2022年6月17日
医薬エコシステムが価値を生む「ライフサイエンス4.0」の世界

医薬エコシステムが価値を生む「ライフサイエンス4.0」の世界

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

2022年6月17日

ライフサイエンスとデータサイエンスの融合が、医薬と医療の未来に新しい道を切り開く。少子高齢化と社会保障費の増大が加速していく中、膨大なデータを基に、より個人に最適化した医薬・医療の提供を追求することが、持続可能な医療体制を実現する鍵を握ります。

要点

  • 「創薬大国」に向けて、満たされない医療ニーズの克服を。
  • 医療ビッグデータの活用で「個別化医療」実現へ。
  • EYが創る新しい医薬・医療プラットフォーム。


ライフサイエンスとデータサイエンスの融合が、医薬と医療の未来に新しい道を切り開く。少子高齢化と社会保障費の増大が加速していく中、膨大なデータを基に、より個人に最適化した医薬・医療の提供を追求することが、持続可能な医療体制を実現する鍵を握ります。EYが考えたのは「ライフサイエンス4.0」。多様なプレーヤーが活躍する医薬・医療プラットフォームの構築です。最前線に立つコンサルタントに話を聞きました。

「創薬大国」に向けて、満たされない医療ニーズの克服を

日本は健康長寿大国を目指していますが、少子高齢化が進むとともに医療ニーズは増大し、また社会保障財政も逼迫しています。医薬品に関わる業界としては、どのような課題があるのでしょうか。

いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を目前にして、日本は本格的な超高齢社会の時代を迎えようとしています。当然のように病気になるリスクも上がり、特にがん、認知症のような中枢神経系疾患などに対する薬剤治療のニーズが増していくでしょう。また、患者数は少ないものの治療の必要性が高い、希少疾患に対する治療薬の開発も課題です。

このように現在はまだ有効な治療法がなく、十分に満たされていない医療ニーズを「アンメット・メディカル・ニーズ」といいますが、QOL(Quality of life)改善のために、これらに応えていくことが求められています。同時に、医療費を抑制しながら、いかに持続可能な医療体制を整えていくかが、行政だけでなく、われわれコンサルティングファームを含む民間の医薬関連事業者にも必要とされる姿勢です。

 

製薬業界にはどのような動きが期待されていますか。

2021年9月に厚生労働省が、「医薬品産業ビジョン」を策定しています。それによると、ゲノム創薬やビッグデータ利活用、サプライチェーンのグローバル化など医薬品産業の変化を踏まえ、有効性・安全性に優れた医薬品を、健全な市場で安定供給できる「創薬先進国」を目指すとされています。

一方で、製薬業界ではかつてに比べて革新的な新薬の創出は格段に難しくなったともいわれ、研究開発における効率性の低下が指摘されています。もはや一企業で対処するには限界があり、産官学の連携や、メーカー同士の合併、あるいは異業種とのコラボレーションなどを模索しながら、一種の新しいエコシステムを形成するような動きも見られます。

革新的創薬は確かに困難ですが、がん治療における免疫チェックポイント阻害剤や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンに使われて話題となったメッセンジャーRNAの技術など、世界的なイノベーションを生み出すこともまだ不可能ではありません。各社ともそこに向けてしのぎを削っているのが現状です。

 

医療ビッグデータの活用で「個別化医療」実現へ

医薬品の未来という観点からすると、具体的な方向性はありますか。

「個別化医療」はキーワードとして1つ挙げられますね。同じ病気の患者には同じ薬を投与するというのが従来の治療でしたが、その効果や副作用の現れ方は人によって異なります。そうした個人差には遺伝子やたんぱく質など分子レベルの情報が関わっていることが最近の研究で分かってきて、これを応用すれば患者ごとに個別化された、より適切な医療を提供できるだろうといわれています。例えば、その人の病因に関係する特定の分子をターゲットにした薬剤を使うことで、より早く確実に効果が現れる。そうすれば、早期治療によって医療費の削減にもつながるでしょう。

これを実現するには、遺伝子解析などの先端技術に加えて、医療データの利活用が欠かせません。「リアルワールドデータ(RWD)」という言葉を聞いたことがありますか? 臨床現場から日々得られる医療データの総称で、患者ごとの電子カルテ、レセプト、検診データ、患者レジストリなどを集積した、いわば医療版ビッグデータです。こうした情報を蓄積し、解析することで、患者の実態により即した治療や薬剤の研究開発に生かせるものと期待されています。

