2023年1月10日
Zero Based Budgeting(ZBB)-コスト構造改革を最大限推進するメソドロジー

Zero Based Budgeting(ZBB)-コスト構造改革を最大限推進するメソドロジー

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2023年1月10日
関連トピック コンサルティング

EYが提唱するZero based Budgeting(ZBB)の基本的な考え方、従来型予算との比較、構成要素ごとに対応アプローチを触れた上で、ZBB導入に当たっての実務上の問題点と対応策を考察します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) BC Com Finance 公認会計士 村上 協平

CFO部門向けのコンサルティングチームにおいて、財務経理業務全般のプロセス改善やFP&A領域に関するアドバイザリーを中心とした幅広いプロジェクトに従事。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) マネージャー。

要点
  • 不確実性が高まり、未来が予測しにくいVUCAの状況においては、企業の持続性が一層厳しく問われるが、前年度踏襲の従来型の予算管理では限界がある。
  • 環境の変化に柔軟に対応した経営戦略の策定を可能にし、コスト及び予算管理の最適化を実現するソリューションとして、Zero based Budgeting(ZBB)が注目される。
  • CFOおよびFinance組織が主体的に参画し、組織横断で全社的にZBBを管理・運用することで、企業文化としてコスト意識を根付かせる長期的な効果を創出可能である。

Ⅰ はじめに

DXに代表されるDigital化の急速な活用の拡がり、環境規制や社会情勢、地政学的な不安や紛争、経済のグローバル化などのメガトレンドが絡み合い、不確実性が近年ますます高まり、未来が予測しにくい状況となっています。

持続的に成長し続けることがより困難なVUCAの時代において、企業は適切に経営を行う必要があります。

前年度踏襲の従来型の予算管理では、現在実施されている活動の多くが将来にも継続して行うことが前提とされるため、このような環境の変化に柔軟に対応することは困難です。

Zero Based Budgeting(ZBB)は、各予算項目を前年度情報にとらわれることなくゼロベースで見直すことで、経営戦略に沿った、コストの最適化を実現する予算管理ソリューションです。

ZBBによって、コスト削減の機会を特定し、その削減分をより戦略的な用途に振り分けることで、環境変化に柔軟な対応を行うことが期待できます。

一方で、ZBBの有効性に気付き導入を進めるものの、対応に苦慮する会社が多いのも実情ではないでしょうか。

本稿では、EYが提唱するZBBの考え方から、導入に当たっての対策および最新のトレンドを論じます。

Ⅱ ZBBの基本的な考え方

ZBBとは、前年度を基準とした従来の予算策定手法ではなく、ゼロベースで予算を作成し、予算執行を管理するプロセスです。

<図1>の通り、EYではZBBを4つの要素で構成される予算管理プロセスと定義します。

図1 EY ZBB標準モデル
  • Strategy Management & Reinvestment:費用を組織の経済活動にとって合理的な活動単位に分類(コストカテゴリー)し、コストカテゴリーごとに戦略に沿った費用の最適化目標を設定。
  • Budgeting:コストカテゴリーに対して、優先順位を付けた上でゼロベースでの予算策定を実行。
  • Accountability & Sustainability :コストカテゴリーごとにオーナーを設定するとともに、削減活動を継続的に実施できる体制を構築。
  • Control & Monitoring:予実および損益変動に併せて即時にKPIをモニタリング。

企業文化、経営方針、管理体制および計画プロセスを整備するとともに、ゼロから予算の見直しを図ることで、過去実績のみにとらわれない本来あるべき予算策定を実現し、無駄なコストの削減につなげます。

ZBBは単に予算策定の方法論ではなく、施策の効率性と必要性に基づいた資金の再配分(最適化)を目指す予算管理プロセスそのものです。

そのため、ZBBを適切に運用する結果として、利益増加への貢献だけでなく、長期的な視点での持続的な経営の実現も可能となります。

Ⅲ 従来型の予算管理手法との相違点

1. Strategy Management & Reinvestment

売上については市場予測・販売予測や中期経営計画・事業計画を基に精緻に策定するものの、販管費などの間接費については過去からの予算を引き継いで作成する結果、全体で見ると全社戦略との一体感がない、ちぐはぐした予算になっていないでしょうか。

外部環境やビジネススタイルなどが変化すれば、関連する費用予算の発生態様も変化するはずです。

ZBBでは、企業の戦略目標と予算との関係を重視します(<表1>参照)。

表1 従来予算との比較表

具体的には、まず、財務目標や事業目標を達成するために必要な組織活動から生じる費用をコストカテゴリーに分類します。

次に、コストカテゴリーごとに戦略に沿った最適化目標額を設定します。

その後、当該戦略との一貫性を保持した上で、施策の効率性と必要性に基づいて、当該目標額内での資金の配分を行うアプローチとなります。

2. Budgeting

ZBBでは、無条件に過去からの予算を使用するのではなく、戦略目標に沿ってコストカテゴリーに対して優先順位を付けた上で、費用をゼロから策定することで、無駄な予算をそぎ落とします。

