2022年1月5日
サイバー攻撃へ対抗するためのインシデントレスポンスの自動化

医療データ×AI×法整備による健康寿命の延伸と社会保障財政の適正化

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2022年1月5日

ビッグデータを分析することで法則性を見つけ出し、課題解決に貢献することが可能になります。「社会保障の財政の適正化」と「健康寿命の延伸」という社会課題に対し、ビッグデータ分析のテクノロジーを活用した課題解決の取組みについて紹介します。

本稿の執筆者

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) テクノロジーコンサルティング 忽那桂三

テクノロジートランスフォーメーションユニットのパートナーとして、さまざまな業界においてテクノロジーを活用し社会・ビジネス課題を解決するコンサルティング支援に従事している。

 

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) テクノロジーコンサルティング 津屋隆之介

事業計画策定、事業再生、マーケティング、BPR等のプロジェクトを多数経験し、近年は政府機関を中心に政策課題に基づく法令改正・予算措置検討から業務標準化・システム化による課題解決まで一気通貫で支援している。

要点
  • 高齢化と社会保障費の増大という社会課題に対し、全国規模の医療等データとAI(機械学習)を組み合わせた、生活習慣病の重症化予防への取り組みをご存知でしょうか。
  • 医療データ×AIに基づいて、糖尿病ならびに人工透析のハイリスク者を予測し、地方自治体の保健指導へ還元することによる、医療費適正化への支援を説明します。
  • 公益に資する分析・研究事業の更なる促進のため、民間企業(製薬・保管・医療ベンチャー等)による上記データの活用のあり方を説明します。

Ⅰ はじめに

EYのPurpose(理念)、Building a better working world(より良い社会の構築を目指して)を踏襲してEYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)のテクノロジーコンサルティングのユニットであるテクノロジートランスフォーメーションは、「CIOと共にテクノロジーを活用して社会・ビジネス課題を解決する」というPurposeを掲げています。私たちの有するテクノロジー知見を最大限に活用してEYのPurposeを体現していきたいという私たちの願いが込められたものです。

テクノロジーを活用することで日本社会、国民の課題に向き合い、課題とその裏側にある原因との間にある因果関係を解消するためのヒントを得られます。例えば、大量のデータを分析することで事実を明らかにして法則性を見つけ出すことで、その解決に貢献することができるのです。

本稿では、クライアントが心から解決を願っている社会課題に対して、テクノロジーを活用した解決方法について紹介します。中でも、コラボレーションというEYならではの強みを生かしたクライアントの支援事例として、「社会保障財政の適正化」と「健康寿命の延伸」という社会課題への取組みを紹介します。

Ⅱ 背景となった社会課題と解決の試み

日本は他国に類をみない速度で高齢化が進んでおり、相関して社会保障費も増え続けています※1。社会保障費を構成する医療費について、その推移は2009年から19年にかけて約24%増加しています※2(<図1>参照)。

図1 医療費の推移(2009-19年)

特に、近年においては、高齢化が進む中で生活習慣と社会環境の変化に伴う糖尿病患者数の増加が課題となっています。医療費の内訳をみると、総医療費に対する生活習慣病10大疾病は約13%となっており、その内訳として、糖尿病・人工透析が過半数を占める勢いとなっています※3(<図2>参照)。

図2 医療費の構成(生活習慣病10大室病、外来)(2019年)

糖尿病は放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こしますが、その中でも糖尿病性腎症については、重症化し腎不全に陥ることで人工透析を要する状態となり、患者の幸せを奪い、医療経済的にも社会的にも大きな負担となります。そのため、国・地方自治体では、糖尿病性腎症重症化予防プログラムを改定・強化し、生活習慣病の重症化予防事業を展開しているところです※4

これらの事業への支援として、私たちテクノロジートランスフォーメーションユニットは20年より健診・医療・介護に関する公的データベースシステム(以下、当システム)のビッグデータを用いた機械学習モデルによる人工透析ハイリスク者の予測と地方自治体への還元支援を行っています。

当システムは全国規模の健診・医療・介護データが蓄積されているデータベースシステムであり、制度間の個人突合率が非常に高く、制度ごとのデータを個人単位で横串にした時系列分析が可能となっています。当システムは、地方自治体による保健事業(糖尿病性腎症重症化予防プログラム等)を支援するためのシステムとして開発・運用されており、その性質上、当システム内データを用いて重症化予防分析を行い、結果を自治体に還元して保健事業に資するものとすることが国ならびに自治体の理解を得られやすいといった特性があります※5

