2022年7月7日
社会的責任から経営課題へー日本企業の取るべきポジショニング戦略

社会的責任から経営課題へ-日本企業の取るべきポジショニング戦略

執筆者 牛島 慶一

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader

サステナビリティの分野で活躍。多様性に配慮し、プロフェッショナルとしての品位を持ちつつ、実務重視の姿勢を貫く。

2022年7月7日

環境課題は、企業のCSR(社会的責任)から経営課題へと変化しつつあります。

サステナビリティ戦略を経営課題と異なる課題とするのではなく、経営課題と同じロジックで読み解き、同等のものとして取り組むことが重要です。

要点
  • サステナビリティ戦略を、経営課題と並行に扱うのではなく、経営課題と同じロジックで読み解き、同等の課題として取り組むことが重要。
  • 企業のポジショニングとして、リーダー・ニッチャー・フォロワーのポジショニングが考えられる。
  • 世界で最も早く少子高齢化を迎える課題先進国である日本には、世界に先駆けたソリューションを生み出すポテンシャルがある。


環境課題を経営課題と同等のものとして捉えたとき、国内企業が選択し得るポジションが3つあります。

1つ目は、リーダーとしての戦略です。リーダーは業界の新しい競争秩序を作り、市場を拡大させていく役割を担います。サプライチェーンもブランドを構成している重要な要素として、環境や人権もブランド価値として事業戦略に活かしていくのです。例えば、自ら進んで環境や人権配慮のルール作りに関わり、認証制度を作りラベリングすることで新たな市場を創造し、先行者としての優位な立場を築くことが可能になります。ただしこの戦略を取りやすいのは、業界全体に影響力を行使できるトップ企業が主になるでしょう。

2つ目は、ニッチ(すきま)分野のリーダーを目指す、ニッチャーとしての戦略です。全方位の大手企業は全ての製品やサービスにおいて、環境や人権配慮を実現することが困難になります。その点、ニッチャーは小回りが利くため、いち早く環境や人権配慮の差別化を図り、他社が手掛けていない分野でトップを目指すことが可能になります。こうした戦略を取る企業は、これから増えてくると想定されます。

その他はフォロワーになります。これは上記2つの戦略を後追いする企業です。ただ、経営者のマインド1つでポジションを変えることができます。むしろ、他社に先駆けてサステナビリティに関する政策や業界のルールづくりに積極的に関わっていくことができれば、規制や市民社会の支持を背景に、自社の競争優位性を築くことができます。さまざまな国の環境規制の背後には、必ずしもリーダーでない企業が、ロビイングやダイアログを実施していることがあります。リーダーのルール作りに関わるという戦略だけでなく、非政府団体(NGO)や市民社会を味方に、自社の強みを競争に優位な立ち位置を築くという戦略も考えられるでしょう。戦略的な姿勢で臨めば、いずれリーダー、ニッチャーへの道も開かれていくかもしれません。

課題先進国、日本ならではの戦略立案

日本は先進国で最も早く少子高齢化に直面する課題先進国であり、地政学的リスクも大きい国です。それ故に、キャスティングボードを握れる可能性があるほか、これらの課題を逆手に取って、世界に先駆けたソリューションを提示する日本企業も出てきています。昔からの日本の生活習慣として循環型の仕組みが組み込まれている領域も多く、物を大切にする意識も高かった国民性です。牛乳瓶やビール瓶は昔からリサイクルしていましたし、ごみの分別行動も広く普及しています。技術だけでなく、こういった生活様式やソフト面のエッセンスもサステナブルな領域で活かせる可能性は十分にあり、日本が世界に貢献できる分野でもあるでしょう。

また、企業城下町という言葉がある通り、もともと社会的な視点を包含した理念や組織文化が醸成されている企業も数多くあります。ただ、「日本企業には三方良しの精神がある(のでこのままで良し)」では、思考停止に終わります。そうした企業も、現状維持を良しとせず、現代社会に則して理念を再解釈することで、サステナビリティを戦略の原動力として活用していくことが可能になります。

制度対応などの外的動機のみでサステナビリティ戦略を進めようとすると、受け身で外形的な対応にとどまりがちで、常に後追い、すなわち世界からは半歩あるいは一歩出遅れる形になります。

サステナビリティ課題を経営戦略の一環として捉え、独自の文化や特性を他社との差別性あるいは強みに、新たな競争上のポジションを築くことで、受け身の経営から攻めの経営へと進化させることができます。経営は、法に違反しても継続できますが、社会からの信頼を得られなければ、持続できません。すなわち、社会から支持される経営こそ、持続可能な経営となります。真の内的動機からのサステナビリティ戦略とは、企業に内在するものだと考えられます。EYは、クライアントの持つ社会性や無形の価値を明らかにし、多様なステークホルダーから支持される経営の実現を、サポートしています。

グローバルな視点とローカルな感性で持続可能なビジネスを実現する

EYの気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)には、現在全世界に2,300人以上のアドバイザリーがおり、このメンバーを中核として、経営戦略、M&A、IRの各分野のアドバイザーと連携を図りながら、総合的な検討を進めていきます。欧米が先行するサステナビリティ分野において、日本に十分なケースがない場合でも、グローバルの知見や経験を日本に集約させることが容易なので、すぐにクライアントの経営陣の期待に応える体制を築くことができます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)や地政学上の要因を発端としたエネルギー問題など、近年の国際動向は、社会と自社の持続可能性の観点から何を地産地消すべきで、何をどこと協業すべきかなど、企業にサプライチェーンを再考するきっかけを与えました。この状況は「機会」でもあります。EYの持つグローバルな視点と、日本で活動する私たちのローカライズした感性の両面から、クライアントに合った最適な知見を提供し、クライアントと共により良い解決策を構築し、日本発の持続可能なビジネスのあり方を世界に提案したいと考えています。

サマリー

効果の高いサステナビリティ戦略立案には、経営戦略と整合した取り組みが必要です。その際には、自社独自の文化や特性を生かした検討により、動機を内在化することが重要であり、グローバルな視点・人材を持ちながら、日本企業に固有の特性や強みを十分に理解した戦略立案をしていかなければなりません。

この記事について

執筆者 牛島 慶一

EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader

サステナビリティの分野で活躍。多様性に配慮し、プロフェッショナルとしての品位を持ちつつ、実務重視の姿勢を貫く。