2023年1月31日
少子高齢化時代におけるサステナブルなファイナンス組織への変革

少子高齢化時代におけるサステナブルなファイナンス組織への変革

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2023年1月31日
関連トピック コンサルティング

少子化による若年層減少や働き方の意識変化により人材獲得競争が激化しています。本稿では、国内外のファイナンス機能維持のために日系企業がとるべき3つの施策を紹介します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) BC-Finance

中山 俊秀

Big4系コンサルティングファームを経て現職。主に会計および人事領域を中心としたコーポレート部門における組織・業務・システム面の改革、経理部門のSSC化、システム化構想、労務人事システムの導入支援等に従事。近年はファイナンス人財の育成・高度化を支援するTalent Managementのオファリング開発をリード。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) シニアマネージャー。


戸田 貴裕

公認会計士試験合格後、日系コンサルティングファーム、Big4系コンサルティングファームを経て現職。主に会計領域で業務/システム両面でのコンサルティングに従事。近年はファイナンス人財の育成・高度化を支援するTalent Managementのオファリング開発を務める。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) シニアマネージャー。

要点
  • 少子化による若年層減少や働き方の意識変化により人材獲得競争が激化する時代において、日系企業は国内外のファイナンス機能維持のため、人材配置の原因となるポジションの徹底削減や国籍を問わない優秀人材の登用、地域限定職等の多様な職種選択等により、目下の課題への対応が急務
  • さらに中長期的には、ファイナンス組織をより人を惹き付ける魅力的な組織とするために、事業の成長に貢献する「Business Partner」へと転換を図っていくことが重要

Ⅰ はじめに

近年の少子化により若年層の確保が困難な採用環境が続いており(<図1>参照)、ベテラン社員の高齢化や大量退職といった、いわゆる2030年問題を鑑みると今後さらに人材の確保が困難な状況が続くと考えられます。一方で、若年層の就職に対する意識変化や社員のワーク・ライフ・バランスに関する意識変化により、総合職という単一職種採用による組織機能・ガバナンス維持を目的とした国内外への人材配置・ローテーションが困難となっています。さらに、近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行は半ば強制的に働き方に対する意識変化をもたらし、多様な働き方の提供がいっそう求められる状況です。人材を起因としたこれらの問題解決を先延ばしにすると、その分だけ社員の高齢化と採用数の減少が進み、現在のオペレーションモデルの破綻を早める原因になり得るため、早期な改善着手が求められます。

図1 日本の人口推移推計

Ⅱ 施策1:ポジション自体の削減

国内外の拠点・法人にファイナンス部門を配置することにより、それを機能させるためのポジションとポジションを埋めるための人材配置ニーズが発生します。人材確保が困難な状況下では、まずは、これらの組織機能の集約化(シェアードサービス化)と外注化(アウトソーシング化)により、より少ない人数での組織運営が可能な状態へと目指す必要があります。すでに集約化と外注化を図っている場合も、定型・ルーティン業務を対象としている場合が多く、高度・専門的業務である単体決算や税務、資金管理、管理会計等の業務・機能は各拠点・法人に配置されたままとなっているケースが多いため「本当に拠点・法人にロケーションとして配置する意味があるもの」以外は徹底して集約化と外注化を図る必要があります。また海外に目を向けると、定型・ルーティン業務の集約化も不十分な場合があり、同様に徹底した集約化・外注化を行う必要があります。

一方、親会社で実施している連結決算やグローバル税務・資金管理、グループ経営管理といった機能は本当に親会社=日本で実施(配置)する必要があるのかについて、再考の余地があります。これらの業務に必要な知識と経験を有する人材は海外にも多くおり、必ずしも親会社に配置し日本人社員が担う必要はないはずです。

さらに、高度・専門的業務を担う要員は自社人材が担っているのが現状ですが、会計士や税理士またはコンサルタントといった専門組織へ外注化、または専門家の人材派遣で不足分を賄うといった手法も選択肢として考えるべきです。この手法は単に不足要員の穴埋めだけでなく専門家が持つ知見を活かした業務効率化や新制度対応といった成果発揮も期待できます。近年はこのような高度・専門的業務の外部リソース活用手段も多様化していることから、これらを活用して社内人材登用が必要なポジション自体を削減することが期待できます。

ここまでは、機能を集約しポジションを削減する施策を述べてきましたが、ポジションの削減という意味では不十分です。さらなる削減を目指すにはグローバルでルール・業務プロセスの標準化が必須となります。「業務標準化」を実際に徹底できている企業は少なく、改善余地が多くあります。システム統一を図る企業でもシステム上で行う業務のルールやシステム外で行う業務の標準化が図れていないことが散見されます。昨今はERPでカバーしない業務を支援するサービス・システムも登場し、これらを活用することでさらなる標準化が推進され、各社または集約組織のスリム化を図ることが可能となります。また、昨今のコロナ禍でのリモートワーク浸透でも分かるように、複数拠点に配置された機能・業務に対し各拠点に人材を配置せずとも遠隔地から業務遂行することも可能になりました。つまり「本当に拠点に残す必要がある業務」であっても遠隔で複数拠点を担当することが可能であり、さらなるポジション削減も可能です。

Ⅲ 施策2:日本人社員中心の人材活用からの脱却

前述の施策1で業務集約や機能配置の見直しによる人材配置の原因となるポジションの削減を紹介しました。次は配置する人材そのものに関して、これまでの考え方を変え、必要なポジションに必要な人材の配置を可能にする施策を検討する必要があります。

