金融機関における「サプライヤー等」の範囲
本ガイドラインでは、世界各地における、自社・グループ会社、サプライヤー等(サプライチェーン上の企業、その他のビジネス上の関係先)による活動の、人権に対する負の影響を考慮して業務を行うことが期待されています。このうち、「その他のビジネス上の関係先」については、企業の投融資先が含まれ得るとされています。また、国連指導原則に準じて、自ら引き起こしたり(cause)、自社の事業・製品・サービスと直接関連したり(directly linked)したものだけでなく、直接的・間接的に助長(contribute)10した負の影響まで、人権DDの対象として取り上げるものとしています。
以上から、金融機関にとってのサプライヤーである購買先や外部委託先にとどまらず、顧客も対象となり得ると考えられます。しかしながら、大規模かつ複雑な顧客ポートフォリオを持つグローバル金融機関にとって、全ての対象に詳細な人権DDを行うことは、すぐに実現できるものではありません。現実的な対象としてどこまでの範囲を想定し、どの程度の粒度・頻度で確認すべきかの判断が必要となります。
国連指導原則では、この問題に対する金融機関向けの回答11において、人権に関する方針や社内システムによって、全ての活動に対して最低限のスクリーニングを提供しつつ、リスクの高い顧客や取引に対しては、より詳細な分析の必要があるとしています。従って、ビジネス活動、製品、業種、ビジネス上のリレーション、対象顧客、所在国など、どの分野が人権に対して最も深刻なリスクをもたらす可能性が高いかを全体として把握した上で、優先順位を付けて人権DDを行うことが期待されていると言えます。
なお、この優先順位は、融資残高など、金融機関経営への影響の度合いで判断するものではなく、人権問題そのものの程度で判断すべきものであることには留意が必要です。本ガイドラインにおいても、対応の優先順位は、負の影響の深刻度によるべきであり、その規模、範囲、救済困難度などの基準を踏まえて判断されるものであるとされています。よって、各金融機関固有の事情とは、明確に分けて検討されるべきものと考えられます。