11 分 2018年5月16日
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米国の税制改革はなぜ貴社のゲームチェンジャーになり得るのか

11 分 2018年5月16日

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全世界の企業は今、このチャンスを利用して、未来に向けた計画を立てるべきです。

長年にわたる協議を経て、代案やさまざまな提案が出された末に、長い間待ち望まれた、全面的な税制改革がついに実現しました。誰もが「実現したらどうなるのか」ではなく「これからどうすべきか」に思考を切り替える必要があります。

米国政府は、税制改正が経済成長の促進につながると予想しています。米国法人税率の上限は、これまでの35%から21%になり、過去20年間で初めてG20の平均法人税率を下回りました。

EYの最新分析によれば、税制改革の結果、米国の経済成長率は2022年まで、年1.2%加速します。ですが、新法の一部条項が期限切れになると同時に、経済が変化に完全に順応するため、その後は「緩やかな」年成長率に落ち着く見通しです。

これらの新租税政策によって、多くの企業のキャッシュフローと利益は短期的に上昇します。しかし、改正自体が企業の競争力を高めたり、長期的な成功をもたらしたりするのかどうかは、まだ分かりません。米国の税制改正法(TCJA: Tax Cuts and Jobs Act)がもたらす経済的恩恵。企業は率先して、これを残さず活用するためのベストなビジネス戦略を品定めする必要があります。

資本投資、サプライチェーン運用、M&A、他人資本・自己資本構成、財務報告、社員の待遇、幹部の報酬などといった、はるかに広い範囲で、企業のあらゆる部署に影響を及ぼします。こうした幅広い影響を理解しているビジネスリーダーこそ、新しい視点を取り入れ、戦略を切り替え、ビジネス環境の中でうまくかじ取りを行うことができるのです。

EY Global Chairman and Chief Executive Officer であるMark A. Weinbergerは次のように話します。「これは米国企業にとって、極めて重大な意味を持つ局面です。自社にとって新税法が何を意味するのか。実務においてどのように取り入れるのか。ベストチャンスはどこにあるのか。企業のCEOは、これらを評価しなければなりません」

領土内所得課税

2017年12月22日。ドナルド・トランプ大統領の署名により、米国税制改正法案(TCJA)が成立しました。これに伴い、米国は企業に対する全世界所得課税から領土内所得課税に移行しました。他のG7諸国は、すでにこの政策を実施しています。

これまでの制度下では、米国政府は、本社を米国に置く多国籍企業の、全世界における所得に課税することが可能でした。ですが、その所得が海外に置かれたまま米国に送金されない限り、米国企業はこの税を無期限で延納することができました。

多くの米国企業がその方法を選択しました。Capital Economicsの2016年調査報告書によると、2015年の時点で、約2兆5,000億米ドルの現金が海外で保有されています。

米国下院歳入委員会は、2017年の税制案概要の中で、旧政策が米国企業と経済全体の妨げになっていることを認めました。第一に、米国に拠点を置く多国籍企業は、諸外国に拠点を置く競合他社よりも税負担が重く、競争の場がゆがめられていました。第二に、旧制度は「ロックアウト効果」を生み、米国企業は海外の子会社が得た所得を、海外で保有することになりました。

企業を対象とした新しい領土内所得課税によって、このような不利な条件が取り払われるでしょう。米国政府はそのように考えています。TCJAのある条項は、特定の外国企業が米国の法人株主に支払う配当金のうち、外国で発生した部分については、米国での課税を100%免除することを認めています。この条項によって、米国に本社を置く多国籍企業は、今後外国で得た利益に関して、米国の税金を追加納付せずに済みます。そして、現金を本国に送金して再投資できるようになります。

1986年以降、課税が繰り延べされた海外での所得に関しては、米国企業は1回限りの移行税を納付しなければなりません。税率は流動資産(現金および現金同等物)が15.5%、非流動資産(不動産、プラントおよび設備)が8%です。しかし、これまで米国企業が、現金を海外から本国に送金した場合に課されていた35%の税率に比べれば、はるかに有利な条件です。

長期的視点に立って

米国の税制改正によって創出された余剰資金を使い、多くの企業が何をするのかに注目が集まります。考えられるのは、配当金の引き上げや、社員への臨時賞与支給などでしょう。

これは、短期的に重要な考慮事項ではありますが、短期的な部分にだけ注目するのでは視野が狭すぎます。企業の経営幹部は、米国の税制改正がもたらす広範囲の長期的影響を理解するために、ビジネス全体をもっと幅広く見渡すべきです。

新法がきっかけとなり、企業は成長計画を実現するために、それぞれのビジネスモデル、戦略、経営モデルを再評価せざるを得ない事態になるでしょう。

法人課税について、全世界所得課税から領土内所得課税への移行。このような米国の政策転換は、各企業のビジネスと経営モデルに広範な影響を与える可能性があります。組織のリーダーは今こそ、会社の立地、サプライチェーンの構造と投資、さらには全体的な運用環境までも戦略的に再評価すべきです。