Ⅲ EYらしい課題解決への取組み方

本課題への取組みはEYの理念であるBuilding a better working world(より良い社会の構築を目指して)とコラボレーションカルチャーのもと、当ユニットとDnA(Data and AnalyticsというAI等の高度分析を専門とするユニット)の複数ユニットが事業予算を跨(また)いで手を取り合い、それぞれの専門性を提供することで、単一ユニットでは成し得なかったクライアントの複雑な社会課題を解決に導いた事例です。

当ユニットは10年より本領域の支援を手掛けています。法・診療報酬制度、審査支払業務や保健事業業務、当システムのデータ、医療ビッグデータの今後の活用の可能性と方向性に精通しており、法整備を始め、地方自治体への還元支援までの長い道のりを総合的に支援しています。

DnAは高度なAI・機械学習モデル構築、分析に精通しているだけでなく、医学的知見に基づく学習モデルの妥当性検証・評価を彼らの有するチャネルによって招聘(しょうへい)された医学有識者アドバイザーによって実施しました。

EYらしいコラボレーションによりクライアント実務とアカデミックな観点を両立させたことで、実運用に耐えるモデル(日次業務・月次業務等)の構築を実現し、高品質な支援を提供しています。

Ⅳ 今後の取組み方針と展望

本事例をきっかけとして民間企業(製薬・保険・医療ベンチャー等)に対しても、健診・医療・介護ビッグデータを公益に資する分析や貢献活動への利用目的を前提としてのデータ借用プロセス・標準の整備が進んでいます。

今後は本プロジェクトを遂行する上で培った知見をもとに民間企業(製薬・保険・医療ベンチャー等)による当該ビッグデータの利活用機会を開拓し、日本の医療情報分析・社会課題の解決の一助となるべく、今後も邁(まい)進していきます。

Ⅴ おわりに

当該ビッグデータの利活用については日進月歩で変化しており、当社でもその変化に迅速対応して現在クライアントと利活用プロセス・標準の整備について議論・支援しているところです。引き続きEYとして医療を通じて積極的に社会課題の解決を図ろうとされているさまざまなクライアントのお役に立ちたいと考えています。本取組みについては、ぜひお気軽にご相談ください。

※1 財務省「なぜ社会保障費は増えるのか」
www.mof.go.jp/zaisei/aging-society/society-increase.html

※2 総務省統計局「医療費の動向調査」
www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450399&tstat=000001040815&cycle=0&tclass1=000001040868&tclass2=000001143766&tclass3val=0

※3 健康保険組合連合会「令和元年度 生活習慣関連疾患医療費に関する調査」
www.kenporen.com/toukei_data/pdf/chosa_r03_06_01.pdf

※4 厚生労働省「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」
www.mhlw.go.jp/content/12401000/program.pdf

※5 当システムデータは全国の市町村から収集したビッグデータであり、所有権は市町村に帰属している。そのため、全国データの利活用には全国的なアナウンスを踏む等の手続きをとった上で分析に用いている。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2022年新年号 EY Consulting」をダウンロード

サマリー

ビッグデータを分析することで法則性を見つけ出し、課題解決に貢献することが可能になります。「社会保障の財政の適正化」と「健康寿命の延伸」という社会課題に対し、ビッグデータ分析のテクノロジーを活用した課題解決の取組みについて紹介します。

情報センサー2022年新年号

情報センサー
2022年新年号

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

 

詳細ページへ

関連コンテンツのご紹介

コンサルティング

クライアントの皆さまが変革の時代(Transformative Age)にもさらなる飛躍を目指し成長し続けられるよう、EYの優れた連携力を持つコンサルタントが支援します。

詳細ページへ

ヘルスケア

私たちは、ヘルスケアセクターを描き直すだけでなく、その再構築を支えていきたいと考えています。

詳細ページへ

ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネス

ヘルスケア・ライフサイエンス業界が、データの持つ力を引き出し、個別化されたヘルスアウトカムを実現できるよう支援します。

詳細ページへ

この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.