(注)借受価格等の調整‥‥配電事業の収益性は、一送の保有する設備の借受価格あるいは譲渡価格によって大きく変わるため、参入インセンティブの設計という観点からも価格の設定を適切に行う必要があります。現在、適切な借受価格は、①配電設備の維持運用費用、②配電設備の償却費用、③上位系統費用、④地域調整費のうち、①を除き、②③④を含む価格となり、一送との協議で決定する方針ですが、特に①に何を含めるのかについて制度上明確に規定されることが予見性を高める上で重要となります。
送電事業と配電事業が分離している英国では、配電事業者に対してもレベニューキャップ制度 (RIIO)が適用されています。日本の配電事業制度において、新規参入者は当初小規模な供給区域に限定すると想定されており、現時点では、英国のように配電事業者に対してレベニューキャップ制度を複雑かつ大きな負担を伴う形で適用するのは合理的とは言えません。一方で、中長期的には、日本の配電事業者が供給区域を拡大し、送配電事業全体のプレゼンスを増やす可能性を視野に入れた制度設計も求められるでしょう。レベニューキャップ制度を簡易化し、回収を認めるべき費用項目および水準を明確化するといった制度設計の必要性も想定されます。一般送配電事業者が送電事業と配電事業を分けて収入上限を算定する制度とすることで、配電事業者としての安定供給に必要なコストの適正回収を認めることも将来的には検討に値すると考えられます。
(2)配電事業者と一送の連携について
もう一つの論点は、配電事業者と一送の連携についてです。配電事業および系統運用の高度化に向けて、一送と配電事業者の連携は不可欠となります。しかし、一送側に配電事業者を積極的に参入させるインセンティブや社会的意義が十分に明確でない場合、協議が長期化する可能性があり、参入が困難となる可能性があります。配電事業者と一送が協業し、系統全体および配電系統内の安定供給および系統運用の高度化を実現できるようにすることが求められています。
配電事業者と一送の協業を促すためには、系統運用の高度化を目指す中で配電事業者に期待する役割を明確化する必要があります。例えば欧州では、ローカルフレキシビリティ市場の活用が進んでいます。英国では2019年から商業取引が開始されており、2023年には合計4.6GWに対して入札が行われました(The Energy Networks Association, “ENA flexibility figures - August 2023”)。プラットフォームプロバイダーによるシステム開発が進んでおり、2024年3月には翌日のフレキシビリティを取引する前日市場が導入され、今後さらなる配電レベルでの高度な系統運用が開始されます(UK Power Networks’ Distribution System Operator, “UK’s first distribution ‘day-ahead flexibility’ product launched by UK Power Networks’ DSO”)。このように、配電事業者の役割が設備投資よりも系統運用を重視した混雑管理方策へ移行する可能性があります。日本においても、ローカルフレキシビリティ市場の活用を目指し、規制当局がそれに対する働きかけを行うことで、一送と配電事業者の連携が実現できる可能性があると考えられます。
5.系統運用の高度化に向けて、配電事業制度のあるべき姿を実現するためには
系統運用の高度化に向けて、配電事業制度のあるべき姿を実現するためには、地域や社会全体としては、安定供給を保ちつつ電力コストを低減し、さらにはイノベーションによる便益を享受できることが求められます。
また配電事業者は、予見性を持った健全な事業運営を行い、一送と協働して、配電系統内の安定供給と系統運用の高度化に向けた取り組みを実施することを求められます。通信技術とエネルギーマネジメントの融合や、地域密着型ビジネスの展開等、送配電事業者も連携することに価値を見いだす配電事業者の参入が望まれます。
一送も同様に、予見性を持った健全な事業運営を行い、配電事業者との協働により系統全体の安定供給と系統運用の高度化につながる取り組みを進めることが必要となります。
そして最後に、規制当局に求められることは、一送および系統全体への影響を考慮しつつ、地域や社会全体に適正な便益を提供できる配電事業者の参入や事業運営を後押しすることです。参入意向のある事業者を交えて改めて議論をすることや、規制当局が現行のルールの枠内で新規参入可能なガイドラインを実情に応じて更新することを通じて、新規参入者にとって事業の予見性を高めることが必要です。
これら全てがうまく機能し合うことにより、配電事業制度のあるべき姿が実現されると言えるでしょう。