ワシントン在住のYvonne Metcalfe(Ernst & Young LLP Ernst & Young LLP National Tax DepartmentのInternational Tax Servicesグループのメンバー)は次のように指摘します。「企業は、米国の税制改正がそれぞれのビジネスにどう影響するのかを、幅広い戦略的視点で考える必要があります。新法がきっかけとなって、企業は成長計画を実現するためにそれぞれのビジネスモデル、戦略、経営モデルを再評価せざるを得ないでしょう」

例えば、ある工業製品メーカーが増益を図るために、新しい経営モデルを導入しているとします。そうすると、この会社は、米国の新税法がその計画にどのような影響を及ぼす可能性があるかを、まず検討すべきなのです。

あるいは、多額の現金を海外で蓄積し、投資するような構造のサプライチェーンを持つ企業を例に考えてみましょう。すると、米国の税制改革は、組織がサプライチェーンを見直す良い機会となります。なぜなら、新しい領土内課税制度では米国国内での投資がより魅力的な選択肢となるからです。

EYの工業製品・自動車・輸送部門でEY Americas Advisory Sector Leaderを務めるJerry Gooteeは、次のように指摘します。「デジタル・ディスラプションと世界市場の発展は、すでに多くの企業をビジネスと経営モデルを再考する方向へ向かわせています。

米国の税制改革は、このようなトランスフォーメーションに向けた、もう一つの重要な経済的インセンティブとなるでしょう。しかし、企業は時間をかけて、確実に十分な情報を得るべきです。それができて初めて、落とし穴を回避し、税制改革がもたらす全てのチャンスを生かすことができるのです」

どのようなメリットが期待できるのか

例えば、雇用を増やす、賃金を上げる、新しい工場やオフィスを建てるなど。米国政府は、これらの形で「新税法が企業による米国国内での投資を促すことになる」という前向きな見解を示しています。

企業は突然、多額のキャッシュを持つことになり、まさに今、どこにどのような形で戦略的投資を行うかを検討しているところです。 年間売上高5億ドル以上の企業の幹部500名を対象にEYが最近行った調査 によれば、回答者の47%は研究開発への投資を増額する計画です。また、46%は株主に資本を還元する計画で、42%は節税分をM&A活動に投資したいとしています。

EY Americas Vice Chair — TaxのKate Bartonは次のように語ります。「新たに多数の資金源ができました。企業にとってはありがたい状況です。その資金の投資先は各社それぞれです。一つの答えがあるわけではありません」

税制上の恩典を社員に還元する企業もあります。例えば、金融サービス会社Wells Fargo & Companyは2017年12月に、従業員の最低賃金を時給15ドルに引き上げる計画を発表しました。通信会社AT&Tは、20万人を超える米国国内の従業員に1,000ドルのボーナスを支給する計画です。

依然として問題となっているのが、賃金の停滞です。ブルッキングス研究所(ワシントンDCにある公共政策研究機関)の2017年報告書によると、米国の実質賃金の年間上昇率は0.2%を下回っています。そのような中、米国政府はこうした動きを歓迎しています。

すでに、新資本支出計画をスタートさせた企業もあります。米国政府はTCJAにより、米国への投資を促す、新たな税制上の優遇措置を提供しました。一時的な税控除のおかげで、企業は一定の設備投資の100%を直ちに費用として計上できるようになりました。

米国の税制改革に後押しされ、物流会社UPSは次の計画を発表しました。それは、施設の建設・改修、新しい航空機とトラックの購入、新しい顧客ソリューションを可能にするためのITプラットフォームのアップグレード。向こう3年間で70億ドルを、これらに追加投資するというものです。AT&Tは、2018年に米国国内でさらに10億ドルを設備投資に投じるとしています。

テクノロジー企業であるCisco(250億米ドル)、清涼飲料製造会社であるPepsiCo(150億米ドル)など。他にもこのような企業が、余剰資金で大規模な株式の買い戻し計画を開始し、投資家に還元しています。

価値を構築する

米国の税制改革は、新規設備の導入にせよ、戦略的買収にせよ、投資を促すインセンティブとなります。ですが、企業は今後の資本配分と投資プロジェクトを評価するにあたり、慎重かつ正式なアプローチで取り組む必要があります。

ニューヨークの都市風景

多くの企業は、一部事業部門の売却や買収を通じた拡大によって、事業構造を変えようとするでしょう。例えば、企業は米国の税制改正を受けて、最適な債務水準を再評価する必要が出てきます債務に掛かる支払利息については、税控除額に制限があります。また、米国法人税率の引き下げに伴って税効果が薄れます。これらの影響により、今後は高い財務レバレッジ水準の魅力が減少するでしょう。EYのリポート「米国の税制改正を受けた資本配分の決定(Making capital allocation decisions in light of US tax reform)」では、上場企業の債務が最大で25%減少する可能性があると予想しています。