広告宣伝費を例に取ると、選択した広告手段に対して得られた売上効果(ROI)を、正確に計測しているでしょうか。

テクノロジーの急速な進歩により、過去の広告媒体が今日的にも有効な手段とはいえなくなっている中で、投資効果を判定せずに過去を踏襲することに合理的な理由は見いだせません。紙ベースでの広告媒体からデジタルマーケティングに切り替えることで、より高い広告効果を得るだけではなく、印刷代・紙面の倉庫保管料なども軽減可能です。

広告媒体別に、予算対比でのCV数を時系列に沿ってデータ分析し、費用対効果の観点から広告投資のポートフォリオ最適化を行うことで、広告費用の削減を実現する事例も増えています。

ゼロベースの予算作成とは、言い換えれば根拠ある予算の作成です。根拠ある予算とは、数量・単価が明示された上で、項目の必要性・費用対効果に対する説明責任を果たしている状態を指します。

3. Accountability & Sustainability

前年度踏襲での予算策定の弊害として、各部でのコストの使い切りなどが横行し、自発的なコスト削減が進まない、コスト削減がインセンティブにつながらないという問題が起きていないでしょうか。または、予算統括部署ごとに縦割りの管理となるため、類似施策の横串での最適化が図られないという問題もあるでしょう。

ZBBでは、従来型の予算管理にはない、コストカテゴリーごとにオーナーを設定する運用を提唱しており、コストカテゴリーオーナーは、部門横断で予算執行を管理の上、コスト費消に対する牽(けん)制機能を発揮することで、全社的な予算管理の質の担保、ガバナンスの強化が期待されます。

4. Control & Monitoring

目まぐるしく変化する経営環境においては1年先の予測も困難なことが多く、また、環境変化に合わせて計画を修正しなければ実態と乖(かい)離してくることでしょう。

年度単位で策定した予算を固定化するのではなく、経営環境の変化を踏まえて短いタイミングでフレキシブルに予測を見直す点もZBBの特徴です。市場・経営環境などの変化や売上変化による着地見込を適切に把握し、予実および損益変動に併せて即時にKPIをモニタリングすることで、柔軟性・機動性の高い予算管理が可能となります。

また、分析の単位は部門ではなく、コストカテゴリーごとに目標ROIが達成しているかどうかを検証する点がZBBの特徴です。

Ⅳ ZBB導入を成功させるためには

コストおよび予算管理の最適化の施策として、ZBBの導入を検討する事例は増えています。一方で予算管理が複雑化することから、ユーザーからの反対意見が寄せられるということもあるのではないでしょうか。

本章では、チャレンジすべき代表的な課題を掲げ、これらの悩みを解消し、ZBBの導入を成功させるための対応策を考察したいと思います。

① 業務工数だけが増えて予算削減が思ったほど進まないのではないか
② 攻めのコストまで削り、売上減少につながらないか
③ 部門を跨(また)いで予算統制を行うことは現実的か
④ マスターデータの粒度を揃(そろ)えて実施する基盤を備えているか

1. 業務工数だけが増えて予算削減が思ったほど進まないのではないか

ZBBを適切に運用した場合の効果は強力ですが、一方で予算管理にかかる業務量の増加は避けられません。

また、予算の説明責任、インセンティブを明確化する観点で、各部署の賛同・協力は欠かせません。さらにはコストカテゴリーごとの予算・実績のデータを、単価×回数といった粒度で整合的に収集する必要もあります。これらを踏まえると、全ての予算に対してZBBを適用することが必ずしも有効な施策ではない場合もあります。

実務導入に当たっては、例えば、金額的重要性などを考慮して、重要な経費群においてはゼロベース予算を導入して予算管理を強化する一方で、重要でない経費群においては通常予算としてこれまで通りの運用を行うなどの組み合わせも考えられます。

費用対効果を見ながら、効果的かつ効率的にZBBの適用範囲を決定することが有用です。

EYでは<図2>のようなチェックリストを用いて、ZBBの導入における現状の課題やクリアすべき事項などを棚卸するところから推奨します。

図2  ZBBの適用にむけた調査項目例

まずは、自社にとってZBB導入に向けた投資がコスト最適化という目的に適合するか、および導入の容易性を確認することが肝要です。

ZBBは全社を巻き込む施策であり、最大限に効果を発揮するには各部署との合意を得ていくことが望ましく、CEO/CFOが主導となって、時間をかけてでも、社内のコンセンサスを得ることが重要と考えます。

