2010年代はテクノロジーが急速に実用化された年代といえます。
特に、IoTに代表される膨大な情報の取得・格納・処理やRPAなど複数のシステムを介在した処理の自動化については著しい発展を遂げました。会計システムに目を向けると、多くの会社がERPや会計パッケージを導入し、必要な業務処理の大部分がシステムでカバーされている状態となっているといえます。またERPにおいては、基盤としてデータベースがインメモリー化され、劇的に高速処理が可能となり、業務工数についても大きな圧縮が実現可能となりました。このようにテクノロジーが急速に実用化され、Finance部門の多くの業務がシステム化されている状況ではありますが、業務が効率的に行えていないと感じる、またシステム化され多くの情報が取得できる状況であるにもかかわらずデータに基づいた客観的な意思決定ができていないと感じる方も多くいるのではないでしょうか。
本章では多種多様な情報を迅速に統合した上で、データドリブンでの客観的な意思決定を実現し、合理的な意思決定を実現するための施策としてデータ統合・標準化、非財務データの活用について記載していきます。
多くの会社ではグループ間で会計システムは統合されつつあるもののマスターやデータ粒度は各社各様といった状況が散見され、勘定科目一つとってもグループ横断での比較が困難であるという状況ではないでしょうか。このようなデータ統合・標準化の障害を解決するために言語・文化・組織の障害を解決する必要があります。
例えば、勘定科目統合といった施策を実行するに際して、本社または各社主導か、システム部門またはFinance部門主導かといったように組織間でどこが主導するかといった時点でもめてしまう、また統合のスコープを決定する際にも海外は文化が違うので、まずは国内グループ各社だけといった限定的な統合とせざるを得ない会社も多いのではないでしょうか。そのような状況であるとデータ統合・標準化は難しく、状況は改善しません。部門・法人を横断した財務データの提供責任を担うFinance部門が主導的にこのようなデータ統合・標準化については進めるべきと考えます。
経営層へのレポーティングの役割を担っているFinance部門が主導となることで、経営層が意思決定に必要な項目や粒度が反映され、後続工程であるレポーティング作成、分析・評価業務等も見越した上でのデータ統合・標準化とすることが可能となります。
また、これからはIoT技術がさらに進み、さまざまなモノがインターネットに接続される結果、その膨大なデータが格納され、必要な情報として処理されていくでしょう。それらのデータをいかに活かし適切な意思決定を行っていくかということが今後の企業に求められ、Finance部門としても非財務データの活用は重要な施策の1つです。
例えば、原価計算で人件費を製品に配賦する際、同じラインで生産している製品の配賦は何らかの基準を定め配賦するのが一般的でした。しかしIoTにより、どの製品にどれだけ時間をかけたのかが自動的に記録することができ、より正確な原価計算が可能となります。その結果、製品ごとの採算管理が高度となり、より適切な製品ポートフォリオの管理が可能になります。また在庫管理においても、人手を介して在庫の棚卸をするのではなく、商品ごとにICタグを付け、常にシステム台帳上で在庫数、直近の売れ筋、月ごとの販売傾向などを管理することにより、在庫不足による機会損失を防ぐだけでなく、より適切な生産計画の策定、監査の短縮化にも貢献できるでしょう。
このように膨大なデータがインターネットを通じて活用できる時代においては、Finance部門が主となり、必要な情報と取得経路、処理プロセスを定義し、膨大なデータを必要な情報に適切に加工することで、経営層に対してより価値のある示唆を提供し、企業価値の最大化に向けた意思決定に貢献できると考えます。