経営監査の定義やアプローチは各社各様ですが、一般的なトレンドとして次の2つが挙げられます。
① 親会社の方針等の子会社展開にかかるリスクの監査
② 監査対象組織(子会社、部門等)に特有の重要リスクの監査
1. 親会社の方針等の子会社展開にかかるリスクの監査
この考えは、連結経営やグループガバナンスの監査を意識したアプローチといえます。1990年代から連結経営の考え方が広がり、連結会計導入を得て定着しました。連結経営は親会社が、グループの価値の最大化を図るため、本社事業部、主要子会社から子会社を含めたあらゆるレベルでの意思決定の場で包括的にコントロールする経営とも言い換えられるため、連結経営を契機として経営監査という概念が広がってきたという特徴があると考えます。
ここからは、実際に①親会社の方針等の子会社展開にかかるリスクの監査を進める際の特徴を述べたいと思います。
このアプローチは連結経営やグループガバナンスを意識しているため、国内外に子会社が点在していたり、企業内に規模の大きな子会社が存在したりしている企業が比較的多くこの考え方を取り入れている傾向がありました。よって、①のアプローチでは上位組織の方針、ルール、戦略、施策、計画等(グループ共通リスクへの対応方針・策も含む)が子会社において確実に展開され、周知徹底されているか否かを確認することが重要であるといえます。
ここでの上位組織とは次の関係性を意図しています。
- 子会社から見た場合は親会社が上位組織
- 孫会社から見た場合は子会社が上位組織
- 親会社内で見た場合は制度設計している部署が上位組織※
- 子会社内で見た場合は子会社内で制度設計している部署が上位組織
よって、上位組織から見た場合は下位組織に対して適切な指示・指導をした上で、実行状況をモニタリングしているかがポイントになります。また、下位組織の実行状況に不備がある場合は是正する必要があるため、上位組織が下位組織に対して改善措置を講じさせているかという観点も押さえる必要があります。
親会社と子会社間で例えるならば、親会社は子会社に対して適切に指示しているかを見るとともに、子会社は親会社から指示された内容を子会社内で徹底できているか、子会社から孫会社への指示・施策の展開は漏れなく行われているのか、といった双方の視点で見ることが必要になります。
次のポイントとしては、各組織階層において、方針、ルール、戦略、施策、計画等の実行のためのプロセス(PDCAサイクル等)が確立されているかを検証することが必要になります。
このPDCAサイクルが親会社、子会社、各部署、孫会社といった組織の階層ごとに存在していなければ、上位組織に対して適時適切に報告することができませんし、指示を受けて改善活動を推進していくサイクルを回していくことができなくなります。よって、あらゆる階層を対象として、組織全体でPDCAサイクルが存在していること、その中で小規模なPDCAサイクルが階層ごとに存在していることが重要になります。
これらの観点がグループ経営やグループガバナンスに注目した際に見られるポイントとなります。
2. 監査対象組織(子会社、部門等)に特有の重要リスクの監査
経営監査を行うための2つ目のポイントとしては、親会社や経営者の目の行き届きにくい重要事項、親会社に飛び火しかねない事項に焦点を当てた監査が挙げられます。グループ全体で見た場合に、規模が小さい子会社や、連結ベースの売上比率が低い子会社は、重要性の観点から軽視されている場合もありますが、財務数値での重要性の低い拠点がリスクの低い子会社であるかというとそれは全く別の話になります。
かつて企業価値とは財務指標で測られ、売上高や利益、ROAが重要視されていましたが、近年は企業判断の価値観が多様化しており、CSR(社会的責任)やSDGsといった目に見えず数値化しにくい要素も企業経営の重要な指標として扱われるようになってきました。
そのため、企業は消費者保護や生命に関わるリスク、規制や法令への抵触といったレピュテーションリスクを意識せざるを得なくなっています。
親会社で子会社の実態が見えていない状況が続くと、子会社に対する統制が弱くなっていく恐れがあります。子会社の重要リスクを特定し、当該重要リスクに対して適切な対応がなされているかといった観点にフォーカスした監査を行う必要があります。
これまで述べたように、経営監査のポイントは2つありますが、それぞれが目指しているゴールは同じではありません。①は親会社の戦略・方針が末端まで浸透していることに重きを置いているため、既知の内容をコントロールできているかに焦点を当てています。②を重視している企業は想定外のリスクに焦点を当てているため、親会社が把握していないことをいかに見える化していくかを重視しています。よって経営監査を推進していく際には、①と②の両方の側面を漏れなくカバーすることが重要であるといえます。