2. 攻めのコストまで削り、売上減少につながらないか

ZBBは予算編成をゼロから見直し、支出の妥当性を検証するが故に、絞りすぎることで将来の売上減少につながるコストカテゴリーもあります。

そのため、EYでは、例えば販管費・その他経費は売上相関性を基準として、シンプル・コンプレックスの2つのカテゴリーに分けています(<図3>参照)。

図3 コストカテゴリーの例

まず相対的に売上相関性の低いシンプルカテゴリーからZBBを導入することを推奨します。

シンプルカテゴリーの典型例として、旅費交通費や会議費などが挙げられます。このような科目は、活動を単価×回数(数量)などに分解することが比較的容易です。

また、例えば、旅費交通費であれば、移動手段などに関連した単価の無駄遣いなどを客観的に比較・分析し是正しやすいため、具体的な見積もり方法や粒度を部門間で統一することが実現しやすいといった特徴があります。

次に、導入影響を把握した上で、コンプレックスカテゴリーへのZBB範囲拡大をチャレンジし、売上減少につながらないように留意します。

コンプレックスカテゴリーの典型例として、広告宣伝費や研究開発費などが挙げられます。

このような科目は短期的な財務数値目標の達成に向けて安易に削減するのではなく、企業がさらに長期的な視点で持続的に成長を遂げるために同業他社のベンチマークや経営目標などを十分に考慮して策定する必要があります。

長期的な視点を持たずにZBBを適用することにより、将来を見据えたブランド構築活動、複数年に跨るキャンペーン、さらに中長期での研究開発が脅かされるリスクを予防することが重要と考えます。

3. 部門を跨いで予算統制を行うことは現実的か

ZBBの特徴であるコストカテゴリーオーナーは、担当するコストカテゴリーにおける各施策について、部門横断での予算の検証・見直しや、支出のモニタリングコントロール、新たなコスト削減の機会の発見とアクションプランの検証などを担います。

規定への準拠性の確認をしたり、期中の操業度(売上推移)やコスト費消状況などを見たりしながら、必要に応じて予算の優先度の見直しや費消状況の改善に向けた指摘・助言を行うことも役割です。

これにより、理想的な予算管理のPDCAサイクルを生み出すだけではなく、各部署間での健全な緊張関係を保つことが期待できます。

コストカテゴリーオーナー制度を有効にするためには、強力なリーダーシップとオーナーシップが必要となるため、実効性の観点からトップマネジメントの強力な推進が重要となります。

コストカテゴリーオーナーには役員層をアサインし、適切な範囲で結果責任を持たせた上で、役員管掌内での各部門を比較する運用を行うことが有効です。

4. マスターデータの粒度を揃えて実施する基盤を備えているか

各社/各事業部での予算データ、マスターの持ち方などが揃っていないと、横串での比較ができないといった弊害があります。

例えば、部門ごとに勘定科目、発生部門、コストの損益項目・区分(原価/販管費など)などが曖昧なまま予算設定されたり、実績と予算でデータの平仄(ひょうそく)が合っていないなどが起きていないでしょうか。

このような場合、同一条件での部門間比較や予実比較が行えず、予算執行における統制が効きづらくなってしまいます。

ZBBの導入に当たっては、まずは、既存システムのマスターデータの中で、可視性/分析性が保たれた対応可能な範囲から部分導入を進め、発見した課題を解消しながら、将来的にデータ整備や管理方法の見直しにつなげていくアプローチが有効です。

Ⅴ おわりに

CFOおよびファイナンス組織がオーナーとして主体的に参画し、組織横断的なチームを形成しながら全社でZBBを適切に管理・運用することで、中期経営計画などの経営指標を即時に予算に反映し、コストに対する企業体質を変えることに役立つでしょう。

営業利益率の向上のような短期的な効果だけではなく、企業文化としてコスト意識を根付かせる長期的な効果を創出することがZBBの特徴です。

ZBBの効果を得るためには、導入に関する全社的な賛同が不可欠であり、ある程度、トップダウンでの推進が効果的と考えます。

※ V:Volatility(変動制)、U:Uncertainty(不確実性)、C:Complexity(複雑性)、A:Ambiguity(曖昧性)

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サマリー

EYが提唱するZero based Budgeting(ZBB)の基本的な考え方、従来型予算との比較、構成要素ごとに対応アプローチを触れた上で、ZBB導入に当たっての実務上の問題点と対応策を考察します。

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