと通り⾒て、柔軟に商品を開発できる仕様書と短期計画を策定しました」と述べています。

このアプローチは、設計プロセスにとどまらず、その後のSpireのライフサイクルにもメリットがあります。顧客のニーズや期待の変化に適応し続けられるからです。こうした技術⾯での柔軟性は、EYの参加があってのものであり、EYは保険に関する知識を生かして積極的に保険商品の未来像を描き、現場の動向を⾒守りながら、成⻑の余地があれば適切な場所で対策を実⾏しています。

EY Chief Solution ArchitectのShekhar Mahadevanは、「Spireとは3年間のプロダクションサポート契約を結んでおり、仮に、素晴らしいデジタル⽀払機能が2年⽬に誕⽣した場合、私たちはSpireの経営陣に変更の希望を伝えます。スワップアウト/イン(交換)に必要なシステムの停止時間は最⼩限かゼロであり、⼿間もほとんどかかりません」と言います。

EY Nexusのモジュール式デジタルアーキテクチャと、作業における柔軟なアジャイル戦略を組み合わせることにより、EYのチームは、真に最先端の商品を迅速に発売するために必要なテクノロジーとケイパビリティをSpireに提供しました。

必要な保険だけではなく、人々に望まれるような保険を開発する。それが私たちの合言葉でした。それを成し遂げることができたのは、これまでとは異なる⽅法を実⾏したからです。そして、そのパートナーシップでEYは極めて重要な役割を果たしてくれました
Scott Liles氏
Spire Lead Executive

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The better the world works

迅速な⼤規模イノベーションを可能とするエコシステムの統合

EY Nexusのようなプラットフォームで精選されたエコシステムを統合すれば、保険業界だけでなく、あらゆる業界の変⾰が可能になります。

取り組みの結果誕⽣したのが、モバイルファースト・プラットフォームです。顧客は、免許証をスキャンして4つの質問に答えるだけで、60秒後に⾒積書を受け取ることができます。代理店の仲介は必要ありません。

その後も、このプラットフォームは継続して顧客に透明性のある保険商品を提供し、彼らの保険体験を向上させる⼿助けとなっています。例えば、テレマティクスを使⽤したSpireのアプリケーションでドライバーの運転状況をモニタリングし、ドライバーの⾏動に応じて助⾔をしたり、保険料の割引などの適⽤を行ったりしています。

Scott Lilies氏は、「実にうまく機能しています。素晴らしいフィードバックも寄せられています」とし、「特にモバイルファースト・プラットフォームとして、Spireは保険市場で⾼度に差別化されていると評価を受けています。保険契約手続きの約98%はモバイルを利⽤して⾏われていますが、それこそがまさに私たちが望んでいたことです。この新しい保険商品がうまくいっていることは⼼から喜ばしく思っており、リスクが識別され、価格設定は適正で、⼈々から⾮常によく理解されています」と述べています。

エコシステムの統合により、全ての企業がより迅速に動けるよう⽀援

Spireの事例は、⼤企業が⽬的に沿って迅速にイノベーションを実現する⼿本となり得ます。伝統的な⼤⼿保険会社が数か⽉間で商品設計を根本的に変え、常識を打ち破る保険商品を世に送り出すことができた背景には、ケイパビリティを丁寧に精選したデジタルエコシステムを活⽤できる柔軟なプラットフォームの⼒があったからです。

これは、保険業界だけの課題ではありません。世界中のあらゆる企業や業界が、ディスラプションで同じ課題に直⾯しています
Greg Sarafin
EY Global Alliance and Ecosystem Leader

Greg Sarafinは、下記のように述べています。「ほとんどの企業には、セルフディスラプションにつながる規模のイノベーションを起こす資⾦や社内ケイパビリティはなく、連携するディスラプターを⾒つける⼒が必要になります」

「パートナー候補が⾒つかったら、その中で連携できる企業とできない企業を⾒極められる⼒が必要です。競合相⼿になり得る企業が混じっている場合はなおさらです。次に、そうしたディスラプターと連携する際のオペレーショナルリスクにどう対処するかを考える必要があります。中には⼩規模で、⻑く事業を継続できない恐れのある企業もあるからです」

「企業に必要なのは、EY Nexusのような仲介プラットフォームです。EY Nexusは、フロントエンド業務にリスクを及ぼすことなくこのような企業との連携を実現させ、さまざまな⾰新的テクノロジーとソフトウエアプロバイダーをシームレスにスワップイン/アウト(交換)させることができます。私はこれをエコシステムの統合と呼んでいます」

「EY Nexusが他のプラットフォームとは異なっているのはこの点です。EYはパートナー候補を⾒つけて紹介するだけではなく、こうしたパートナーが事業を⽴ち上げる際のオペレーショナルリスクと、パートナーをそのツールやテクノロジーと共に統合する際のオペレーショナルリスクもカバーします。紹介して終わりではありません。EY Nexusはクライアントにエコシステムパートナーとの連携とイノベーションのための新たな⽅法を提供します」