これまでも医薬品が発売される前には有効性や安全性を証明するための臨床試験があり、発売後も副作用などに関する調査が行われてきました。最近ではそうした初めから研究開発を目的として収集したデータだけでなく、病院における日常的な診療の実態を映す、例えば複数の疾患を抱える患者に投薬したときの副作用や、明確な診断ができない場合の試行錯誤の記録といった、ある意味で不確実な情報も網羅した膨大な量のデータから、研究開発の有益なヒントを導き出そうという流れにあるわけです。

すでに厚生労働省がレセプトデータベース(NDB)を公開し、国が全国の医療機関と連携して診療情報をデータベース化した「MID-NET」の本格運用も始まっています。ですが、そうした公的情報だけでなく、製薬企業やデータプラットフォームを提供する企業などが持つデータ、あるいは個人が身につけるウェアラブルデバイスから得られる日常的な健康記録や行動データなども、重要な情報源となっていくでしょう。

個人情報保護やセキュリティの観点も踏まえながら、それらのデータをどこからどう収集し、どのように結びつけてどう運用していくのか、これからの大きな課題です。

 

EYが創る新しい医薬・医療プラットフォーム

最大限にデータを活用しながら、個別最適化された医療・医薬品を提供する。そのためにコンサルタントにできることは何でしょう。

製薬会社をクライアントとすれば、薬の有効性・安全性をより明確に証明するエビデンスの作成や創薬にRWDを生かしていくこと、また研究開発の効率性を高め費用対効果を上げるために、先ほど申し上げたアライアンスやエコシステムの形成をご支援すること、などが挙げられると思います。

ただ、これからは1つの企業や業界の利益を追求するだけでは不十分です。大事なことは、患者を中心に据えた医療というものをどう実現していくか。患者が病気を認識してから治療を終えるまでの体験や感情の流れをたどる、いわゆる「ペイシェント・ジャーニー」の観点も踏まえ、医療サービスの在り方を考えなければなりません。RWDの活用も個別化医療もそのためにあるわけで、ひいては病気にかからないよう予防する、未病のうちに対処するためにこそデータを生かすべきでしょう。

そうした考えから、EYではデータ活用による新しい医薬・医療プラットフォームの実現を構想する「ライフサイエンス4.0」を提唱しています。ここでは病院や製薬会社などの医療事業者はもとより、自治体や学術研究機関、AIなどの新しいテクノロジーを持つスタートアップ企業なども交え、多種多様なプレーヤーの連携と、それらが持ち寄るデータによって、今までにない新しい医療ソリューションの提供を目指します。すなわちそれが、私たちがご支援したいと考えているエコシステムの形です。

それを実現するだけのアドバンテージが、EYにはあるということですね。

そうであると自負しています。「ライフサイエンス4.0」は端的にいえば、ライフサイエンスとデータサイエンスが融合する世界です。EYにはそれぞれの知見に長けた専門家に加えて、全体の戦略づくりを担うチームや、DX(デジタルトランスフォーメーション)など組織変革の専門チーム、個別化医療の進展に伴い複雑化するサプライチェーンの変革に通じたチームなどがあり、それらの連携で全方位の体制を取っています。つまり、EY自体が、1つのエコシステムであるともいえるのです。

もう1つ大事なこととして、こうした構想や体制を支える根底に、EYが全世界共通のパーパス(存在意義)として掲げるBuilding a better working world(より良い社会の構築を目指して)の理念が浸透していることを挙げておきたいと思います。私自身、他のファームからEYに移って約1年半になりますが、このパーパスに共鳴したことが大きな転職理由の1つでした。ここまで真摯に「社会課題」と向き合うコンサルティングファームを他に知りません。
ですから、これからここで一緒に働く仲間にも、同じようにEYのパーパスに共感していただけることを望みたいと思います。自分1人でできることは限られています。多様なチームやメンバーたちと連携し、より良い医療の実現のために働きましょう。

サマリー

EYではデータ活用による新しい医薬・医療プラットフォームの実現を構想する「ライフサイエンス4.0」を提唱しています。ここでは病院や製薬会社などの医療事業者はもとより、自治体や学術研究機関、AIなどの新しいテクノロジーを持つスタートアップ企業なども交え、多種多様なプレーヤーの連携と、それらが持ち寄るデータによって、今までにない新しい医療ソリューションの提供を目指します。

この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

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