EYの調査によれば、技術の内容にはよるものの、米国ではすべてのデジタル技術の普及率が3倍に拡大し、30~45%に達すると見込んでいます。
EYの調査によれば、技術の内容にはよるものの、長期的にみて米国ではすべてのデジタル技術の普及率が3倍に拡大し、30~45%に達すると見込んでいます(図2)。当初、遠隔医療へのシフトをもたらした主たる原動力は個々人の安全への懸念でしたが、今ではその利便性や即時性を理由にデジタル技術の利用を続ける意思を示しています。これは私たちが、ペイシェントエクスペリエンスを効率化する管理技術が、最終的に遠隔医療技術をも超えて浸透する、と考える理由の一端でもあります。管理技術の例としては、オンラインの診療予約や、アプリを利用した薬の処方依頼などが挙げられます。今後数年間にバーチャルケアとリアルケアの統合を目指すヘルスケア提供者にとっては、これらの利点を心にとどめておくことが重要です。
バーチャルケア
83%パンデミック以前よりもデジタルヘルス技術が利用しやすくなったと感じている医師の割合
スマートヘルスケアに向けた長期的シフトの加速
人々がスマート技術への長期的シフトを実現するにあたっては、技術開発企業、医師および医療業界がいずれも重要な役割を果たすことになります。
第1に、一部の患者が対面受診に回帰したとしても、医療提供者はデジタルソリューションを提供し続ける必要があります。それにより、患者が受診方法を選べるようになるだけでなく、新しい技術に接する機会をもたらすことにもなります。例えば、遠隔医療ツールだけでなく、生体データを収集・送信するウエアラブル端末や、臨床研究に利用できるクリニカル(臨床)グレードの遠隔監視デバイスなどの技術です。こうしたことからもEYの調査は前向きなトレンドを示すものと言えるでしょう。図2で見た通り、60%以上の医師がパンデミック後も遠隔医療技術を使い続ける意思を示しているからです。さらに言えば、遠隔監視技術など、より患者に重点を置く技術は一体型スマートヘルスエコシステムの構築において鍵となる要素であり、今後、医師による採用が急拡大する可能性があることは明らかです。
第2に医師や医療業界は、人々が満足度を高め、将来的にスマート技術を進んで受け入れる状況を作り出すべく、既存ソリューションの採用拡大につながる策を講じる必要があります。私たちは、技術において現在の採用度と将来の採用度の間には強い相関があるとみています(図表3)。人々が新しい技術を一つ使うようになると、将来の技術に対する意欲は平均して約5%増大します。すなわち現時点での採用拡大は、将来のスマート技術の広範な導入に道を開くものになる、ということなのです。現在、69%の人々がわずかとはいえ医療技術を利用しており、この事実は大きな機会の潜在性を示唆します。医師や医療業界はこうした機会を生かすべく、さまざまなソリューションから成るデジタルエコシステムの構築に注力し、足元では複数技術の同時採用を加速させるとともに、将来の新たなスマートソリューションのためのプラットフォームを構築しなければなりません。
最後に、技術開発企業は利用者の主なニーズや課題に対応できる製品群を開発する必要があります(図4)。これは利便性を特に重視した技術、医師のワークフローにシームレスに統合できる技術の開発を意味します。一方で、医療の質の面で妥協したり、臨床医の事務的負担を増やしたりしてはなりません。患者のために開発を行うということは、高効率なユーザーインターフェースや、多数の異なるアプリに代わる一体型のツールなど、利便性や即時性の向上につながる機能を重視して開発に取り組むことなのです。
テレヘルス拡大の勢いが手掛かり
今回のパンデミックにおいて一つ光明があるとすれば、シームレスかつスマートで、より統合の進んだヘルスケアエクスペリエンスの提供に向けて、米国の医療業界が大きな一歩を踏み出したことでしょう(図5)。今回の危機は、医療提供のあるべき姿に対する先入観に疑問を投げ掛け、これまでデジタルヘルス導入を阻んでいた障壁が崩れる要因ともなりました。医療業界や医師は、バーチャルケアの提供を成功裏に実現させる手法を学んだだけでなく、将来的に欠かすことのできないサービスの一部としてバーチャルケアを実践しようとしています。医療技術によって自らのケアエクスペリエンスがいかに簡素化・強化され、個々人に合わせてカスタマイズされたかを目の当たりにした患者は、今後こうした診療をますます求めるようになるはずです。
リアル、遠隔、バーチャルそれぞれの環境下で、いかに医療の統合・調整を行うべきかについて、多くの学びがありました。さらにさまざまな組織がよりスマートな医療への移行を続けるべく必要な措置を講じる中で、得られる知見はまだあるはずです。例えば、①共通の技術・通信基準を開発する、②許可を得た上で医療情報を安全な形で交換できるようにする、③構造化・非構造化にかかわらず膨大な医療データから実用的な知見を引き出す能力を開発する、などが考えられます。これらは、コネクテッドヘルスエコシステムに向けて適切なデータ環境を整えるために不可欠な技術的要素です。EYのヘルス情報アーキテクチャー(How will you design information architecture to unlock the power of data?)に関する最近の記事で、以上の要素について取り上げています。
コロナ禍、医療の在り方を患者のニーズに合わせて変化させる取り組みが進んだ結果、最終的には「デジタルファーストのヘルスケアエクスペリエンスの提供に欠かせない」と誰もが長年信じ込んでいたものが覆されました。企業の幹部層やヘルスケア業界のリーダーは、「スマートヘルストランスフォーメーション」の姿を再度思い描き、3つの疑問について自ら問い掛けることが重要です。
- スマートヘルスがもたらす機会のどれを追求すべきかを確認し、優先順位を決めるにあたり、大胆かつ包括的でデータ中心のアプローチを採用しているか
- 自組織のスマートヘルスエコシステムには、患者にとって明確なエントリーポイントがあるか、また同システムは新たなエクスペリエンスを患者に提供し、新サービスへの本質的な需要を喚起できるか
- 自組織は、デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略および投資戦略において、技術中心ではなく、患者中心のアプローチを追求しているか
Michael Wheelock, PhD, EY Global Advanced Insights Lead、Sheryl Coughlin, PhD, EY Global Health Sciences and Wellness Senior Analystによる寄稿
サマリー
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、ヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)は後戻りのできない段階に入りました。デジタル能力を深化させ、魅力的なアクセスポイント(アプリやウェブポータルなど)を構築することにより、デジタルファーストのヘルスエクスペリエンスを提供できるようになれば、患者の取り込みにおいても、より満足度の高いペイシェントエクスペリエンスの提供という意味でも、長期にわたり競争優位に立てる可能性があります。