DXはすぐに成果が出るものではない、成功体験を一歩ずつ積み重ねていくことが重要
池尻:今回の「DX支援ガイダンス」で印象的だったのは、「DXは一つの手段に過ぎず、あくまで経営変革のための取り組みである」と明言している点です。この考え方は「デジタルガバナンス・コード」から一貫しています。
ただ、そう言いつつも、デジタルツールの導入が手段ではなく目的に向かってしまった企業も多いと感じます。正しいDX支援に導くアプローチ方法についてお聞かせください。
栗原︓中堅・中⼩企業の皆さんにはデジタルツールの導⼊で満⾜するのではなく、経営変⾰を起こすための⼀つの⼿段としてデジタルの⼒を活⽤いただきたいと考えています。そして、最終的には、デジタルの⼒を活⽤して、既存事業に付加価値をつけて売り上げを伸ばしたり、新規ビジネスを⽴ち上げたりすること、すなわち、事業変⾰の取り組み、まさしくDXを⽬指していただきたいのです。
ただし、デジタルツールを導⼊したからといって即座に成果を得られるわけではありません。まずは業務上でデジタルに慣れていただき、⼩さな成功体験を積み重ねて、デジタルの⼒を実感してもらうことが必要です。そして、⽀援機関は、DXを進める⽀援企業に伴⾛し、中⻑期的に成⻑を⾒守っていただきたいと考えています。
池尻:「DX支援ガイダンス」では、支援機関同士の連携の重要さにも触れています。
栗原:中堅・中小企業の背後には、事業を運営していく上でさまざまな支援機関とのつながりがあります。そのため、支援機関は個別でサポートするのではなく、支援機関同士が連携することで、それぞれが持つ強みや弱みを相互補完できる相乗効果が生まれます。さらに、同じ地域のDX事例や支援ノウハウなどの情報を共有することで、より高度な支援が可能になるでしょう。
池尻:栗原さんの「一歩ずつDXを進めていくことが大事」という考えに、私も強く共感します。例えば、給与計算にデジタルツールを導入し30分の作業時間が削減されたなど、現場で小さな成功体験を積み重ねていくことが、DXを長期間続けていく秘訣(ひけつ)だと考えています。
また、私個人としては、現場がどれだけ疲弊せずにDXを実施できるかも重要な要素だと考えています。そのためには、現場での慣習の変化や違和感を体感することが大切だと思います。
例えば、伊勢の老舗食堂様の取り組み事例では『伊勢神宮には、午前中に関西のお客さま、午後から関東のお客さまが多く来場される』と、従業員は何となくの肌感覚を持っていたそうです。しかしながら、実際に来客データを取得したところ、想定とは全く異なっていたという新たな発見をされたそうです。
データを可視化する過程で、気付き、違和感を言語化することが、従業員たちにとっては業務をデジタル化していく際の喜びや刺激になります。こうした感覚を大切にすれば、DXの取り組みを長く続けることができるのではないでしょうか。