まず行うべきは、海外現地法人で日本人が担う主要ポジションを現地人材へ委譲し、日本人社員の出向が必要なポジションを削減することです。「任せられる優秀な人材が現地法人にいない」「日本人でないと現地法人に対するガバナンスを効かせることができない」といった背景から日本人社員が赴任していますが、少子化が進む日本人社員だけで将来も引き続き必要な人数を拠出し続けることが困難なのは自明です。現在は、日本人が主要ポジションを担うが故に、経験を積んだ優秀な現地社員からは将来のキャリアパスが描けない企業と判断され、魅力的なポジションを提供する他社への転職を許してしまっています。この悪循環を断ち切り、主要ポジションを担うまでに現地社員を育成し、またその次の後継者候補を生む育成システムにまで昇華させるには長い時間を要します。そのため早急に改善着手を図り、現地採用社員へのポジション委譲を進めるべきです。

次に考えるべきは、現地法人の経営マネジメントを担う人材は果たして日本人社員であるべきなのかという点です。職務を発揮するに見合うだけの経験・スキルを持った日本人社員を拠出し続けることが困難なのは、前述の通り自明です。加えて、事業のグローバル化が進展する現在および将来において、従来と同じように日本人社員だけで経営ポジションを担うことには矛盾があり、真のグローバル企業と言えるのだろうかという問題意識を抱えていた方は多いと思います。これを機に、現地法人の経営マネジメント層も委譲していくことを考える必要があります。またこの議論の先には、本社経営層も日本人社員である必要はあるのかという点にもつながります。いずれにせよ、重要な経営ポジションを担う優秀な人材を国籍に関係なく活用していくには、ボーダーレスな異動により多様な経験を積み、スキルを磨く将来の経営層を担う人材職種として「グローバル人材職」を設ける必要があります。実際に先進的なグローバル企業は、ファイナンス職種であっても国籍を問わないグローバル人材職として採用、育成、配置を行っています。またグローバルに活躍し将来の経営層を担うグローバル人材職は、優秀な外国籍人材の採用だけでなく、少子化が進む日本においても意識が高く優秀な人材の確保に貢献する制度だと考えられます。

Ⅳ 施策3:日本人社員の採用・育成・配置の見直し

最後に検討すべきは日本人社員についてです。集約化・外注化等により人材配置が必要なポジション数を削減した後も、グループ単位で考えると相当数のポジションが各拠点に残り、このポジションを埋めるための人材配置・ローテーションも依然として残ります。しかし現在、ローテーションにより全国にあるポジションを埋めることが難しくなっている企業が増えつつあります。育児・介護等の制約で異動が困難な人材や、そもそも異動を希望しない人材が増加していることも要因の1つです。前者はタイミングの問題であり異動順を変えることで対応可能ですが、後者の場合、労働契約に基づく人事権として強制すると退職という選択をする人材が増えつつあり、悩みの種となっている状況です。従来の「国内外で異動があるかもしれない総合職」という単一職種で採用とローテーションを実施し続けることは、早晩限界を迎えると考えられます。これを解決するには異動の範囲を見直した職種制度を検討すべきと考えます。つまり、異動無し、特定地域内での異動有り、国内全国異動有りといったタイプ別職種制度です。このような職種制度は前述の異動を希望しない人材の活用だけでなく、そもそも採用の間口を広げ必要な要員数の確保にもつながります。なぜならば、従来の国内外の異動がある総合職として単一かつ相応の基準での採用ではなく、各職種が担う業務・ポジションに合致した採用基準となるため、従来の単一の採用基準に合致しなかった「地元志向を持つ人材」の採用にもつなげることが可能だからです。一方、国内全国異動有り職種やグローバル職種は引き続き相応の基準での採用が必要となりますが、そもそもの採用数が絞られるため、少子化時代においても必要な採用数の確保がしやすくなると考えられます。また、このような多様な制度は志向の異なる若者へのリーチを容易にするとともにファイナンス職種という希少な採用マーケットにおいてブランディング効果も期待できます。

Ⅴ おわりに

これまで紹介した各施策は、実現または成果が出るまでに相応に時間を要します。例えば現地法人のポジション委譲は全ての委譲が完了するまでに3年、5年と時間がかかる場合もあります。しかし、着手の先延ばしはその期間分だけ現在のオペレーションモデルの破綻を早める原因になり得るため早急な対応が必要です。

こうした施策によりサステナブルな組織運営が可能な部門へと変革した後は真に優秀な人材を惹き付けて、また離職を防ぐ組織となるべく、従来の受け身の機能・役割から事業の成長に貢献するインサイトを提供するBusiness Partnerへと役割を変え(<図2>参照)、より多くの人材を配置し、企業・事業の成長へ今まで以上に貢献していく組織へとなることが重要と考えます。

サステナブルかつ高付加価値サービスを提供する組織へと変革する契機と捉え本質的な改革に取り組むべきではないでしょうか。

図2 ファイナンス部門への新たな期待(機能転換)

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サマリー

少子化による若年層減少や働き方の意識変化により人材獲得競争が激化しています。本稿では、国内外のファイナンス機能維持のために日系企業がとるべき3つの施策を紹介します。

情報センサー2023年2月号

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

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