JCMクレジットの創出に向けては、上述の取り組みに加え、「2025年を目途にパートナー国を30か国程度とする」政府方針14が掲げられました。これを受けてパートナー国は2022年以降大きく増加し、2024年5月末現在で29か国に達しています6。また、本記事の冒頭でも触れたようにGX-ETSでJCMクレジットが活用可能とされたほか、その取引の東京証券取引所における実施が検討されている15など、JCMクレジットの用途拡大や流動性・価格の予見可能性の向上も図られつつあります。
一方、他国の状況に目を転じると、スイスやシンガポール等もパリ協定に基づく二国間制度を創設しカーボンクレジットの創出を目指しています。このため、一部のJCMパートナー国においてはこれらの他国との間で、カーボンクレジットを創出可能な案件をめぐる競合関係が生じることも考えられます。パリ協定下でのルール策定をリードしてきた日本は、2022年に立ち上げた「パリ協定6条実施パートナーシップ」16等の場で他国との協調を図っていますが、他国制度との関係については今後の動向が注目されます。
また、このようなJCMに直接関わる変化とは別に、カーボンクレジット全般に関する動向の変化もJCMに影響を及ぼす可能性があります。JCMプロジェクトはこれまで、主として環境省の設備補助事業を通じて組成されてきたという経緯から、再生可能エネルギーの導入をはじめ、同事業の補助対象であるエネルギー起源CO2排出削減プロジェクトが大半を占めてきました12。しかし、カーボンクレジットに関する近年の世界的な動向として、企業が排出削減を進めてもなお残る排出量のオフセットには、排出の削減ではなく、吸収・除去プロジェクトにより創出されたカーボンクレジットのみを活用可能とすべきであるとの声が高まっています。ただし、一部の国際イニシアチブでは逆に、企業のスコープ3排出量の削減に関してカーボンクレジットの活用範囲を拡大しようとする動きも見られます17。