企業は同時に、買収対象の評価方法を修正する必要があります。税率の引き下げが所得、キャッシュフロー、割引率に影響するからです。税率の引き下げによって生じる恩恵は、企業や業種によって異なります。

EY Americas Transaction Tax Leaderを務めるTorsdon Poonは次のように話します。「企業は事業全体に持続可能な価値が生まれるような形で、資本を配分することを目指すべきです。単に全体的に支出を増やす企業の手元には、価値破壊をもたらすプロジェクトが残る恐れがあります」

企業では支出に関して、互いに相反する思惑が生じる恐れがあると、Poonは指摘します。経営幹部が設備投資と買収を通じた事業拡大を計画する一方で、株主は配当の引き上げと株式の買い戻しを求めるからです。鍵を握るのはコミュニケーションだとPoonは言います。

「企業は、税に関わるあらゆる事項を細部にわたって検証したことや、企業の決定が最終的に価値の創出をもたらすことを、株主に示す必要があります」

企業は、事業全体に持続可能な価値が生まれるような形で、資本を配分することを目指すべきです。単に全体的に支出を増やす企業の手元には、価値破壊をもたらすプロジェクトが残る恐れがあります。

詳細にわたって

米国の新税法によって、財務報告に影響を与える多数の変更が発生します。こうした変更には、それぞれ発効日、移行規則、段階的導入規則があります。企業はこの業務の複雑さを、軽く見るべきではありません。企業とその顧問は、多くの点がいまだに不明確な環境の中で、このような変更と技術的詳細を導入しなければなりません。

米国の税務行政をつかさどる、内国歳入局(IRS)の追加的指針は、財務諸表を作成する上でも、将来的に企業に与える、より幅広い税務面での影響を理解する上でも役立つはずです。

EY Americas Vice Chair – AssuranceのFrank Mahoneyは、次のように話しています。「会社のファイナンス部門、財務部門、税務部門が協力し、さまざまな事項に対応する計画の実行に当たる必要があります。新しい法人税率、1回限りの移行税、一部資産の減価償却、あるいは必要と思われる現在の租税属性や内部統制の変更もその一つです。

企業が新税法の条項を評価し、それらの影響を考慮に入れるためには、想定より多くの時間が必要かもしれません。例えば、企業がこの分析をまだ終えていないのであれば、会計処理が未完了であり、変更が生じる可能性があることをしっかりと開示すべきです。

例えば、税法には米国と海外、両方の多国籍企業を対象とした、新しい条項が盛り込まれています。こうした条項によって、新しい米国外軽課税無形資産所得(GILTI)の新最低税率と、新しい税源浸食濫用防止税(BEAT)が定められました。これらを通じて、米国企業が海外の関連事業に行った特定の支払いについては、代替的な税計算が行われます。

新しいGILTI条項とBEAT条項が適用される企業は、それらが今後の会社の納税義務、有効税率、財務報告にどのような影響を及ぼす可能性があるのかを評価する必要があります。

上場企業の場合、この法律は、対象となる特定の従業員に支払われる報酬に関する控除に、新たな制限を設けています。税法によって、こうした条項の対象となる従業員が増え、業績ベースの報酬に関わる控除が無くなります。現行の報酬プランが新法の下で適用免除になり得るのか、あるいは再評価が必要なのかを把握するために、企業は新たな条項に細心の注意を払う必要があります。

1回限りのレパトリ税が財務諸表に与える影響についても、対処しなければならない重大な問題が存在します。課税対象額とさまざまな税率の適用は複雑で、把握するにはかなりの労力と分析が必要です。

今後のさらなる変化に備える

法人税率を引き下げる国は、米国に限りません。 EYの2018年世界租税政策展望 によれば、 2018年は法人税率の引き下げと、課税対象拡大の傾向 が続きました。別の経済大国で税制改革が実施されれば、それが再びゲームチェンジャーとなります。企業は戦略の再考を強いられるでしょう。

しかし、その国の法人税率の先を見据えることが重要です。投資と雇用創出における競争が続く今、企業は経営判断のために全体的な状況の一要素として、税を常に評価しなければなりません。 これには、ますます矛盾が広がる税の世界を理解し、それに対応することも含まれます。

一方で、多くの国々は法人税率を引き下げることにより、競って国内投資を呼び込みます。さらに、企業を誘致して経済成長を図るためにインセンティブを見直しています。同時に税務当局は、デジタル化と透明性向上のための取り組みを通じて、徴税率を高めるとともに、デジタルエコノミーに向けた、課税の抜本的な変更を提案しています。

税の世界と税制改革の影響は、税務だけの問題ではありません。会社全体にとってそれが何を意味するかを理解する必要があります。

サマリー

米国の税制改革により、企業は再び税務戦略の見直しを余儀なくされました。さらに、経営判断のために、全般的情勢の一要素として税を再評価しなければならなくなりました。

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