電子移転可能型のうち、残高譲渡型については譲渡可能な未使用残高の上限設定などを事業者に義務付けるといった内閣府令などの改正がなされています。一方、番号通知型については同様の対応は求められていないものの、番号通知型に関する不正利用や不正転売の事例があるとも指摘されています。また、国家公安委員会による「犯罪収益移転危険度調査書」に電子マネーが含まれており、例えば、数千万円のチャージが可能なプリペイドカードが存在することから、前払式支払手段でも高額取引が可能であることなどが指摘されています。
前払式支払手段について検討された規律の在り方の主なポイントは次の通りです。
- 残高譲渡型は譲渡額、番号通知型はチャージ額に着目し、1回当たりの譲渡額・チャージ額が10万円超、または1カ月当たりの譲渡額・チャージ額の累計額を30万円超、という水準を高額の範囲とすることが考えられる
- 譲渡・移転を反復継続して行うことでマネー・ロンダリングなどへの悪用のリスクが高まることから、高額の前払式支払手段の発行者には、資金決済法上の登録申請書への記載や、業務実施計画の届け出を求め、当局によるモニタリングを強化する
3. AML/CFTの高度化・効率化に関する事項
FATFによる「第4次対日相互審査」における結果を受け、継続的顧客管理の一環である「取引フィルタリング」や「取引モニタリング」の高度化・効率化が、各銀行等における検討課題となっています。一方、中小の銀行等にはシステム整備や人材確保などの課題があることを踏まえ、全国銀行協会においてAML/CFT 業務の共同化に向けた検討が進められています。
報告書では、当該業務を共同機関が代行することに意義があるとした上、その場合の規律の在り方について整理しています。主なポイントを記載します。
- 銀行等が取引フィルタリングと取引モニタリングを共同機関に委託することができる
- 共同機関は専業とする(銀行等に対するAML/CFT研修など、一部の関連業務の兼業は認められる)
- 各銀行等は銀行法などに基づいて委託先業務の管理・監督を行うが、一定規模以上の共同機関に対しては業規制を導入し、株式会社形態を基本とするといった参入要件のほか、情報システムや個人情報などを適切に管理できる態勢整備などを求める
- 共同機関は個人情報取扱事業者と同様、個人情報保護法に基づく各種規制・監督などに服する
- 共同機関が各行から受領した個人データを各行別に分別管理し、取引の分析結果を当該行のみに通知している場合、当該行はあらかじめ利用者の同意を得ることなく個人データを共同機関に提供できると考えられる
- 共同機関の分析能力向上のため、機械学習用データセットとして用いる場合、特定の個人との対応関係が排斥された形(個人情報ではない形)で共有できると考えられる
Ⅲ. 改正法の概要
報告書を受け、資金決済法、銀行法、金融商品取引法、犯罪収益移転防止法などに関する改正法案が作成されました。主なポイントは下記の通りです。
1. ステーブルコインに関する事項
- 資金決済法にて、デジタルマネー類似型のステーブルコインを「電子決済手段」、これを仲介する業者を「電子決済手段等取扱業者」と定義し、当該業者を登録制とする
- 電子決済手段等取扱業者には、暗号資産交換業者と同様の業務規制(情報の安全管理、委託先に対する指導、利用者保護の措置、利用者財産の管理など)のほか、「金銭等の預託を受けること等の禁止」「発行者等との契約締結義務」を課す
- 電子決済手段を発行する銀行等または資金移動業者には、自身が発行する電子決済手段に係る電子決済手段等取扱業務を認める
- 銀行法にて、銀行の代理で電子決済手段を仲介する「電子決済等取扱業者」を定義し、当該業者を登録制とした上、「金銭等の預託を受けること等の禁止」「発行者等との契約締結義務」などの業規制を課す
- 金銭信託を用いる電子決済手段を認め、その信託受益権を「特定信託受益権」、それを発行する信託会社等を「特定信託会社」と定義している
- 特定信託会社には、特定信託為替取引に限り資金移動できる「特定資金移動業」を営むことを認める
2. 前払式支払手段に関する事項
- 電子移転可能型のうち、1件当たりの未使用残高、または一定期間の未使用残高の総額が高額であるものを「高額電子移転可能型前払式支払手段」と定義している
- 前払式支払手段発行者が、高額電子移転可能型前払式支払手段を発行する場合、未使用残高の上限額や、使用する電子情報処理組織の管理方法などを記載した「業務実施計画」の届出義務を課す
3. AML/CFTの高度化・効率化に関する事項
- 複数の金融機関等から委託を受けて為替取引の分析を行う者を「為替取引分析業者」と定義し、これを許可制とする
- 為替取引分析業者は株式会社か一般社団法人であることを前提とし、許可申請書類には定款や財務諸表のほか、取り扱う情報の種類や管理などを定めた「業務方法書」の添付が必要である
- 為替取引分析業者は、為替取引分析業と関連業務以外の兼業は不可とする
Ⅳ. おわりに
今後の動向として、6月に法律が成立した場合は同年冬ごろに政令、省令、監督指針などの草案が公開されることが通例です。公布から1年以内に施行される予定ですが、具体的要件が明らかになるまでしばらく時間を要します。
技術の進展により新たなリスクへの対応が求められる一方、ガバナンス強化の施策として活用することも期待されています。金融機関には高度なガバナンスが求められる中、参入企業としては既存の金融サービスに係る規制の内容を参考にしながら態勢整備を進めることが肝要となります。