こうした文化の変革を後押しできる実用的な方法の1つが、データを収集・解析する先進テクノロジーの導入です。特にロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の利⽤は、⼈⼯知能(AI)で報告業務の質をさらに高めながら、データ収集など時間がかかるタスクの効率化を図ることができます。
しかし、財務部門ではこのようなテクノロジーがまだ浸透しつつある段階にすぎないことが、調査結果からはうかがえます。調査対象となったファイナンシャルコントローラーのうち、コーポレートレポーティングのデータ収集を自動化するソリューションを適切な規模で導入していると回答としたのは30%にとどまり、AIの使用が一般的に有益とされているタスクにAIを活用していると答えた割合は、これをさらに下回りました。
また、こうしたテクノロジーが生成したデータを評価し、それが信頼できるものであることの確認を要するといった問題もあります。例えば、調査対象となったCFOの60%が、AIが生成するデータの質を通常の財務システムのデータと同じように信頼することはできないと回答し、66%は世界の規制環境はまだAIの進化に追いついていないと答え、75%はAIのガバナンス、管理対策、倫理的枠組みを整備し充実させる必要がまだあるとしています。
このような懸念に対処し、AIシステムへの信頼を築くため、今回の調査報告書では、財務部門のリーダーに以下4点の省察を提言しています。
1. コーポレートレポーティングに利用される非財務データ・情報関連を中心に、組織内のどこでAIテクノロジーが活用されているか知っているか?
2. 信頼・倫理⾯の問題を含めたAI関連プロジェクトのチームを率いて管理するスキルを持つ⼈材を採⽤し、そのような人材をつなぎとめるための⼈材戦略はあるか?
3. AIの導入が財務部門のインテグリティとその財務・非財務情報の開示にどのような影響を与えているかについての評価を行ってきたか?
4. 財務チームは倫理問題を適切に管理する態勢を整えるとともに、アルゴリズムバイアスにどのように対処すべきかを把握しているか?
企業文化の報告:今後の展望
調査報告書では、コーポレートレポーティングで企業文化が担う重要な役割を全うさせるために取るべきアクションとして、以下の3つを提言しています。
1. 企業文化の報告に向け、包括的なアプローチを検討する
特に重要なステップが4つあります。まず、文化に関連する一連のリスクに着目するとともに、従業員が抱く信念の相関図を作成して全体を把握します。次に、現在の文化と望ましい文化の特性を根付かせるために従業員が守っている行動、価値観、信念を明らかにし、文化的規範や文化の微妙な違いを評価します。3番目に、その行動、価値観、信念が組織の業績にどのような影響を与えているかを評価します。最後に、その結果と洞察から、リーダーが取ったアクションに関する情報を正確に伝えることができ、報告の根拠となる指標とダッシュボードを選別します。
2. 人材構成を変えて、財務部門の文化変革を促し、抵抗に打ち勝つ
財務部門の文化は、長い年月をかけて深く根付く傾向にあります。変革への抵抗に打ち勝ち、持続的な文化変革を推し進めるには、財務部門のリーダーが新たなアイデアと勢いをチームに注入する必要があります。財務と報告業務の人材構成を変えることで、文化変革を大きく推進させることができるかもしれません。
3. AIに倫理的なアルゴリズムを組み込み、信頼性を確保する
ガバナンス・倫理基準を設けて、AIに対する信頼を育まなければ、AIテクノロジーが持つ可能性を財務と報告業務で最大限に活用できなくなる恐れがあります。AIシステムの導入にあたっては、あらゆる面での信頼性の確保に事前に取り組まなければなりません。このような信頼性の確保は、システムの戦略的目的、データの収集・管理の完全性、モデル研修のガバナンス、システムとアルゴリズムのパフォーマンスの監視に⽤いる技術の厳格性といった面にまで及びます。
EY Global and EY EMEIA Financial Accounting Advisory LeaderのPeter Wollmertは、次のように結論づけています。「コーポレートレポーティングにおいて文化が果たす役割を認めることにより、財務部門のリーダーは投資家などのステークホルダーが求める透明性を提供することができます。同時に、本当に信用ができて責任ある開かれたコーポレートレポーティングを基盤とした、新時代の信頼を築くことができるのです」